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転生先は魔王の娘でした。  作者: 成瀬イト
吸血鬼の国編
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第八話 真相(2)

「呪印持ちの女性は愛する人に呪印をもらったと言っていたけどそれは貴方では無いのよね?」


「僕な訳ないだろ?

彼女はただの仕事仲間さ

ねぇ、君は誰がこの事件を起こしたのか

分かるはずさ、僕に分からなくても君には。

だってこんな事ができるのは

兄さんのことをよく知っている人物だけだ。

そして事件の中心にいたはずだ。


よく考えなよ、哀れで無知なお嬢さん」


事件の中心にいて

オーガストと仲のいい人物なんて数えるほどしかいない。


何か違和感はないかしら..

そうよ、あの時..


「貴方、地下室に来たわよね..?」


地下室で彼女が自害したあの瞬間、

灯りを消した者がいた。


「僕は彼女を助けに行こうとしたけど

灯りを消そうとはしていない

そればかりか妙な結界に

取り込まれる始末だ」


おかしい、でもあの時の魔力の気配は

フィリルのものだった

本当にそれだけだった?


待ってあの時、ギリギリまで魔力の気配がしなかったのは?


私はあの時彼女の仲間がいる事を

想定して気を張っていた。

フィリルの気配を気取る事が

どうしてできなかったのかしら。


そんな事は特殊な結界でも張っていなければ不可能よ。


それよりもっと前女性が悲鳴をあげた時呪印

の気配はしなかったわ。

あの時は変身したフィリルに目がいっていて

そこまで頭が回らなかったけど

考えればおかしい。


探知させないような高等魔法が使えなければそれも不可能。


エレノアは恐ろしい事実に気がついた。


ひやりと全身の血が一気に引いて

嫌な汗が背を伝った。


この二つが可能で、オーガストと仲のいい人物で、尚且つあの地下室のあのタイミングで灯りを消せる者など一人しかいなかった。


自然の魔力に限りなく近い

精霊の力を借りれば

探知されない魔法が使えるからだ。


「ライ....まさか、ありえないわ」


「ようやく気がついたんだ、

ねぇ、君の愚かさがやっとわかった?

君は無知な事を恥じられるくらいの賢さはあるけどそれで満足していたんじゃない?


心のどこかで7歳という若さを理由につけて

魔王城にすでに蔓延っていた違和感に気付こうともしなかった。」


「ちょっと待ってよ、

ライが犯人な訳ないわ!

そんな事出来るような人じゃないもの」


「そんな事出来るような人じゃないって

本気で言ってるの?

現にそんな事してるじゃないか

君は目の前の現実に目を背けてるだけだ

僕はね、教団を通じて君を見て来たよ

君は周りに流されてばかりいただろう


君は今まで誰にも傷つけられず傷つけない世界で生きてきたんだろう?


分かるさ、君の答えはいつも

良い子の答えだからだ」


「良い子の答え?

そんな事を無いわ、

私は魔族達を救いたいと本気で思っている

お父様を取り戻して必ず呪印の事件も解決する」


「綺麗事は大概にしてくれ

君は今まで何をしていた?

君は一人で突っ走って

かっこいい主人公を演じてたつもり

かも知れないけど

君のやってきたことなんて

教団の奴らを悪戯に殺しただけだ

何一つ解決出来てないんだよ」


エレノアはその言葉に奥歯を噛み締めた。

フィリルの言葉は紛れもなく事実だった。


「人間国が動きを見せないことに

疑問は持った?

勇者の呪印が魔王城まで入ってくる可能性を懸念した?

君の敵は目の前に居たんだ

すぐ近くに!


僕が教団に潜入して出来たことなんて

こうやって君や外部の者に

内情を知らせるくらいだった

兄を救うために組織に入ったのに

僕は利用されるだけ...


でも..君は違うだろう?

君は魔王なんだ


魔王であれば出来たことなど

いくらでもあった


でも君は目先のことしか見えてない

うまく向き合ってるつもりだろうけど

君は流されていた事にも気づきもしない


たとえ7歳でも、だ

第一君は記憶持ちだろう?」


フィリルは捲したてる声を荒げた。

その瞳に灯る憎しみを隠そうともしなかった。それと同時に己の無力も恥じているように切なげに顔を歪ませた。


堰き止めていた感情が溢れているように

フィリルは無我夢中で

言葉を吐き出しているようだ。


記憶持ち、それは前世の記憶を持っている人のことだろうか?

