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黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅹ章 ~エマーラル大陸編・Ⅲ~
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紫の轟雷


ドーバル軍によるエマーラル大陸攻略戦二日目――



早朝から北西、南西と昨日より数は削られているが、ドーバル軍が再び攻め入って来る。


だが、大将格は既に仮面の(マスカレード)断罪人(コンビクション)の手によって討ち取られている。



『全軍、敵を迎え撃て! 既に武力はこちらが上じゃ。

だが油断はするな!』



「「「はっ」」」



ローズベルドでは女王エリネールが指揮を執り、各部隊へと号令を掛けた。



「さて、俺等はどうする? ルル」



「そうね。昨日と同様にそれぞれのポイントに付くのがベストね。

グラーゼンは第一王子ゼオールのみ、イーイスは第一王子アルフレッドとS級ハンターのレオンがそれぞれ不調。

その穴を埋めるのが先決だと思うわ」



「なるほどな」



「ほお、ナリアはしっかりと状況を把握しておるのう」



エリネールもルルナリアの指示に感心し、会議に参加していた。



「クロとダコル、リッシュとリシアのチームが良いわね。

クロとダコルはどちらも前衛で行けるし、クロが魔術も使える。

リッシュは後方でリシアは前衛でも行けて魔術が使えるわ。

だからその組み合わせが一番だと思うの。

リースは私と一緒にイーリスへ行きましょう。

あそこは中心部になるから状況を把握しやすい」



「分かった。 じゃあ行ってくる」



リースがルルナリアを乗せて魔動機で飛び立つ。



「何かあればそれぞれ通信で宜しく! エリー!」



「何じゃ?」



「これ持ってろ、通信魔道具だ」



「分かった。 何かあれば伝える」



そして、各自が南西、北西、イーリスと分かれ、配置に着いた。



「ゼオ、大丈夫か?」



「ああ、クロか。 何とかね……そちらは?」



「ダコルだ。 訳あって仮面の(マスカレード)断罪人(コンビクション)に所属している」



「ダコル……なるほど。

で、クロ。 仮面の(マスカレード)断罪人(コンビクション)とは?」



「ああ、まあ組織名だな。 俺等は皆仮面を被ってるからさ。

ダコル、ゼオはグラーゼンの第一王子だ」



「宜しく頼む」



「こちらこそ」



ゼオールとダコルが握手を交わすと、遠くから『おおおお』っと恐らくドーバル兵達の声が聞こえた。



「そろそろか。 よし、行くぞ!」



クロビ達に続いてグラーゼンに配備された連合軍達も「おおお!」と雄叫びを上げて森へと走り出した。


次第に兵達の姿が確認されると、金属同士が激しくぶつかり合い、魔導銃、魔道機銃の発射音が鳴り響く。



「ぎゃあ」



「ぐぅ」



「怯むな! ドーバルの力を見せてやれ!」



ドドドドっと四方八方に飛び交う魔弾。


そしてドーバル兵達の足音が地響きを生んでいく。



「まだ結構いるんだな……面倒だ」



クロビは鎌を形成してこちらへ向かってくるドーバル兵を木々を渡りながら討ち取っていく。


また、ダコルやゼオールも剣で斬り、大剣で薙ぎ払い、兵達を吹き飛ばしていった。



「ダコルか、凄いな……昨日相手にした大将が仲間になったような気分だ」



ゼオールから見ても、ガタイの良い男から繰り出される衝撃は驚愕だ。


だからこそ、味方で良かったと安堵の表情を浮かべていた。


一方北西側でも、パシュン、パシュンっと後方からリッシュが的確にドーバル兵を撃ち抜いていき、前衛ではリシアが白い鎌を振るってドーバル兵を刈り取っていく。



「リッシュ、奥から何か来る。 恐らくゴーレムだと思うが」



『こっちも感じてる。 気を付けろよ』



リシアが感覚を研ぎ澄ませて森を駆けて行くと、そこには駆輪型の魔導ゴーレムが数体、こちらへ向かっていた。



「新型か……リッシュ、駆輪のゴーレムだ。 南西にも居る可能性がある」



「了解。 クロ、駆輪のゴーレムがいるらしいぞ」



『ああ、ちょうどこっちにも来た!』



「まあ、駆輪なら弱点は……そこだっ!」



パシュンっと魔力を多めに含んだ魔弾を撃ち、それはゴーレムの車輪へと撃ち込まれた。



ギギギ!っと音を立て、ゴーレムがバランスを崩す。



「当たりっ!」



「はっ!」



ザンっとバランスを崩したゴーレムを白い鎌で一気に斬りかかる。



「―重力球(グラビティコア)―」



パトリシアは重力魔術を展開すると、拳ほどの小さな黒い球体がいくつも生まれ、ゴーレムへと降り注いでいく。


ベコ


ガコ



「何だ!? 胴体部分が凹んでいくぞ!?」



