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転生先は魔王の娘でした。  作者: 成瀬イト
吸血鬼の国編
38/64

第五話 人種違いの兄弟

数話まとめて投稿します。

出口に出る前に

オーガストに変身魔法を解いてもらう


「オーガストは私の事を何か察している訳ではないのよね?」


エレノアは名残惜しそうに魔法を解くオーガストに問いかける。


「いいえ?確信しているのですよ」


その言葉に目を丸くして息を飲んだ。


「やはり正解でしたか」


オーガストはニヤリと目を細める。

「昔、人間国の書物で見た事があるのです

別の世界の記憶を持った人間が稀に生まれて来る事があると、貴方はもしかしてそうでは無いかと」


「それは...本当なのか..?」


エレノアはその言葉に言葉を失った

クリストフはとても信じられないと言うように眉を寄せて首を傾げている。


「そんな書物があったのね..

その書物はどんな題名なのかしら」


という事はこの世界に私と同じ人がいる可能性もあるのね..

もしまだ存在するなら是非読みたいわ。


ところがオーガストはにっこりと微笑むと

続きは教えてくれなかった。


エレノアとクリストフはその様子を

訝しげに見合わせるが

結局出口へと無理やり促されてしまった


パーティホールを出ると

後から追いかけて来たのであろう従者達が

困惑げに待っていた。

エレノアは慌てて謝り、

事の次第を掻い摘んで説明した。


それから暫くの後、オーガストの案内により

オーガストの邸にたどり着いた。



「我が邸へようこそ

いらっしゃいました、魔王様」


エレノア達はオーガストの案内で

街から少し外れた森の中のオーガストの実家である洋館にたどり着いた。


白と焦げ茶を基調とした豪奢でありながら上品な出で立ちをしており

所々に金の装飾が施されている。

館には仄かに明かりが灯っていて

門の前には執事のような格好をした

70代くらいに見える男性が出迎えにきていた。その奥には落ち着いたメイドの格好をしている侍女がこうべを垂れて6人ほど左右に待機している。


イアンの家にも驚いたが、

宮廷に勤めている家はどこもかなりの権力を持っているようだ。


執事に連れられ屋敷の中へ入ると真っ赤な絨毯が敷かれた広く開放的な玄関口には若い二人の男女が立っていた。

若い女性はエレノア達に気づくと

軽く会釈して近づいて来る。


「ようこそいらっしゃいました

...あら、何かあったのですか?」



亜麻色の髪に繊細で優しげな顔立ちの女性が

エレノア達から漂う何処と無く張り詰めた空気を感じ取ったのか

眉を潜め空色の大きな瞳を不安げに細めた。


「....どうやら見つけたみたいだね」


追いかけるように歩いて来た金髪に紫の瞳の男性が声をかける。


「えぇ、フィリルを噂の社交パーティーで見つけたのですが、逃げられました」


「まぁ!....何てことかしら...」


オーガストの言葉に

亜麻色の髪の女性は悲痛に暮れるように顔を歪ませてポカリと空いた口を手で覆った。


「そうか..ひとまずご挨拶がまだでしたので恐縮ですがさせて頂きます、魔王様。

私はヴィンセシア領の領主でオーガストの父であるバトラーと申します。

こちらは妻のセシリアです」


バトラーはセシリアの方を愛しげに

引き寄せた。

セシリアもその手に答えるように

穏やかに微笑んだ。


「ご挨拶預かりました、

セシリアと申します。

噂は予々伺っておりましたが噂以上に可愛らしいお方ですね。


オーガストからお話は伺っておりますわ。

人間と魔族の関係に興味がおありという事で、私は元々人間ですので、魔王様のお力になれるかは分かりませんがお話することも御座いますので、宜しければ何でもお聞きしてくださいね」


