エピローグ
カラン!
カラン!
仮面の断罪人がアーバロンと協定を結び、三カ月が過ぎた頃。
「おめでとー!」
「素敵! 綺麗!」
エマーラル大陸、水の都グラーゼンでは第一王子ゼオールと、イーリス国の第一王女メイリーンが結婚式を上げていた。
ゼオールは真っ白な礼服を着て、メイリーンは純白のドレスで二人が魔導駆輪に乗って街中をゆっくり走って行く。
「クロ、来れなかったのかな?」
「クロか。 仮面を被って忙しくしているのだろうね」
「まあ仕方ないか……」
メイリーンが少し残念そうな表情をしながらもまるでパレードの様に集まった人々へと手を振って行く。
すると、上空に大きな影が浮かんだ。
「あれは?」
「仮面……もしかして!?」
ブォン!ブォン!っと音を立てながら魔導飛空艇から魔動機に乗った仮面の集団が現れると、周囲を飛び回りながらも色とりどりの花弁を撒いていく。
「わぁ! 綺麗!」
「ははっ、クロめ……粋な事をするな!」
そして魔動機が二人の横へと付く。
「ゼオ、メイ、おめでとう」
「ありがとう、クロ。 来ないかと思ったよ」
「うん! でもこんなサプライズ、ずるいよぉ!」
うえ~んっと涙を流してメイリーンが喜ぶ。
「まあ、色々あってな! 間に合って良かった」
「メイ、ゼオ、二人ともおめでとう」
「わぁ~、リース!」
メイリーンはリースの手を取るとブンブン振って喜ぶ。
「おい、あの二人……仮面の断罪人の知り合いだったのか!?」
周囲の民達がざわざわとし始めたのだが、そもそもエマーラルの戦争時に仮面の集団が救世主となっていた事を皆は知っている。
だからこそ、より一層お祝いムードとなり、国民皆が二人を祝福した。
「―数多のマナよ、誓いの下に結ばれし者達に祝福の光を与えん!
≪魔女の祝福!」
今度はエリネールが魔法を放ち、多彩な花火が打ち上がった。
「うぅ、びんな……ありがどぉ~」
大量の涙を流しながらメイリーンが感謝を伝える。
「クロ、我等エマーラルの各国も仮面の断罪人の加盟国とする。
既に旗は上げ済だ」
よく見ればグラーゼンの城にはグラーゼンの旗と仮面の旗が風に靡かれていた。
「ははっ、仕事が早いな。 これ渡しておくからいつでも通信してくれ!」
「ああ、本当にありがとう!」
「流石に友人の結婚式に顔を出さない薄情者ではないからな!
それと、もうすぐS級になれるんだろ?」
「ああ、長かったがようやくだ」
「そうだな。 長いようで短い。 だけど、俺達の未来はこれからだ。
共に歩んでいこう。 平和の為に」
ガシっとクロビとゼオールは拳をぶつけ合った。
そして魔動機が船へと戻ると、ブォォンっと音を立ててその場を離れていく。
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「いやぁ、いい仕事したな」
「うん! メイ喜んでくれて良かった」
「これで仮面の断罪人も断罪だけじゃないって事が知られればいいですね!」
ロアは実はその部分を気にしていたらしい。
どうせなら英雄として扱われて欲しいようだ。
「しかし、お主等はこれからどうするのじゃ?」
「ってエリー、いつの間に乗ってたのか」
「久しぶりなんじゃから良いだろ?」
「まあ行くとこは決まってないんだよな~。
とりあえずリッシュはライナが妊娠したらしいから正式に結婚を申し込みに行ってる。
ルルとダコルはこっちにいるし、リシアは?」
「私か? 結婚の予定は無いが、恋人は出来たぞ」
「「「っ!?」」」
「そういえば言ってなかったな。 まあ同じ亜人種だ。
今度紹介する」
「ちょっとリシア、いつの間に?」
ルルナリアも知らなかったようで、その事実に一番驚いていた。
「ルル、私だって女だぞ? ルルとダコルの日々を見てたら欲しくなるのも当然だろう」
「うっ……」
すると、リースが満を持して口を開く。
「クロ、私達はいつ結婚するの?」
「おや、クロとリースは結婚するのかの?」
「うん!」
「おい、結婚どころか付き合ってもいないぞ?」
「えっ、じゃあ……遊びだったの……?」
リースが突然芝居じみた様に目に手を当てて泣き真似を始める。
「おい……まあ、結婚はまだ分からないけど、付き合うのは構わないぞ?
ってかもはやそれっぽい振る舞いだしな」
「ふふふっ、クロの彼女! やった」
リースが泣き真似を止めて即座に喜び、走り回る。
「エリーは?」
「妾はようやくローズベルドが落ち着いた頃じゃからな。
まあ民は減ったが移り住んでくれた者も多い。
結婚とか蓮愛はまだ先の話しじゃな」
「エリー、クロ取ってゴメンなさい」
「構わぬよ。 寧ろお主が居ても抱かれる事は出来るからの?
