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転生先は魔王の娘でした。  作者: 成瀬イト
精霊救済編
53/64

第九話 精霊国の二人の悪魔

「そうだな..

じゃあ魔王の力を見せて貰うことにするか

小娘でも魔王は魔王、

どんな力を持っているか気になるからな」


ヴィルカーンはそう言うと

軽く目の前の魔族を吟味すると

体格のいい獣人族の魔族を引っ張り

エレノアの5mほど手前に置いた。


「手慣らしにこいつを殺してみろ

命じるのは精霊王、お前だ

魔王に殺せと命じろ」


ヴィルカーンは愉快げにほくそ笑む

獣人族の青年はこちらをちらりと一瞬見た。

これはチャンスだ。

エレノアは決心する。


ライリーがこちらを向いて口を開いた

呪印の気が充満する。


「殺せ」


ライリーの言葉を合図にエレノアは

体内の闇の魔力を滾らせる


ヴィルカーンはその魔力に

動向を開き口角を上げた。


この場を混乱させるには

この城を壊すくらいの破壊力が欲しい


壊せ、混沌の海を作るのよ!


エレノアは脳裏でイメージし、

真紅の瞳を月食のごとく艶美に揺らめかせる


ドゴッゴゴゴゴゴッ


大きな地震が起こった。

城のガラスは全て粉々に割れ、

ヴィルカーンへ一直線に降り注ぎ一瞬の間に

エレノアの足元から巨大な地割れが起き

揺れと地割れでグラグラと足場が悪くなり

ヴィルカーンの足元に針のような岩が劈く。


「ッグ!!!?」


動揺した様子のヴィルカーンに間髪入れずに

ニュクスとカタストロフが悪魔に攻撃を仕掛ける


指令を出すタイミングなど

絶対に与えてはいけない


刹那のタイミングで精霊たちがヴィルカーンを包んだ。


「お願いっ!!!!」


エレノアの叫びとともにヴィルカーンは

光と共に消えた。


エレノアはすぐにあたりを見回す

魔族は皆無事のようだ。


他の教団員達はエレノアの魔法の衝撃で気を失っているようだ。

魔族達は手筈通り教団員達を手早く縛っている。


安堵の息を零すとカタストロフがこちらに向かってきた。


「手筈通りヴィルカーンの方へ行くわよ!

アイツには聞きたいこともあるしボコボコにしてやりましょう!」


エレノアが強気に微笑むと

カタストロフは瞳を細め強く頷いた。



************************



ヴィルカーンの元へワープすると

意外な光景が広がっていた。

ワープ先は魔王城の玉座の間で、

結界の張られた室内には大柄のいかにも腕力の強そうな魔族が囲んでいる。


ヴィルカーンはそこにポツリと立ち

両手を上げていた。


「..どう言うつもり?」


「見て分からないのか?降参だよ」


エレノアの言葉に

男は目を潜め薄く微笑む。

カタストロフがその前に庇うように立った。


「魔王城に潜入した魔族の女性を

誑かしたのは貴方?」


「さぁ、どうだろうなぁ?

どの女か分からないが

アイツらは影のある男を演じれば

簡単に引っかかるからなぁ

馬鹿な女共だ..クククッ」


「貴方、魔族の感情を弄び

挙句殺したのよ..?」


エレノアが憎悪の念を瞳に宿し

ヴィルカーンに迫ると

カタストロフがそれを制す。


「エレノア様、この者から離れて下さい」


ヴィルカーンはカタストロフを一瞥すると

皮肉げに微笑んだ。


「なぁアンタは俺と立場は同じだろ?

知っていたよアンタの事。

精霊達にも不浄だと罵られ

傷つけない術も教えてもらえず

狭い結界内に長い間孤独に監禁され、

終いには精霊王、

あの男によって森を追放され悪魔になった。


アンタなら分かるはずだ。

精霊達のやり方は間違っている。

臭いものに蓋をして

話すら聞かない。

排除して無かった事にする。

あの場所の平和は

そうやって成り立っているんだ。


残酷だと思わないのか?

