第四話 魔族の希望
初回のみ連続投稿します。
周囲にいた騎士達は一瞬にして床に転がされている。
「・・・・」
カタストロフは何も言わずに
エレノアを痛いほど抱きしめた。
長い息を吐きながら
己の感情を無理矢理制御しているようだ。
心配をかけてしまったんだと
一目で分かるほどに胸がどくどくと脈打っている。
少しの静寂のあとカタストロフは
体を離しこちらを見据える
鋭く射抜くような瞳から静かな怒りを感じて
普段の穏やかで心配性なカタストロフとは思えないほどの高圧的な気迫に
思わずごくりと喉を鳴らした。
はらりと波打つ白銀の髪を壊れ物を扱うかのように繊細に解き、涙を優しく拭うと
カタストロフはエレノアをそのまま抱き上げ、宙を舞った。
高く空を舞うわけでなく高い木の枝に
飛び乗るように器用に翼を羽ばたかせる。
騎士達の叫び声が下から聞こえるがそれも直ぐに遠のいた。
「ごめんなさい...
私の所為でカタストロフに迷惑をかけたわ」
エレノアは耳元で呟く
そんなことで許して貰えるとは思えない
カタストロフは私がどう行動するか
試していた。
恐らく微弱な父の魔力にも
気づいていたのだ。
だから10分の間は私の行動に目を瞑って居たのだろう。
カタストロフは私の判断を信じていた。
そして私は裏切ったんだ。
その証拠に今もピリリと張り詰めたような空気が漂っている。
「私はそれについて怒っているわけではないのです、貴方を護るためならどんなことでも迷惑になどなり得ないのですから」
そう静かな声でカタストロフは宥める。
騎士に襲われた所よりも
大分遠ざかったところでカタストロフは地に足を着けた。
エレノアをゆっくり降ろすと
私の視線に合わせるように
肩膝を折る。
そして私を真っ直ぐに見据えて
頬を平手で叩いた。
パンッという肌を打つ音が響く。
音よりも痛みはあまり共わなかった。
突然の衝撃にエレノアは目を丸くして
しかし妙に納得した。
俯いて自分の行いの重大さに
改めて気づく。
愚かな事をした。
あの場所にいたのが騎士達で良かった。
もし勇者達であったら助けに来た
カタストロフでさえ命を落としていたかも
知れないのに。
私は父が命をかけて護ってくれた命を軽々しく投げ出そうとしたのだ。
それは父に対してもここまで私を連れ出して護ってくれているカタストロフにも失礼で浅慮な行いだった。
失望させてしまっただろうか、
しかし信頼は後の行動でしか取り返す術は無いのだ。
父がそんな事を教えてくれた事があった。
瓶に入っていた塊を思い出すと
止まっていた涙が再び溢れ出ていく。
ここで泣いてしまったら
涙で許しを乞いている様に見えてしまう。
そしてもっと失望させてしまうかもしれない。
「ごめんなさい...!
もう二度と..こんな..
こんな浅はかな行動は取らないわ...
心配をかけてごめんなさい」
震える手をぎゅっと握りしめてカタストロフの瞳をゆっくりと窺うように盗み見る。
「自分で間違いに気づき反省できる
貴方は聡い、どうか行動を起こす時は必ず私に相談してください
それから貴方は私達魔族にとっての
希望なのです
どうかご自分のお立場をよく
自覚してくださいね」
そういうカタストロフの表情は元の穏やかな雰囲気に戻っていた。
そよ風のような手がふわりと一度
エレノアの髪を撫でる
「それに貴方のおかげで良い情報を手に入れられるましたから」
とニコッと胡散臭い笑みを浮かべる。
これですが..
と言いながら
父の角の入った瓶を
黒いローブのような服から
取り出した。
信じられないものがいきなり出てきて
ショックを通り越して愕然とする。
どうやらあの混乱に乗じてちゃっかり奪いとってきたようだ。
カタストロフはキュポッと蓋を開けて
徐に中の角を取り出した。
間近で確認しても父の物で間違い無い。
そう思うとまた涙が出そうになる。
「魔王様のもので間違いありませんね」
追い討ちをかけるようにカタストロフは頷いて話す。
「エレノア様、魔王様はどこかに封印されている可能性が高いですよ」
「.....え?」