ガコン、ガコンっと音を立てて丸みを帯びたゴーレムの剛体が見る見る内に尖っていく。



「ぎゃあ、つ、潰れぐぅぅ……」



ブシュっと搭乗していた兵が圧し潰され、絶命していく。



「ったくえげつないなリシアの魔術は……」



リッシュもそれを遠目で見ながら顔を引き攣らせていた。







「メイ」



「リース、と……そちらの綺麗なお姉さんは?」



「綺麗!? え、えっと……ルルよ」



「あっ、初めまして。 イーリス国第一王女、メイリーン・ロウ・イーリスです」



「可愛らしい方ね。 この辺一帯はまだ交戦状態にはならないわ

だからリースと一緒に来たの」



「そうだったのですか。 クロの仲間ですよね? リースと一緒だし」



「うん。 浮気相手候補」



「浮気?」



「ちょっとリース、違うって言ってるでしょ!? もうっ」



「ふふっ、ミラ! 紅茶をお願い」



「はい」



イーリス国は未だ敵が攻めては来ていない。

だが、兵は整えており、フラーネスも線乱期時代の鎧を纏い、王座に待機していた。



「ゼオ、大丈夫かな……」



「貴方はゼオール王子と婚約中なのよね? 結婚式はいつを予定していたの?」



「本当は一か月後だったんですけど……延びちゃいそうですね。

でも、国が一番ですから、仕方ありません」



「ならメイ、先に子作りをした方がいい」



「こ、こここ、こづ、くり……!?」



ボンっとメイが顔を真っ赤にして思考が停止していく。



「ちょっとリース、貴方は何でいつもそうなのよ」



「銀狼族は何よりも子孫繁栄を優先させるよ? だからアドバイスしたの」



「人族は違うのよ!」



「あっ、そうだった。 メイ、ごめんね」



「だ、大丈夫……うぅ」



「お三方、紅茶です」



しばらくはこの場所は安全かな?とルルナリアは遠くに聞こえる爆発音、立ち昇って行く煙を眺めていた。







北西、南西共にドーバル軍を迎え撃ち、昨日の本陣壊滅もあってエマーラルの連合軍が優勢となっていた。


だが、各所で爆音が鳴り響く中で、ブォォォンっと聞き覚えの無い音が大陸全土に響き渡った。



「あれは……」



「まさか増援部隊か……全く面倒じゃの……ちと厳しい戦いになるぞ」



すると、ドーバル兵達はそれを目にした途端に士気を上げ、「うぉぉおお!」と歓喜を上げる。



大陸の東側、ゴルデニア大陸方面から上空に大きな飛空魔動機が二隻、大陸の中心部で滞空したのだ。


そして――



ズキューン!


ズキューン!


ダダダ、ダダダ!!



二隻からグラーゼン、イーリス、ローズベルドと、布陣している箇所を狙って魔導兵器が一斉に放たれた。



「総員退避しろ!」



ドゴォォン!


ドン!ドン!


ドガァン!


各陣営で爆発が起こり、布陣していた騎士団、兵達が爆発に巻き込まれていく。



「くっ、ふざけんな!」



クロビはその二隻から放たれる魔道兵器の弾幕に過去の出来事を重ね、怒りが爆発する。



「―聖光(ホーリーライト)の処刑(エクスキューション)―!!!」



魔力を練り、増幅させ、それを込めた光の魔術を行使して、未だ魔弾を放ち続ける魔導飛空艇へと打ち放つ。


パッと全体を包み込む程の閃光を放ち、光の熱戦が一隻の飛空艇に被弾する。


ドゴォォン!


しかし、障壁によって緩和された事で撃墜は出来なかった。


そして――



ズキューン!



魔術を放ったクロビ達の方目掛けて魔導兵器の熱戦が襲い掛かる。



ドゴォォン!!



「ぐわっ」



「ぬぅぅ」



「ぎゃぁぁあ」



大爆発を起こし、周囲は森が裸にされたように焼け焦げ、大きなクレーターが作り出された。



「ぐふっ、……ってぇ……大丈夫か、ゼオ! ダコル!」



「あ、ああ……何とかな……」



「私も大丈夫だ……しかし……」



周囲の兵達は焼け焦げ、半身を失くし、至る所に転がっていた。



「くそぉぉお!!」



「クロ、落ち着くんだ。 まだ手はあるはずだ」



「……悪い」



「しかし……これはまずいぞ……」



グラーゼン城はその最上部が無くなっていた。


また、街には瓦礫や爆発によって吹き飛ばされた岩などで被害が広がっている。



「父上、母上、タリオ……皆無事で居てくれ……」



ゼオールは悲し気な表情を見せるも、首を横に振って立ち直す。


そして、二隻からの攻撃が止んだ。



「皆、無事か?」



『俺は大丈夫だ……リシアもな』



リッシュとパトリシアは無事。



『こっちも平気。 ただ、イーリス城が壊れた』



リースとルルナリアも無事なようだ。



「エリー!」



『城が……街が……』



「エリー、しっかりしろ」



『嫌じゃ……妾の国が……民が……』



「おい! 落ち着け!」



『許さぬ……許さぬぞ……クロ、妾は行くぞ!!

