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黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅰ章 ~ゴルデニア大陸編~
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魔力操作と封印術式


一般用と貴族用の列車を乗り間違えた俺は、ひょんな事からグラーゼンの令嬢、ルージュに魔術を教える事になった。



「では、さっそくルージュに魔術を教えていく!」



「はい、クロ先生!」



ルージュは嬉しそうに、元気よく右手を上げて返事をする。



「まず、ルージュは魔術についてどこまで知ってるのかな?」



「えっと、学園で基礎的な部分やその歴史は学びました!」



王侯貴族は学園通いが義務付けられてるから、知識はあるのか。



「一応、実技の一環で初歩ですが、自分の魔力を感じる事は出来ました。

でも、その先にどうしても進めなかったのです……

だから魔力操作が苦手なのだと思って必死に練習を重ねたのですが……」



「なるほど、自分で自分の欠点を分析するのは良い事だな」



少し落ち込んだ表情を浮かべたが、褒めてみるとえへへっと笑みを浮かべる。やっぱり小動物だな、この子。



「なら話は早い。 魔力操作をやってみよう!」



カレンの時と同様に両手を前に出し、自分の手を重ねるよう指示する。



「前に経験してるかもしれないけど、少しずつ俺が魔力を流していくから、改めて自分の魔力を感じ取る意識をしてみようか」



そしてクロビは少しずつルージュに魔力を流していく。



「――っ! 何だか温かく感じますね! これがクロ様の魔力ですか?」



「そうだよ。 じゃあ次は自分の魔力を感じてみよう」



「へその下あたり、ここを丹田って言うんだけど、武闘派の連中はここから気を練ったりするんだ。 勿論、魔力もそこが起点になる」



「そういえば学園の先生もそう言ってましたね! えっと、丹田、丹田……」



「目を閉じて魔力を感じる意識をしてみよう、その間俺もユージュの丹田に向けて魔力を流してみるから」



「分かりました!」



そう言ってルージュは目を閉じて一生懸命魔力を探った。


ん~、ん~っと声を出しながらも少しずつ自分の魔力の場所を探している。


すると――


「あっ!」目を閉じたままだが、何かを発見したようにルージュが声を発する。



「感じ取れた?」



「はい! 久々でしたが、クロ様の魔力は熱を持っていて、私の魔力は冷たい感覚ですね」



「ちゃんと感じる事が出来たみたいだな。 魔力は人それぞれ感じ方が違うらしいからそれで正解だ」



「良かった、まだここまでは出来ました!」



「じゃあ本番だな。 さっきは俺が魔力を流してたけど、今度は自分だけで自分の魔力を感じるんだ」



「はい、やってみます!」



ルージュは再び目を閉じ、意識を集中させ、数分後――



「冷たい……ちゃんと感じられてます! 私の魔力!」



「よし、そのまま身体全体に巡らせるイメージで動かすんだ。 血の巡りが分かりやすいかな」



「はい、少しずつ……っ、ん~んっ! んっ!」



ぷはぁっ!っと止めていた息を吐き出すようにルージュは少し前屈みになった。



「ど、どうしてでしょう……昔と同じように全然動いてくれません……」



呼吸を整え、やっぱりダメなのでしょうか?と涙を少し浮かべて不安気にクロビの顔を見上げる。



魔力は感じられるのに操作が出来ない……いや、恐らく操作自体の方法は間違ってないはず。だとすると……何かしらの別の力が働いているのか?



「ルージュ、もう一回俺が魔力を流しても平気か? もしかしたら原因が分かるかも」



「本当ですかっ!? ぜ、ぜひお願いします!」



クロビは再びルージュの手を取り、自分の魔力を流す。今度はルージュの体全体に行き届くように。


すると、体内で魔力が蓄積される場所、言わば器となる部分に異なる魔力を感じ取る事が出来た。


恐らく、本人が気付かない時に何者かが魔力を練れなくする為に封印の術式を施したのだろう。



「ルージュ、今まで操作出来なかったのは必然だったみたいだよ」



「え? どういう事ですか? 何か分かったという事でしょうか?」



「そうだね。 なんて説明すれば分かりやすいかな……あっ、良いのがあった!」



クロビは売店で買った紅茶を手にする。


「それは、携帯用の紅茶パックですね」とルージュは不思議そうにそれを見つめる。



「これは学園でも習ったと思うけど、魔力を持つ生き物は必ずそれを蓄積させる器がある」



「はい、習いましたね。 魔物の場合は核があって、そこから魔力を巡らせる、と」



「そう、それでこの紅茶のパックがルージュの魔力の器だとするよ? 勿論、その中身の紅茶が魔力ね! これをストローで吸い上げると外に出ていき、身体を巡る様になる」



「あっ! パックを使うと分かりやすいです!」



ルージュはパックを使った説明に嬉しそうに相槌を打つ。



「で、だ! ルージュの場合、この口を付けるストローの先端に蓋がされている状態なんだよ。 だから吸っても吸っても紅茶が出てこない。 つまりはいくら魔力を引き出そうとしても、進みたい道が閉ざされているんだ」