銀狼種はそういうもんじゃろ?」
何故かエリネールが勝ち誇った表情を浮かべて告げる。
「むぅ……、じゃあ……エリーは、許す。 でもたまにだからね?」
「妾の勝ちじゃな」
女の戦いで見事勝利を掴んだエリネールだったのだが……
「おい、俺を使って勝負するなよ。
何なら二人まとめて抱くぞ」
「ほお、お主も逞しくなったの」
「エリーと一緒なら尚許す」
「ちょっと三人共、何て話ししてるのよ!?」
そんな話をしているとすかさずルルナリアがツッコミを入れて行った。
「ははははっ!」
「「「ふふふっ」」」
皆が笑顔でそれぞれの持ち場へ戻って行く。
それから数年後、世界は大きく変化していった。
ドーバル軍事に関わった施設や国は全てが潰され、新しい国が誕生する。
そして、エマーラル大陸の代表国としてイーリスがアーバロンと同盟を結び、最大の亜人国であるサンジェラルのコルトヴァーナもまた、アーバロンやイーリスと協定を結んだ。
世界が戦争のない平和を目指すとして一つになったのだ。
また、クロビと関わった者達もその後にしっかりと幸せを築いている。
ゼオールとメイリーンの間には第一王子ゼオン、第一王女メロウが生まれ、ゼオールがグラーゼンの王となった。
イーリスでは第一王子のアルフレッドが王の座に就き、フレイアが王妃となる。
また、ローズベルドは復興後にサンジェラルから亜人種達を迎えて以前よりも遥かに多い民を抱える大国へと至ったのだ。
ゴルデニアのベルベラでも第一王子クロスとエメリアが結婚をし、第二王子のカインもスカーレと結婚。
忘却の大陸と呼ばれたルッセルは開国を始め、今では多くの観光客が温泉地目当てに訪れるという。
仮面の断罪人はルーブ大陸のオウセンに施設を構え、人数を増やして実質政府として活動を行なっている。
その上でリッシュは定期的にコルトヴァーナへと戻り、ライナとの間に三人の子が生まれた。
パトリシアもその後に恋人と結婚をし、夫は仮面の断罪人で働いている。
ルルナリアもダコルとの子を宿して現在産休中だ。
また、ロアもルージュと正式に婚約を果たして数ヶ月後に結婚式を控えている。その事実を知った時、父のトロンは男泣きをし、母であるセリアはそこで初めて自分が母なのだとロアに告げる。
一方、仮面の断罪人の筆頭であるクロビは……
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「クロ、そろそろ結婚して?」
「結婚……するか?」
「うん。 ずっとクロと一緒に居るもん」
「ああ、そうだな。 じゃあリース、手出して」
「手? はい」
リースが不思議そうな表情を浮かべながらも手を差し出した。
すると、クロビがリースの左薬指に指輪を嵌める。
「えっ? 指輪……何で?」
「ん? 次「結婚して」って言って来たら嵌めようと思ってたんだよ」
「むぅ……、でも嬉しい。 ありがと」
「平和になったからな。 そろそろ俺達も幸せにならないと」
「うん、クロ……お疲れ様」
チュっと唇を重ねて抱きしめる。
「リース?」
「ん?」
「今夜は寝れると思うなよ……」
「……クロ、やっぱ、その……結婚はまたの――っ!?」
クロビが有無を言わさずお姫様抱っこの形でリースを持ち上げた。
「はい、じゃあ行こうか」
「わぁ~、クロ怖い……でも愛してる」
「俺も愛してるよ」
ある時、一人の少年が家族を奪われた怒り・悲しみ・憎しみが爆発してその象徴たる〝紅い眼〟を宿した。
ある時、二人の兄妹が家族や友人を奪われ、復讐を誓った。
ある時、一人の亜人が家族を奪われ、奪った側の人間と共に変革を誓った。
ある時、一人の騎士が実験と称され、仲間をその手に掛けさせられた。
それぞれが別の場所で別の道を歩んでいった。
しかし、軌跡も経緯も異なる者達が一貫して〝復讐〟と言う目的を持ち、更にはその先の、自分達が受けた様な悲しみがない平和な世界を望み、やがて集結していった。
まるで交響曲の様にそれぞれの物語が最後に一つの大きな作品へと繋がっていったのだ。
やがて仮面の断罪人は世間では恐れられ、〝悪さをすると仮面を被った集団が攫いに来るぞ〟と、母親が子供を躾ける時によく使われるようになった。
だが、次第に平和の為の行動だという事が認知されると信頼を重ね、今では若者の間で上級のハンターを目指すか、仮面の断罪人に入るかが大きな目標とまでなっている。
「クロ、依頼が来たぞ」
「依頼か、何か久しぶりだな。 どこから?」
「ゴルセオの北だ。 雪山の中で反乱軍が暴れてんだとさ」
「ゴルセオか~、懐かしい! リッシュは行くか?」
「ああ、ちょうど落ち着いたし、ライアンが手伝ってくれてるから問題ないぜ」
「よし、行くか」
船内では人も増え、整備担当達が発進の為に慌ただしく動いている。
「ルルとダコルは来れないから、まあいつも通りか」
「私は行くぞ?」
「ああ、リシアも行こう。 新人達は?」
「連れて行くか? たまには見学もいいと思うけど」
リシアは人員が増えた事で、新人達の指南役としても務めている。
「なら連れて行こう」
「お前達、これから実戦だ。 気を抜いたら死ぬ。
それだけ刻んでおけ!」
「「はい、先生」」
「先生じゃない! 教官と呼べ教官と!」
「まあ良いじゃないか。 ロア、行けるか?」
「はい、バッチリです!」
ロアは整備系統の纏め役であり、同時に魔道具を世界に出品している。
今では世界でロアの右に出る者はいないと呼ばれる程に、魔道具師の神としても崇められているのだ。
また、政府活動においての重要な資金源でもある。
「じゃあ行くぞ! 仮面の断罪人、出動だ」
「「「了解」」」