第十一話 記憶持ちと神の祝福
数話まとめて投稿します。
作戦は見事成功に終わり、
勇者、悪魔、他の教団員を
それぞれ地下牢に入れるよう指示を出すと
ライリーがやってきた。
「聞いていると思うが精霊達の呪印が全て解かれていることを確認した。
勿論私の呪印もだ、
お前達には感謝している」
ライリーはそう言うと深々と礼をした。
王としての威厳なのか遜る態度は決して見せない精霊王が頭を下げたことにカタストロフは困惑しているようだ。
「いいえ、貴方達精霊のおかげで勇者を捉える事が出来たのだから
礼を言うのはこちらだわ
貴方達はもう精霊国へ帰るのかしら?」
「あぁ、ここにいる用もない。
お前達への借りは今回の一件で返したと判断している。良いな?」
「せっかくならもう少し話がしたかったのだけど、こちらも今余裕のない状況故に何のもてなしも出来なくて申し訳なかったわ。
貴方達の国へはこの一件が落ち着いたら報告がてら伺わせて頂きたいのだけどどうかしら?...その前に精霊国とはどこにあるのかしら..」
精霊国という国も、魔族の領も何処にも地図には書かれていない。国として独立しているわけではなく、そういう所があるらしい、という御伽噺のような噂でしか話が上がらないような国なのだ。
エレノア自身そのような国がどんな場所なのか気になるのもあるがカタストロフやヴィルカーンの一件もあって一度この目で見てみたいと思っていた。
「精霊国はこの世界とは少しずれたところに存在している。普通の者が足を踏み入れられる場所では無い」
「ずれた..?それは..どういうことなの?」
「エレノア様、この世界に存在する神々の存在はご存知ですよね」
カタストロフがその問いに答える。
「えぇ、私が魔王になった時魔神ノヴルーノの祝福を得たから存在していることは知っているわ」
「この世界にいる神々は魔神ノヴルーノのような魔に恩恵を与える神と聖神サンスウェリアや聖神ルナリアフィアのような人間に恩恵を与える神がいます。
聖剣の力を与えたのもおそらく聖神でしょう。彼らはこの世界に魔力を生み出し、司る存在なのです。
そして彼らの存在そのものが膨大な魔力の塊でもあります、そのような存在がこの世界に複数いれば多少の衝突であってもこの世界はあっという間に壊れてしまいます。
だから神々は人や魔族の住むこの世界と神々の住む世界の時空を分けたのです。
そしてその二つの世界の時空の歪みが生み出した世界、それが精霊の国なのです。
精霊はもともと神の魔力の残滓。
力の強い精霊であればあるほど自我や肉体を持つことができますが、殆どの精霊は蛍火のようなエネルギー体です。
精霊達はこの世界と精霊の国を行き来でき、
時折この世界の者に力を貸すのです。」
カタストロフの話に頷いていると
ライリーが口を開いた。
「私達の世界に来ることができるのは
選ばれた人間や魔族と精霊だけだ。
神の愛子である別世界の記憶を持つ存在だけなのだ。神が好みの魂をこの世界に連れて来ては、祝福を与えるという。
勇者も例外だが似たようなものだ。
だがそれは聖神に限った話。
現にお前はノヴルーノの祝福を得ている。
自分の気に入りの者に祝福を与える聖神とは違いノヴルーノは一番強い魔力のものに祝福を与える。
お前は今記憶持ちと同じ存在であるから恐らく精霊の国へも行けるだろう。」
記憶持ち、
その言葉にどきりと胸が跳ね上がった。
私は異世界の記憶を持っている。
と言うことは聖神によってこの世界に
連れてこられたということなの..?
そして私は今、魔人ノヴルーノだけではなくて聖神の祝福も得ているということ..?
みるみる青ざめていくエレノアに
カタストロフは心配げに眉を寄せた。
「エレノア様?
如何なされたのですか..?」
「実は私..前世の記憶があるの..
それもここではない別の世界の記憶を」
このような話が出てしまっては話すしかない。それに今の状況を確認したいというのもあるし..
震える声でそう零すとカタストロフは瞠目してエレノアの顔をジッと見た。
「それはもしかして..前魔王城から逃亡したあの日から様子がお変わりになられた事と関係ありますか..?」
流石カタストロフ、鋭いわね..
エレノアはコクリと頷くと
納得したように瞳を伏せた。
「私はお父様が勇者に斃された日に
記憶を取り戻したの。
貴方には言っても逆に心配されてしまうと思って、黙っていてごめんなさい..」
エレノアがシュンとした面持ちで
体を縮こめるとカタストロフは
眉を下げて微笑んだ。
「いえ、私こそエレノア様に
本当のことを言いにくくしてしまったようで申し訳ありません」
二人で謝りあっていると
神妙な面持ちのライリーが低い声色で口を挟んだ。
「それが本当であれば、
決して人間国のものに記憶持ちであることは言わない事だな」
「どうして?」
「彼らにとって記憶持ちがその国に生まれる事は聖神の加護を得たことに等しい、
魔王が魔神の祝福を得ると同時に魔族の力が強まるように、聖神の祝福を経た者のいる国は豊かになる、気候も良くなり豊作になり、海が穏やかになる事で漁や貿易も安定する、
それに人々の魔力も高まり、軍事面でも多大な恩恵を得ることになるのだ。
まさに喉から手が出るほど欲しい存在なのだ。本当に希少な存在であり、その存在がこの世界に生まれる可能性は100年に一人と言われている。そしてそれが王家の者であれば国は絶対にその存在を逃さないだろうからな。」
王家の者、
エレノアはゾクリと身震いをする。
エレノアは月の国の第一王女の実子であり
紛れも無い王家の血筋なのだ。
しかし今は魔王国の王であり、
取り戻すことなど不可能である事は分かってはいるが言わないに越した事は無いだろう。
ーーだけど一つ引っかかることがある。
「私、魔神ノヴルーノの祝福は明確に感じたことはあるけど聖神の方は感じた事すらない気がする..本当に祝福を受けているのかしら..?」
その言葉に真っ先に反応したのはカタストロフだった。