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転生先は魔王の娘でした。  作者: 成瀬イト
精霊救済編
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第三話 朝焼けの瞳に秘める過去

エレノアが勝気に薄く微笑むと

フィリルはキッと睨む。


「君、なんか性格悪くなった?

勇者を知らない兄さんにその役が務まるわけない事を知ってて言ってるんでしょ。

ははっいいよ、分かったよ。

どうせ僕は教団にもうすぐ殺される身だったんだ。死期が早まるくらいどうって事ないさ」


フィリルは自嘲げにそう吐き捨てると

また顔を伏した。


「決行は今日を入れて三日後の明後日

明日は当日の具体的な立ち回りの詰めや

結界を置く場所を決めるわよ。


父である魔王や魔族達の仇を撃つ

またと無い機会よ!

魔王国の威信にかけて奴らを叩き潰してやりましょう!」


エレノアは玉座の上に

立ち上がり魔族達を鼓舞すると

それに答えるように

魔王城中に魔族達の咆哮が鳴り響いた。



********************



「はぁ.......」


会議が終わり魔族達が玉座から去ると

エレノアは張っていた気を緩め脱力した。


気づけば広間にはエレノアとカタストロフだけとなっていた。


「エレノア様、とても勇ましいお姿でした。

また一つ成長なさりましたね」


カタストロフは玉座から降りようとするエレノアに手を差し伸べながら

慈顔を浮かべて讃える。


エレノアはそれにぎこちない笑みで返す。


いつもは嬉しいその言葉も何故か

今は子供扱いされているようで複雑だ。


あたり前よね..私って7歳だもの。

そりゃ恋愛対象だったらだったで

困惑しちゃうけど

こうも恋愛対象外の扱いを受けるのも

悲しいものなのね..


「カタストロフ..精霊王のことって聞いていいことかしら」


エレノアはずっと気になっていた事を

口にした。

精霊王はカタストロフのことを

「子」と読んでいた。

つまり父親って事なのかしら。


でも会議の時の二人は

まるで他人のようだった。

カタストロフはライリーに目も合わせていなかったし..


私、考えてみればカタストロフの事を何も知らない。

カタストロフは私のことを何でも知っているけど私は今まで知ろうともしていなかった。


「エレノア様、気を使って頂けて申し訳ないですが、あの者との接点は特にないです。

生まれた土地の王ではありますが、

私はあの森を

故郷だと思った事はありません。


私にとっての故郷も居場所も前魔王様やエレノア様の側に他なりません。

それは昔も今も、何一つ変わらないことです。


私を側においてくださって

本当にありがとうございます」


カタストロフは跪いてエレノアに視点を合わせると柔らかな微笑みを向けた。


エレノアはその言葉に喉がきゅと締め付けられる。嬉しい言葉をかけて貰っているのに何故か寂しい気持ちが胸に渦巻く。


「カタストロフの前言った言葉の意味..

少し分かったわ..」


「エレノア様..?」


うまく作れなかった笑顔を見せたくなくて

顔を伏せるとカタストロフが心配げに名を呼ぶ。


「辛い事を言ってもらえないのは

ほんのちょっと寂しいものね」


名を呼ぶ声に答えるように

カタストロフを見て

そのまま、ぎこちないままの

ふにゃりと弱々しい笑みを浮かべた。


その笑顔にカタストロフは瞠目した後

瞳をゆらゆら漂わせた。


やがて決心したように目を伏せ

ぽつりと言葉を続けた


「精霊の森を追放された時、

私はこの世界に絶望しました。


精霊として生まれたばかりの私は

力の制御が出来ず

私の思いと関係なく

森を燃やし精霊を傷つけました。

精霊王はそんな私を森から追放しました。

私は私を排除しようとする精霊を憎み、

自らの不浄の身を憎み、

気づけばこの世界に災厄をもたらす悪魔になっていたのです。


きっと前魔王様やエレノア様に会っていなければ私もヴィルカーンのようになっていたのかも知れませんね。


そう思うと少し複雑な気持ちにはなります。

ただ、」


カタストロフは伏せていた紫灰の瞳を

真紅の瞳と交合わせる。


「今はただ、嬉しいのです。

エレノア様が私の傷を自分のもののように悲しんでくれる事が、ただただ嬉しいのです。

このような愚かな私を許してくださいますか?」


カタストロフの揺れる瞳に映る自分の顔を見るのが妙に恥ずかしくなるが

その瞳があまりに綺麗でそらせなかった。

朝焼けの霞みがかった紫の空のようだと

ぼんやりと感じた。


「....えぇ、許すわ

貴方が喜ぶならば、

私が許さない事なんて、一つもないわ」


何故か涙が出てきそうになるのを堪えながら

エレノアは潤んだ瞳を

揺らめかせながら微笑んだ。

お読みいただきありがとうございます。

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