第二話 精霊救済作戦
魔王城の最上階にある玉座の間に着くと
そこは前魔王の王城の玉座の間と
非常に酷似していて驚いた。
高い天井にそびえる
妖しくも美しいステンドグラスの大窓の下に佇む、静寂の間に一際目立つ豪奢で禍々しい巨大な椅子に座る。
そこに埃一つ無いことから
いつでも座れるように
魔族達が掃除していたと分かる。
小さな体では登ることが難しいため魔法で
体を浮かせて座ると、
身の丈に合わぬ玉座に座る自身は側から見ればさぞ滑稽だろう自嘲しながらも
顔を引き締め眼下に目をやる。
オーガストは眼下に跪き
頭を下げている。
フィリルもオーガストに言われて嫌々ながらもそれに倣った。
私はずっと怖かったのかも知れない。
ここに座ることを、
....魔王となることを。
その迷いが魔族達を苦しめることになってしまったんだ。
己の立場の大きさを理解していなかったから。
「皆を連れて参りましたが
この場にお呼びしても宜しいですか」
間も無くカタストロフがエレノアの元に着くとそう告げる
エレノアはそれに頷くと
ぞろぞろと城内の高官達が入ってきた。
最初に入って来たのは
精霊王だった。
皆がエレノアに跪く中ライリーだけは
その場に堂々と立ち上がり
エレノアの言葉を待つ。
その周辺には蛍火のような精霊達を侍らしている。
エレノアは全員がこの場に集まるのを
見届けると玉座に座ったまま
強い眼光を眼下に向ける。
「今回の一件私の不甲斐なさが
魔王城に危険をもたらしてしまった。
しかし、魔王としてもうこのような
事態はもう絶対に起こさせないと約束する。
従って私の父である前魔王を斃した勇者と
呪印によりこの魔王城に危機をもたらした張本人である悪魔を斃す作戦を皆に伝えるためこの場に呼んだ。
意見のあるものは躊躇わずに言って欲しい。」
エレノアはそういうとまずここまでの経緯話し精霊王とフィリルの紹介をする。
ライリーの正体や人間であるフィリルに
魔族内が騒ついた。
それをエレノアは咳をして制す。
「コホン、初めに二人に
勇者と悪魔の詳しい情報や三日後の動向について知っている事を話して貰おうかしら」
最初に口に出したのはライリーだった。
「悪魔の名はヴィルカーン
風を操る災厄の悪魔だ。
冷酷で無慈悲な男だ、
憎しみに生き、その為にならどんなことでもやってのける狡猾さもある。
勇者の事はよく知らぬ。
ただ印象としては気の弱い少年だったな
いつも何かに怯えているようであった。
三日後に来るのはヴィルカーンと勇者、それに3、4人の教団員を連れて来ると聞いている。」
「僕もそれくらいしかないな
ただ勇者は恐らく呪印持ちでは無いよ。
教団にいた時噂で聞いたんだ。」
「それは確かなの?」
エレノアがライリーに確認する。
「あぁ、あの少年は呪印持ちでは無い。
そういえば、お前はあの時、
勇者を説得すると言ったがまだそれが可能な根拠を言っていないな」
黙って聞いていたライリーが抑揚のない声で
エレノアに問いかける。
「二人とも情報をありがとう。
そうね、そこはまだ憶測の域を
出ていないからここでそれについて
言及するのはやめておくわ。
今は魔力無効化結界で悪魔を弱体化させ使役し、精霊達や精霊王を解放する事。
それと勇者の聖剣を奪い取るまでを目標に動いて行くつもりよ。
勇者が呪印持ちで無いなら
無力化した後捕らえましょう。
勇者には聞かなければいけない事がたっぷりある。お父様の仇を打つのはその後よ」
有無を言わさぬ圧倒的な魔力を
真紅の瞳に揺らめかせ
真っ直ぐに言ってのけるエレノアに
魔族達の士気が高揚していくのが分かる。
「では、明後日の作戦について
話していくわね。
今回部隊編成は
フィリルが指揮する対勇者班
対悪魔結界を作る精霊班A
対勇者結界を作る精霊班B
そして残った者は魔王城で
悪魔を迎え撃つ
この計画は魔王城に来る前に勇者をワープにはめてフィリルには勇者に成り代わって貰う
何故なら魔王城で悪魔であるヴィルカーンが何を要求するのか分からないからよ
フィリルには勇者と成り代わって
うまく其れをかわして貰いたい
勇者のワープ先は勿論魔力無効化結界内
そこで勇者を取り押さえる部隊をクリストフに全任するわ。精霊班Bと一緒に行動しなさい。メンバーの指名も貴方に任せる。
神聖な力を失っても勇者の力は侮れない
油断は決して禁物よ。
魔王城では適切なタイミングが来たら
精霊達に結界までワープを起こして貰うわ。
これが一番重要よ
相手は狡猾な悪魔なのだから
うまく不意を突かなければ
精霊王や精霊達の身に危険が及ぶ
慎重に事を運ぶ必要があるわね。
ワープ後は
カタストロフや力に自信のある魔族達を
集めて物理勝負に持ち越すわ
出来るだけ悪魔を弱らせて頂戴
この部隊はカタストロフに任せるわ
カタストロフ以外の者は精霊部隊Aと共に
待機していなさい。
オーガストには魔王城の者全員に
呪印がかかった状態に見えるよう変身魔法をかけて貰うわ。
この作戦で重要なのは精霊とヴァンパイア族であるオーガストとフィリル、貴方達よ。
この計画をうまく実行できたら
貴方達の今回の行いについては目を瞑ってあげるわ、出来ないとは言わせないわよ」
「ちょっと待ってよ!
僕に勇者に成りすませだって?!
あまりにリスキー過ぎる
いくら僕が何度かあの少年に合っているからってとても正気の策とは思えないよ」
「変身魔法は普通の魔法と違って
魔力操作にセンスがいるのよ。
ただの変身魔法は出来る魔族も他にもいるけど寸分の狂いも今回は許されない。
この役目を任せられるのは変身魔法が得意なヴァンパイア族である貴方達だけ、
オーガストには別の仕事を任せてあるけど
フィリルが出来ないのであれば仕事を交換させるしかないわね。
成りかわるまでの策も用意しているの、
パーティでの立ち振る舞いを見ているに
貴方なら出来ると信じているわ」