この怒り、全てぶつけて滅ぼしてくれるわっ!!』



「待て! エリー!」



「どうしたクロ!?」



「まずい、エリーが怒り任せに先走ってる」



ローズベルドの方を見ると、未だ土煙が待っていてしっかりと目視する事が出来ない。


すると、リッシュから通信が入る。



『マズいぞ! ローズベルド城がほぼ崩壊してる。

街も含めてだ』



「ああ、エリーが怒りで我を忘れてる。 エリーを止めて来る!」



『分かった』



「ダコル、ゼオ、ここは任せていいか?」



「分かった」



「クロ、エリネール様を頼む」



「ああ!」



ブォォンっと魔動機を起動させ、一気にその場を飛び立っていく。







「妾の国を……良くも……ドーバル風情がっ!」



エリネールは普段使わないが、箒の形をした魔動機を所有していた。


それを使って一気に上空の魔導飛空艇へと向かうと、箒の上に立ち、詠唱を始める。


国を崩壊させられた事で過去の戦争時代の光景が脳内を過り、全てを奪われる悲しみ、怒り、それら全ての感情を湧き上がらせる。


次第に紫の眼は光を帯び、桃色の瞳が露わになった。



「マナの根源たる山の神、我が怒りと悲しみの激情を以て力とするは悪しき敵を討ち滅ぼさんが為――」



ダダダ!ダダダ!



エリネールが詠唱を始めると、透かさずそれを阻止すべく飛空艇から魔道機銃による魔弾が発射され、エリネールを襲う。



「――暗雲立ち込めし眼前の情景は我が宿願の枷とならん。

……ぐっ、ぅぅ……我が手に集いし想願の言霊、聞きたもうて殲滅せし!」



バシュン!



非常にも飛空艇からの鋭い魔弾がエリネールの腹を貫く。


しかし、エリネールは自分の傷を顧みず、ありったけの魔力を注いで魔法を発現させる。



「妾の魔力……はぁ、はぁ……全て、持っていくが良い……紫焔(パープルフレイム)!」


エリネールの周囲に幾つもの紫色をした焔が生まれ、それらが天高く昇って行く。


そして、巨大な五重の紫焔魔法陣がドーバルの飛空艇の更に上空で形成されていった。



「≪神々(セレスチャル)の 爆 雷(デトネーション)!!≫」



色眼持ちの覚醒状態へと至ったエリネールが膨大な魔力を注ぎ、発言させた魔法はまるで天からの裁きの如く巨大な紫色の雷を生み出し、飛空艇一隻を飲み込んだ。



ドゴォォォン!!



その雷鳴は凄まじく、周囲の大陸にも響き渡り、その場に居合わせた者達は耳を抑えて轟音に耐えていく。


そして魔法陣が光になって消えていくと飛空艇は骨組みだけを残してその他を全て焼き尽くした。


また、真下には数十メートルのクレーターが生まれ、未だ雷による熱でマグマの様なドロドロ状のものが広がっている。



「これ、で……一隻か……ぐぅ……妾も、弱く、なっ――」



エリネール渾身の魔法で飛空艇が一隻落とされた。


しかし、エリネール自身は詠唱中の被弾によって腹部から大量の血が溢れ、口からも赤い液が零れていく。


魔力を使い切り、魔動機が機動力を失うとバランスを崩してそのまま落ちていく。



「エリー!!」



タイミング良くクロビが魔動機でエリネールの下へと駆け付け、落ちていくその身を横抱きにして受け止めた。



「ク、ロ……わら、わの……国が……」



「ああ、分かってる。 だから喋るな!」



「すま、ない……」



「後は俺達が何とかする。 死ぬなよ。 絶対に」



クロビは自分の国を守れなかったと涙を流すエリネールの頬にそっと手を当て、優しく抱きしめる。


そして、エリネールを抱きしめたまま治療魔術を施すと、グラーゼンの治療班がいる場所へと運び、その身を預けた。



「やっぱりドーバルは潰さなきゃいけない……もう、誰も悲しい思いをさせちゃダメだ! 皆、動けるか?」



既に普段のではなく、クロビのその眼は真紅に染まっている。


そして、殺気が溢れていた。



「クロ、こちらは私達で対処する。

頼む、あの飛空艇を堕としてくれ」



「ああ、ダコル。 皆と合流しよう」



「分かった」



するとリースから通信が入る。



『クロ、エリーは?』



「大丈夫だ。 だが、怪我が酷い」



『そう……。 後、ロアが呼んでる』



「ロアが? そうか……いいタイミングだ。 皆、イーリスに集まってくれ!」



『『『了解』』』



そして一行はイーリス国、ロアが待つ工房へと集まった。



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