オーガストが前に言っていた事を思い出す。


フィリルの言う事は正しい

私は確かに7歳という年齢にかまけて居たのかもしれない。

無知を知りながらそんな根本的な疑問にも目が行かなかった。


それに目先のことしか見えていない、

その意味さえまだ理解出来ていない。

そのことに喉に奥がずきりと軋むように痛んだ。


「君がもっとしっかりしてれば

兄さんがこんな事になる事など無かったのに

あの男を敵に回したんだ

もう終わりさ

兄さんは幸い

あの魔王城から離れるが出来たけど

他のやつはどうだろうね」


フィリルは自嘲げに笑う

しかしその青い瞳は泣いているように見えた。


エレノアはその刺さすような視線を

一身に受け、眉間を深くしながら俯いた。


あの男とはライリーの事だろう。


ライリーが事件の主犯なのであれば、

危険なのは....


「そう...そうだったのね...」


目的はオーガストではなかったんだ。


真の目的は、


「カタストロフ..」


エレノアは勢いよく飛び出した。


街を出ようとした時

クリストフと鉢合わせする。


「エレノア様!!!!!???

どこ行ってたんだよ!!!

匂いをたどって見たら屋敷の外にいるし、

今屋敷が大変な事になってるんだ

今すぐ魔王城に戻るぞ!!!


オーガストが事件の主犯だったんだ!

今朝本人がそんな事を言って姿を消したから

屋敷中大混乱で、魔王様の姿もないから

本当に肝が冷えたぞ...っ」


「......わかっているわ

すぐに帰りましょう」


エレノアはクリストフの言葉に

手短に返事をすると

すぐに馬車に乗り込んだ。


早く、早く帰らなければ....っ


逸る気がどくどくと高ぶる

額に伝う嫌な汗と

父の斃されたあの日の記憶が反芻する


私は馬鹿で愚かな魔王だった

あの時を繰り返さないと誓ったのに


また勇者に大切な人を奪われる

私がもっとこの世界を知っていれば

もっと勇者の行動に違和感を覚えていれば


魔王城にいる者を疑っていれば


「嫌よ....嫌...」


カタストロフ...お願い!

無事で居て....っ


貴方を失うなんて耐えられない


『貴方は私達魔族にとっての

希望なのです

どうかご自分のお立場をよく

自覚してくださいね』


いつかの森の中でそんな事を言ってくれた。


私はその言葉を理解していなかった。


カタストロフも

魔族のみんなも

私は魔王なのに何一つ皆を救えず

そればかりか皆に守られ

結果的に魔王城をこうして

危険に晒している。


“君は目先のことしか見えていない”

“君の答えはいい子の答えだから”


フィリルの言葉が脳裏で何度もこだまする。

私の出した答えは魔王の答えではないといの?


私の正しいと思って行っていたことは

間違っていたの?


ふと頭に優しく手を置かれ

エレノアは目の前を見る


「魔王様、心配すんな

俺が必ず守ってみせるから」


クリストフがいつも通りの

快活な笑顔でにしっと笑った。


エレノアはその笑顔に

ストンと何かが落ちるように納得した


そうか、私は支えられている事に

気がついていながら

その事を理解していなかったんだ。


いつも一人で事件を解決しようとしていた。


私は魔王だ。


たった一人の小娘じゃない。

国を守るために魔族達を指揮して

勇者を倒すために導く事をしてこなかった。


7歳の私には無理だと、勝手に判断して

考える事を放棄していた。


だからこんな事になったんだ。

私の答えは“良い子の答え”

それは自分にとっての良い答えで

国にとっての良い答えでは無かった。


私にはすぐ側に支えてくれる仲間がいるのに

彼らを動かすこともしない。


それは彼らは幼い私のために

自分から動いていたからだ。


私はそれを当たり前に

受け入れていたからだ。


そんな事に今更気が付き

エレノアは悔し涙で歪んだ視界を

片腕でぐいと拭うと

頰を叩いた。


「クリストフ、みんな、

聞いて欲しいことがあるの

私がフィリルと話した事について。


あなた達の助けが必要だわ

お願いできるかしら」


エレノアの言葉に一同が瞠目する。

クリストフは小首を少し傾げながらも

嬉しそうに微笑んで強く頷いた。

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