「随分お若いご両親ですわね..」


二人はオーガストの両親を名乗るにはあまりに若かった。オーガストの兄や姉というのがしっくりくるような出で立ちだ。


だがそれ以上に気になる事が一つあった。

セシリアと名乗る女性はフィリーにとても良く似ていたのだ。

髪色こそ違うが優しげに細めた柔らかい印象の顔立ちや透き通るようなスカイブルーの瞳が瓜二つであった。


エレノアがその瞳をまじまじと見ていると

オーガストが補足した。


「こう見えても父はヴァンパイアの始祖ですからこの領の誰よりも年長なのですよ。

そして母はお気づきの様ですが先ほど貴方が出会った青年、フィリルの母です

私とフィリルは異母兄弟なのです

ヴァンパイアは寿命が長いですから

兄弟間で母や父が違う事は珍しくありません」


その言葉にエレノアは目を見開いた

まさかとは思ったがフィリーはオーガストの弟だったのだ。


「...てことはフィリー、いやフィリルはヴァンパイアだったの..?」


とてもそんな風には見えなかったが

エレノア同様変身していたのなら納得できる。


「いいえ、フィリルは人間です。

通常魔族と人間族の間に生まれる子は

貴方のように遺伝子の上で圧倒的に優勢である魔族の血を色濃く受け継ぎます。

しかしごく稀に劣勢である人間族の血を強く受け継ぐ場合があります。

フィリルはヴァンパイアの血が半分流れながら人間として生まれたのです。」


オーガストはそういうと切なげに瞳を揺らす。その目には憐憫と慈愛が入り混じっているようにも見えた。

やがて軽く息を吐くと再び落ち着いた微笑みを取り戻し、邸の奥へと手を向けた。


「エレノア様、クリストフ

お約束通り説明しますから

どうぞ中へお入りください、

父上、母上にも事の次第を説明します」


促された部屋のソファーに腰掛けると

メイドが紅茶とお茶請けの菓子持ってくる。


それを確認した後オーガストは神妙な面持ちで口を開いた。


「お察しかも知れませんがパーティーの時私が探していたのは弟のフィリルです。

フィリルは私の唯一の弟でしたから

小さい頃から可愛がっておりました。


..私の話をしてもよろしいでしょうか。


弟は人間としてヴァンパイアの世界に生まれ落ちた事で多くの者から奇異の目で見られておりました。皆始祖の子であるため面と向かって迫害こそされませんが多くの陰口を叩かれ腫れ物扱いをされる弟に目をかけたのは最初は同情からでした。


しかし、弟と接しているうちに

心が満たされている自分に気づいたのです。

私は母がヴァンパイアである生粋のヴァンパイアです、もう長い間生きてきました。

そしてこれからも人の血を貪る限り寿命は

無限に存在します。


それは私にとって孤独でした。


弟と触れてそれに気づいたのです。

今まで人と接する機会など数多にありましたが食料としてでない人間と接したのは初めてだった。


だから私は弟に惹かれていたのです、

人間であり、儚い寿命の持つ弟に。


しかし私が人という

種族に惹かれているのと同時に

弟もまた、

ヴァンパイアに惹かれていたのです。


ある時、弟は私に自分の血を吸ってくれと言ったのです。

眷属になればいずれヴァンパイアになれるからと。


私はその言葉にカッとなり

弟に、フィリルに酷いことを言ってしまったのです。


「お前は人間であることに感謝すべきだ」と。


それは私の劣等感からでした。

フィリルが周囲から受けていた恥辱も

家族からの憐れみの目に晒される日々も

全て知っていながら


私はそんな事を言ってしまったのです。

傷つけるのは分かっていました。


それでも言わずにはいられなかった。

私は愚かな兄でした。


弟の向けてくれた敬愛の情に報いたいと思う反面、生の孤独に向き合えず死する勇気さえない自分の醜さを露呈していく事への行き場のない怒りを弟にぶつけていたのですから。


弟はそれから後、

私から、この家から離れていきました。

居場所も掴めぬまま探し続け人間の青年が妙なパーティーを開催している噂を聞きつけたのです。


それでこのパーティーを探していたのですよ。弟に謝りたかった。

あの日の事を、個人的な事情に巻き込んでしまい、本当に申し訳ありません」


オーガストは歪めた眉を平静に戻すように

ぎこちなく微笑んで、それから長く頭を下げた。

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