あんな奴らこの世界にいれば

憎しみを増やすだけだ。

何故ならアイツらは憎しみの連鎖を止めようとする気すら無いからだ!

きっとまた俺やお前のような奴が

必ず現れる。


分かるだろ?

アイツらはその度にこう言うんだ。

「森を危機に陥れるお前が悪い」と。


俺達は傷つけたくて傷つけていたわけじゃ無いのに、だ...


居なくなればいい、全て消え去ればいい

全て殺してしまえばいい...っ!

アイツらが正義面をするたびに(はらわた)が煮えくりかえりそうなほどに

憎らしくてたまらない気持ちになる。


そんな奴らを俺は生かしてる、

あの男を奴隷のように使うことで

我慢しているんだ。


俺が罰せられるのはおかしく無いか?

なぁ、そうだろ?

アイツらのやっていることに比べれば

俺のやってることなんて可愛いもんだ。


こんな事ならさっさと殺しておくんだった。

人間どもとの契約が終わるまでは我慢してやるつもりだったが..

ククッ俺が馬鹿だったようだな」


くしゃりと顔を歪ませるヴィルカーンに

カタストロフは静かに俯いた。

刹那の沈黙、やがてもう一度瞳をヴィルカーンに合わせる。


「確かに私はお前と同じ境遇を辿ってきただろう。精霊達が憎かった。

一度は精霊の国中の森を焼き払ってしまおうかとも思った。

今でも精霊達のやり方は正しいとは思わない」


「であれば..っ!」


ヴィルカーンの張り上げる声をカタストロフは片手で制す。


「だが今なら分かる。

精霊達のやり方は確かに無情だ。

だが誰でも己の身が可愛いのは同じだろう?

お前だって己が可愛いから

復讐を誓ったのだろう?

精霊達は己の身を守る為に私達を排除した。それはこの世界ではごく自然な事だ。


お前がすべき事は復讐などでは無かったんだ。お前の、お前の為の居場所を探すべきだったんだ。

それができなかったのはお前の責任で精霊にその責任を負わせるのは間違いだ。


お前が武力で精霊の居場所を勝ち取ったとしてもお前に何が残る?


お前がしている事は

精霊達と同じ事だ。

排除するしか居場所を勝ち取れないのなら

そんな場所は捨てた方がいい

そんな場所はお前に何の利益も与えない」


カタストロフの言葉にヴィルカーンは

悔しげにぎりりと奥歯を噛み締めた。


私はこの男を殴ってやろうと思っていた。

私の生誕祭で女性を利用した男は

恐らくこの男だろう。

この男は非情で最低な事をした。

私の大切な人達を呪印漬けにして苦しめた

諸悪の根源だ。


例え精霊への憎しみにかられた故の行動だとしても

それが魔族の心を弄んだり、

魔族を危険に晒していい理由になどならない。

この男の行動は許されないことだ。

適切に罰せられるべきだ。


頭では分かっていても

今この瞬間、この男を殴れなかった。


「ねぇ、精霊の国にもしカタストロフや貴方みたいな存在が現れた時、今度からは私の国が引き取るわ」


「は...?」


ヴィルカーンは瞠目し口をポカリと開けた。

その様子がおかしくて苦笑する。


「私は魔王よ、

あなた達より強いもの。

力の制御が出来ない精霊くらい

面倒見るのは楽勝よ」


胸に手を当てて高飛車に振る舞う。

その様子にカタストロフがクスリと笑った。


「本当に..か?」


「えぇ!女に二言はないわ」


震えるヴィルカーンの声に力強く答える。


「その代わり今まで付けた呪印は全てときなさい、全てよ。

あなたの呪印も、だからね」


ヴィルカーンは数秒の間押し黙るが

やがて観念したように静かに頷くと

右腕の呪印がゆっくりと薄らいでいく。

やがて呪印が消えると

気を失うようにその場に倒れこんだ。


「殴るのは元気になってからにするわ..」


エレノアはそのまま玉座の間を後にした。

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