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転生先は魔王の娘でした。  作者: 成瀬イト
吸血鬼の国編
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第十一話 魔王の決意と恋心

「勇者?」


「いや、あの子は私の”子“だ。

カタストロフのように悪しき精霊として

この世界に生まれた。

悪しき精霊は森には置けない。

幼い身で森を追放されたあの子は

悪魔となり精霊を恨んだ。


カタストロフのように魔王やお前のような居場所を見つけられず憎しみのみを心の拠り所にして生きてきた。


そしてあの子は悪しき呪いを連れてきた。

私達は呪印には勝てなかったのだ。」


「ではその悪魔に呪印を解かせればいいのね」


「だがそれは無理だろう

あの子は勇者と共にいる

いくら魔王でも聖剣には勝てない


それにあの子は憎しみを糧に生きて来たのだ

絶対に精霊に呪いを解くことはしないだろう


話はここまでだ、

これ以上無為な話をする気はない」


ライリーから呪印の気が増していく。

後ろで見ていたクリストフ達が呻きをあげて

苦しみだす。


まだよ..よく考えるのよ、エレノア。

精霊の力を得られれば勝機は必ずあるはずよ。


「悪魔を使役すればいいの

悪魔だとしても弱らせれば可能だわ」


エレノアは緊張でガクガクと震える膝に

力を入れ真っ直ぐに正すと射抜くように

ライリーを見つめる。

ライリーはそれを一瞥すると

その後の言葉を待つように見据える。


「魔力無効化結界を使うのよ

そこでは聖剣の力も使うことはできない」


「あの子が結界内に

自ら踏み込むとは思えない

現実味のない策だ」


「誘き出すの、

魔族と協力すれば必ず出来るわ


それに勇者はもしかしたら

説得できるかもしれない」


ライリーはその言葉に僅かに瞠目する。

エレノアは強気に微笑む。


「...私の策に乗って見る気はない?

貴方や精霊達を危険な目には合わせない


ただ力を貸して欲しいの

私はもう誰も失いたくない


貴方が精霊達を守るように

私も魔族を守りたいの


人間達には決してやらない

貴方達、精霊達もよ」


ライリーはエレノアの瞳をじっと見つめる

その視線に答えるかのように見つめ返すと

その無機質な虹彩がチリリと

僅かに揺れた気がした。


「...決行は三日後がいいだろう

私が今日魔王城を攻めることは

人間達に伝わっている


そしてこの城に

奴らが来ることになっている


勝算がないと分かればこの計画は廃止、

お前達を呪印で縛る

それでも良いと言うのなら手を貸そう」


ライリーの言葉に

エレノアは揺らぎのない瞳で強く頷いた。

ライリーその様子を一瞥した後

瞳を閉じて城内に

充満した呪印の気を払った。


カタストロフの全身を覆った呪印が引いていく、ライリーは抱えていたカタストロフをソファーに寝かせた。


長い睫毛に白磁の肌

それが穏やかな死に顔のように見えて

エレノアは胸に込み上げていた

しかし抑えていた不安が決壊するように

カタストロフの頭を抱きしめた


お願い..目を覚まして...っ


そしてカタストロフの瞼が

ゆっくりと開いた。


「.....エレノア...様?」


カタストロフはぼんやりとした瞳で

緩慢に呟く。


開かれた紫灰の瞳にエレノアを映す。

そこに映っていたのは動揺か安堵か、

ただこの状況を理解できていないように

目を大きく見開いている。


その様子に暖かいものが胸の奥から洪水のごとく溢れ出した。


エレノアの大きな瞳から大粒の涙がポロポロと込み上げてカタストロフの頬に落ちていく。


「生きてた...生きててくれた....っ

良かった...良かったよぉ....」


エレノアは子供のように嗚咽を漏らして

泣き続けた。


カタストロフはその様子を困惑げに見ていたが見開かれたその瞳は感動に揺れていた。


やがてふわりと優しく頬を撫でると

愛しげに目を細めた。


「エレノア様...

無事でいてくださって良かった..っ

貴方なら呪印を解いてくださると

信じていました」


エレノアは今も止まらぬ涙を頬につたわせながら微笑んだ。


「当たり前でしょう..?

貴方は私の...大切な...」


緊張の糸が切れたせいか

急に瞼が重くなる


「エレノア様..?」


カタストロフが心配している..

でも瞼が重くて上がらない

体の力も抜けていく


そのままエレノアの意識は遠く

彼方へ旅立った


「エレノア様??!!」


カタストロフの叫びも遥か遠く聞こえた気がしたがそれもすぐに消えていった。


彷徨う意識の中

カタストロフが何度も

私の名を呼んでくれた気がしたが

何故か答える気になれなかった。


良かった..本当に良かった...


貴方が私の名を呼んでくれるだけで

こんなにも安心する。


カタストロフは

いつも私の傍にいてくれた。


変わらぬ微笑みで

いつも私の背を支えてくれた。


だから貴方を失う怖さをいままで

考えて来なかった。


貴方の側に当たり前に居られることに

甘えていた。


だけど今はっきりと

胸の奥に灯る

暖かい思いとともに自覚する。


形の良い唇が

切れ長で繊細なその瞳が


頬に触れた暖かい手が

優しげに響く

低く柔らかなその声が


今はただ愛おしいと感じている。


私はこんなにもカタストロフのことが

好きだったんだ。

お読み頂きありがとうございます。

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