先輩⑤
夜の風呂あがり。スマホでポチポチと打ち込む。相手はもちろんクラスメイトの陽菜ちゃんだ。
(今日ね。坂本先輩と手を繋いだ。恥ずかしかった)
(気を付けなよ~いっぱい手を出す人だから)
(かっこいいもんね。運動神経もいいもんね)
(まぁうん。もしかして気がある?)
(ないよ!? 流石に………)
(察し……)
結構ズバッと言うところは流石。ネット弁慶。結構大人しくも心の内には色々と渦いているのだろう。黒い物が。
(かわ。かわ)
(??)
(結構、ズバッと言うところは言うよね)
(言わないよ~)
(えー)
女子とは腹に何かを持つ者。故に黒い。私はそんなのを知っている振りをする。自分も若干。高橋先輩を取られる事を警戒している部分があるからだ。
(それより……先輩と進展あった?)
(ない~いつもと変わらない)
(そうなの?)
そう先輩とは仲がいい友達感覚のため。あまりに進展がない。
(ん~ないねー。あっ休日遊ぼう)
(えっ!?)
(空いてる~??)
(うん。嬉しい。何処行くの?)
(何処行こっか? おこづかいで先に先輩に見せる夏服買おうかな?)
(行こう行こう)
(わかったよ~じゃぁ先輩に伝えるね~)
*
「ん!?」
私は高校で初めて出来た友達からのメッセージに驚きが隠せない。先輩に伝えると言う事は……
(先輩? 高橋先輩?)
(そう。高橋先輩。今日誘ったんだー)
(あの。二人きりでもいいんじゃないの?)
(毎日一緒だしたまにはね)
なんで付き合ってないのか不思議になる。飲んでいる紅茶が少しだけ渋い味がした。
(高橋先輩OKだって)
(う、うん)
私はきっと空気になってしまう。そんな気がした瞬間だった。
(坂本先輩も来るだって)
(ええ~)
坂本先輩と二人きりになる……そんな事に。私はそれを考えて恥ずかしくなり断りを入れようかと悩む。
(陽菜ちゃんの私服楽しみだね!!)
だけど……断れる勇気も私にはなかった。震える手で画面を見つめ。もうひとつの事に気が付く。
「私服……どうしよう」
着ていく服の悩みも生まれてしまったのだった。
*
「高橋~高橋~」
早朝から坂本は俺に腕を首を回して、頬をつついてくる。朝からテンションが高い。
「なんだよ。元気だな……」
「寝癖ついてるおまえ」
「直して」
「おらよ~。元気な理由は久しぶりに女子と遊べるからな」
「久しぶりなのか?」
俺はツンツンする指を握り締めて問い返す。
「あたたた~いや。マジで。別れて数ヵ月。久しぶりだし。あの二人だからな。特に銀ちゃんは触っても許されそうだし。プリクラで揉んでやろうかと……」
「おう。俺の前で言うと伝わるぞ」
「すでに伝えた」
「ええええ~」
「銀ちゃんから死ねって言われたよ」
「おう。死ねや」
「はははは」
坂本は楽しそうに笑い続ける。
「かわいいな……お前」
「ホモはNG」
「はっ? やめろよ勘違いするだろ」
「ははは」
「ははは」
いつもと変わらない。坂本の調子に俺は合わせる。それにしても私服姿か……
「どんな服で来るのかわからないな」
「そうだな」
「……」
そうきっと。少し紺色のスカートに上は白いシャツで袖に華柄の刺繍。まだ肌寒い場合のための羽織り。靴下は白のオーバニーソで綺麗な足を見せるだろう。
「………」
そして……それを鏡で自撮りし。これでいいですかと一文を添えて送ってくるのだ。
「…………下水流の私服見るか? 坂本」
「……は?」
俺は昨日既に下水流の私服を見ていたのだった。坂本に見せると。
「画像くれよ」
この画像は俺に送られて来たものだ。なので……
「あげねーよ」
「ちぇ」
見せるだけにする。
*
「銀ちゃん~どうしよう!!」
「ん?」
早朝。クラスメイトで友達の下水流銀と言う変わり者に声をかける。
「どったの?」
「私服……何着ていけばいい~? 初めてなの……こう……友達と出るの」
「ん? 中学の時とか友達と出ないの?」
「えっと……」
私は言葉に詰まる。スカートを握ってしまう。軽く……話しすぎた。過去を詮索されたくないのに……経験がないなんて……
「ふーん。まぁ陽菜ちゃんそんな子だし」
「うぐぅ……銀ちゃん。ストレート」
「わかった。今日、私服の自撮り見せて!! 私はこれで行く!! 先輩に見せたらいいねって!!」
「……わぁ」
銀ちゃんのスマホの中で可愛らしくウィンクしてる姿に目眩がする。可愛い服でちょっと驚いたのだ。
「どんな服あるか教えてね~」
「う、うん………」
私よりファッションに気を使っているのが見え……少し自分のそこまで気にしなかった事が恥ずかしくなる。
「……ファッション。わからない」
「私もファッションわからないけど。似合う似合わないかはわかると思うよ。たぶんね」
「自信ない……」
「大丈夫大丈夫!!」
本当に大丈夫だろうか?