「それって……」



「恐らく、何者かに魔力を練れない状態にされていたようだね。 

そして、それが出来るのは……ルージュの両親、もしくは身近な存在の可能性が高いという事」



勿論、そうではない別の可能性もあるのだが、それはちゃんと調べないと分からない。



「そんな……でもお父様もお母様も私が魔力を練れない事は知ってますし、むしろそれを知った時は凄く悲しそうな顔をしてました。 

それに、それからお父様は過保護になったと言いますか…常に目の届く所に私を置いてました」



なるほど……でも今は完全に目の届かない所にいるんだけど、という事は言わないでおこう。



「で、では私はやはり魔術は扱えないままなのでしょうか……」



さっきまでは不安ながらも笑みを浮かべていたルージュだったが、それも絶望的な表情へと変わっていく。



「いや、俺ならそれを外せるぞ。 ただ、もしそれがルージュの親のものだったら、その後が大変になるかもな? 意図してという事もあるし。 だから、それでも!と覚悟があるなら外してあげるよ」



クロビの発言に少し戸惑いながらも徐々にルージュの瞳に強い意志が宿っていく。



「お、お願いします! 私はずっと魔術に憧れてました。 なので、きっと……きっとここで動かなかったら一生扱えないままで後悔する気がするのです! でしたら、私は今この瞬間をクロ様に捧げます!」



どうやら魔術への思い入れは相当なもののようだ。



「分かった。 じゃあ外すからもう一度魔力を流していくよ」



「お願いします」



三度クロビは魔力を流していき、ルージュの体内に巡らせていく。


そして、目的となる封印術式へ微小の黒炎を纏わせた。


クロビの黒炎はこうした使い方も可能であり、同時に自分の体内でも当然扱える為、例え毒物が混入してもそれを焼き尽くす事も出来るのだ。


次第に焼き尽くされていく異質の魔力を感じられなくなるまで待ち、そして消滅を確認する。



「よし、終わったぞ。 もう一度自分の魔力を感じ、巡らせてみて」



「もう終わったのですか!? たった数分ですのに……えっと、とりあえずやってみます!」



三度目の正直でルージュは魔力を感じ、少しずつ体内に巡らせる意識をした。


そして――



「ク、クロ様!? ま、ま、魔力、魔力がめぐ、巡って……信じられません! ち、ちゃんと出来てますよね!?よね!?」



ルージュはしっかりと自分の魔力を巡らせる事に成功したが、これまで全く出来なかった過去によって半信半疑となり、混乱を招いていた。



「ちゃんと出来てるそ。 コントロールは完璧だな!

だから一旦落ち着こうか?」



「は、はい! ふぅ~。 や、やりました……ほ、ほんとに、これま、で……ぜん、ぜん……出来なかった、のに……ふぇ~ん」



これまで魔術が扱えずに沢山バカにされ、それでも憧れを常に忘れず、諦めなかったルージュだ。 その達成感もそうだが、喜びも想像以上なのだろう。


嬉し涙で顔をくしゃくしゃにしながらクロビに勢いよく抱き着いた。



「クロ様、ありがとうございます! 本当に、本当にありがとうございます!」



「今日までよく頑張たな!」



そう言ってクロビもルージュの頭を優しく撫でる。



そして数分後――



「ご、ごめんなさい!? 私ったらつい嬉しくて……っ」



喜びに浸っていたルージュは父親以外の殿方の胸に飛び込んでいた事実に顔を真っ赤にしながら慌てて飛び退いた。



「気にしなくていいよ。 ルージュにとっては記念日だからな」



「記念日……そうですね!」



「その感覚は忘れないようにしろよ! 続ける事で馴染んでいくけど、まだ最初の一歩だからな。

後は魔術の本とか学園の教科書で地道に術式を覚えていけば行使出来るだろ」



「はい! はぁー、私の魔力……ふふっ」



まるで夢見心地のようにルージュは魔力を巡らせている。


が、嬉しそうなルージュを見てて気付かなかったけど、先ほどから座ってるイスやルージュの周囲がビシッ!メキメキっ!と嫌な音を立てていた――



「ルージュ……」



「は、はい? なんでしょう?」



クロビは少し考えながら、なるほどな、だからかー、とぶつぶつ言ってルージュに向く。



「ルージュの魔力、かなりの量を秘めてるんだな」



「私の魔力量ですか?」



「そう! 多分だけど、その魔力量を恐れて誰かが封印の術式を施したんじゃないかな?

さっきからルージュの魔力で椅子とか悲鳴を上げてるぞ」



まだ操作が完璧ではない魔力は行き場を失い、辺りに衝撃を加えている。



「あっ!た、大変!? どうしましょう!?」



「とりあえず魔力を器に戻すイメージで練り上げようか。 このままだとその内この車両が壊れるかもしれない」



「そんなっ! ん~ん~」



ルージュも慌てた様子で一生懸命暴走気味の魔力を静めていく。



「無事におさまったな。 これで一安心だ」



「すいません……つい浮かれてしまって……」



「まあ気持ちは分かるよ。 だから修練の時は外の方が良いかもな! ルージュは俺が出会った中で一番の魔力量だし」



「そんなに多いんですか?私の魔力。 自分では分からないのですが……」



「相当だね。 まあ俺よりは少ないけど、それでも魔力量だけならどこぞの国の筆頭くらいはあると思う」



「分かりました。 では、扱う時は細心の注意を払いますね!」




とりあえず、ルージュの魔術特訓はこれで終わりだな。


後は学園でどうにか学んでいくだろう。あの高飛車なお嬢様も驚きそうだ!


その場面を見れない事がちょっと残念ではあるが、いつか再会した時に聞いてみるかな。




こうして列車の旅は終わりを告げ、二人は無事に『湾岸都市クルッシュ』へと到着した――


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