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転生先は魔王の娘でした。  作者: 成瀬イト
吸血鬼の国編
42/64

第九話 望まない再会

※カタストロフ視点になります。

はぁ....


エレノア様を送り出した翌日

静かな執務室で一人書類整理をしていると自然と溜息が溢れる。


あの血に飢えたヴァンパイアの領地に

人間の血の通うエレノア様が訪れるなど

今も想像するだけで頭が痛くなる。


エレノア様がお生まれになってから

7年間このようにお側に入れなくなるのは初めてだった。

悪しき精霊としてその身を宿し、

その不浄の身ゆえ精霊の国から追放され

気づけば身に滾る憎悪で悪魔となっていた。


そんな私に手を差し伸べたのは

魔王様だった。

それから私の世界は魔王様を

中心に回っていった。


それは私が生まれ落ちて

唯一の居場所だった。


そしてその子であるエレノア様は私に出来た初めての守るべき存在だった。


触れれば森が炭とかした幼少を過ごした

私が触れて良いのか迷うほど

繊細で儚げな存在に

初めて小さな手で指を掴まれ

その愛らしい瞳で微笑まれた時、

私の世界は鮮やかに色付いたようだった。


魔王様が封印されてもなお

平常を保っていられるのは

エレノア様がいるからだ。


彼女が傍にいるだけで

私にとってはそれで良かった。

本当は魔王の重荷など

背負って欲しくは無かった。


最初はそう思っていた。

だがエレノア様は私が思っていたよりずっとお強い人だった。

震えながらも小さな背中を真っ直ぐにはって

辛い時も弱音など吐かない。

そんなお姿に寂しくもあり

魔族として誇りを感じていた。


だが子供らしくあられた以前とのギャップに

未だ腑に落ちていない所もある。

まだ幼い身ながら前魔王様が封印されて以降妙に達観して物事を発するようになった。


まるで彼女がいきなり何年もの生涯を経験してきたかのようだ。

子供の成長速度とはあのように早いものなのだろうか..?


「眉間の皺なんとかしなさいよ、カティ

まだ1日しか経って無いのにその様子じゃ先が思いやられるわね」


呆れたように眉を下げながらライリーが執務室からお茶を持って入ってきた。


「ほら、オーガストからの報告書

珍しいわね、彼が直々に書くなんて」


「あぁ、護衛に任せたものに頼んでいるが

オーガストには頼んでいない筈だが」


何かあったのだろうか、

エレノア様の肩を持つあいつが私に報告書を送ってくるなど明らかに不審だ。


胸の奥からざわざわと不穏に響く血潮を感じながらカタストロフはゆっくりと封を開けた。


封筒には短く、簡潔な文章が書かれていた。


『パーティを騒がせた呪印の主は私だ。

ライリーを脅し偽の結界を貼らせた。

証拠は全て私の机に揃っている。


私は姿を消す。決して追うな。

魔王は無事に返す。

だが何か行動を起こせば

魔王の命はないと思え。』


胸騒ぎが確信へと変わる頃には

すでに血の気は引きひやりと冷たい汗が伝った。


「!ちょっと?!どうしたのよ?!!」


弾かれるように執務室を飛び出すと

ライリーが困惑げにその後を追った。


オーガストの机の引き出しを勢いよく開けると、きっちりと封筒にまとめられた資料の束が置いてある。

中を確認すると事件についての詳細な書類やライリーを脅したとされる署名付きの書類まであった。


「....これは事実か?」


カタストロフは鋭い視線で署名の書かれた書類をライリーに突き出した。


「..........」


ライリーは苦々しげに眉を潜めたまま何も言わなかった。その沈黙は肯定を表していた。


何故だ?


カタストロフには腑に落ちない点があった。

何故今この書類を出したのか。

オーガストが確実に逃亡する為に

魔王城内から離れる必要があったのは理解できる。


だがここまで用意周到にしていたのは何故だ?逃亡を確実にするなら

このような手紙は必要ない。

ましてや証拠になる書類など..


何か怪しい...


まるで今日必ずこの手紙とこの資料を見せる必要があったかのように、

全てが計画的に行われている。


「すぐにこの件を第一省に報告しましょう

エレノア様が危険だわ」


動揺するカタストロフとは一転して

ライリーは落ち着いた面持ちでカタストロフを見据えた。


その冷静な声色に事の異様さが深まる。

いつものライリーならば同僚の謀反に

このように冷静な対応はすまい。

ましては自身が関わっていたというのに..


カタストロフの疑念が深まると同時に

ある事に気がつく


「待て、.......どうしてこんな所に結界の気配がするんだ....?


.....お前は、誰だ?」


いつもなら結界に気づかないなどあり得ない

それだけ動揺していたのだ。

だが己の失態に血が出るほどにぎちりと

奥歯を噛みしめる。


カタストロフが憎悪と悲哀に歪めた瞳でライリーを射抜くように睨みつけると

ライリーは憐れむような瞳で

寂しげに微笑んだ。

お読みいただきありがとうございます。

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