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転生先は魔王の娘でした。  作者: 成瀬イト
逃亡編
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第一話 前世の私

初回のみ連続投稿します。

私の前世は日本の普通の女子大生だった。

ゼミの友人達との飲み会の帰りに自動車事故で死んだのだ。


普通の家庭に生まれ、

仲の良い兄弟や優しい友達に恵まれ

平凡ながら何不自由ない平和な世界だった。


今思えばいきなり死んでしまったことで

大切な人達がどれだけ悲しんだか、

想像すると胸が痛む。


それを実感したのは今この瞬間、

父を失ったからだ。


前世にも父がいる分、

なんだか不思議な気分だが

たった6年間でも自分を育ててくれた大切な存在。


今世の名前はエレノア。

魔王の娘であり、

魔王の攫った月の国の王女アリーチェとの間に生まれた魔族と人間族の間の子供。


この世界には太陽の国、月の国、魔王の国という三つの大国があった。

それ以外にも小国が多くあったがこの三つの国が強い権力を持っていた。

アリーチェは月の国の第一王女であった。


母譲りの白銀の髪に、父譲りの真紅の瞳。

魔族とのハーフではあるが父のような角は生えていない、一見すると人間の様に見える。


母は体が弱く3歳の頃に亡くなった。

魔王に攫われたのに関わらず母と父はとても仲睦まじく、穏やかで心優しい母は私に暖かい愛情を向けてくれた。


何故人である母が私や父を憎まなかったかというと実際のところ王家の権力争いに母が巻き込まれ、暗殺されそうになっているところを父が助けたからだ。


母は人間界の権力闘争に辟易していた。

体の弱い母に矛先が向けられた理由は

国王と王妃との間に生まれた子が母であるアリーチェだけだったのだ。


月の国では母の婚約者と

国王と側室の子である第一皇子

との間で起こった。

権力争いは通常、正室との子が男であればその子供が、女であれば子供の婿に第一王位継承権が与えられる仕来りがあった。

アリーチェの場合も例外ではなく、

第一皇子派から命を狙われていたのだ。


そして父は母を攫ったのだ。

それは父にとってはほんの気まぐれであり、

母にとっては運命であった。


アリーチェを救うため、

王室はあらゆる手を打ったが魔族に惨敗を期した。

そして何百年も昔の伝説に頼ったのだ。

聖剣の力を引き出せる勇者と

それに仕える4人の戦士達によって魔王を倒したという伝説を。


魔族達はそんな伝説を信じていなかった。

私にとってもなんともありがちな設定だ。

しかし18年という月日がたった時、

人間側は見つけてしまったのだ。

聖剣の力を引き出す勇者を。


アリーチェを救うという大義名分は

母が亡くなっているため

もう効力を失っていると言うのに、

勇者達は魔王の四天王達を

バッサバッサと斃していき、

ついには父である魔王も斃してしまった。


母を救う事は出来なかったものの、

数百年もの間魔族に勝てなかった人間達が

魔王を倒したと言う事は、

魔王の国を支配する

権限を得た様な物なのだ。

おそらく勇者達は英雄として

華々しく迎えられるのだろう。


そう思うと何とも耐え難い

苦渋の念が喉をきつく締め付けた。


結局は父の死も領土拡大を画策した人間側の謀略に母を政治利用しただけの話だったのだ。


6歳という幼子だった私は

その様な考えにまで至らなかったが

前世の記憶を取り戻した今だから分かる。


もう少し記憶を取り戻すのが早かったら父を救えたのだろうか

いや、前世だって普通の女子大生だったのだ

その様な考えは浅はかなのだろう。

だけど、何か出来たかもしれない、

そう思わずにはいられない。


このどうしようもない感情に

どうけりをつければ良いのか

分からないのだ。


ただまだ実感が湧かない

あんなに父の死が怖かったのに

私はまだ魔王城に戻れば父が迎えてくれるのだとそう思えてならないのだ。


「エレノア様」


ふと気づくと

私を横抱きにして飛行するカタストロフが

心配げに私を見つめていた。


いつから見つめていたのだろう、

思考の海に投げ出された私を引き戻すように

彼は私を真っ直ぐに見つめていた。


暗めの朱色の髪は聖剣の光で切り開かれた晴れ間から刺す光によって毛先がルビーの様に美しく透過している。

揉み上げは肩につかない程度にやや長く

後ろ髪は金の品のある髪留めに一つにまとめられている。

朱の髪からみえる耳は少し先が尖っていて

災害をもたらすと言われる悪魔である彼は

漆黒の角と飛龍の様な翼を羽ばたかせ、

黒いローブにも似た品のある刺繍が施されたマントをなびかせ悠美に宙を舞う。

グレーがかった紫色の切れ長の瞳はやや伏せられ長い睫毛に影を落として、

私の思考を細やかに読み取る様に見つめる瞳には憐憫にも似た情を感じる。


魔族には美形が多いため

今まで気に留めていなかったが

改めて見ると繊細で整った顔立ちには

人外的な神々しささえある。


魔王の右腕である彼は、

幼い頃から父に仕えていたのだという。

魔王の死は彼にとっても家族の死と同じくらい辛いものだろう。

それでもエレノアの心情を最優先に案じてくれるその情に申し訳ない気持ちになる。


「カタストロフ、私は大丈夫だから。

まだ勇者達が私達を追ってるかもしれない。

空は目立つわ、

一旦森の中にでも降りて隠れましょう。」


私の言葉にカタストロフは瞠目した。

しかし直ぐに表情を引き締めると頷いて

周囲を確認した後、広大な森の一角に静かに降り立った。

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