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転生先は魔王の娘でした。  作者: 成瀬イト
吸血鬼の国編
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第四話 天色の瞳の青年

「あいつどうしたんだろうな?」


クリストフが隣で首を傾ける。

エレノアは小さく息を吐くと

クリストフに少し離れた位置で護衛をする様に伝えた。


よく分からないまま来てしまったけど

確かに人間と話す機会などそうあるものではない。それにこの辺りで呪印の気配が確かにした。取り敢えず様子を見つつ話しかけて見ようかしら。


エレノアは広間内を見回した。


「白薔薇のように可憐なお姉さん

宜しければ僕とお話ししませんか?」


右耳に優しげに囁く青年の声が聞こえ

ビクッと弾かれたように振り向くと


柔らかく微笑んだ金髪の20代くらいの青年が

間近にいる。

細めた春の空のような大きな瞳には

秘めるような艶を帯びており

青年は両手を後ろでつなぎ小首を傾ける。

その小悪魔的な立ち振る舞いは彼の甘やかで柔らかい雰囲気の容姿にとても似合っていて、エレノアはつい見惚れてしまう。


そのことに気づいたのか

青年は笑みを深くすると、

エレノアの両手をぎゅっと握った。


「お姉さん、宜しければお名前を伺っても?」


エレノアはその言葉に詰まる。

このような場でエレノアの名は語れない。


「.....ノアよ」


「ノア様、貴方に似合う清らかな名ですね」


「ありがとう、貴方の名は?」


「僕はフィリー

でもそんな名など必要なくなりました

ノア様さえ良ければ僕を貴方の(しもべ)

してください。

鈴の音のように愛らしいその声で僕に名をつけてください」


フィリーは微笑を浮かべ

熱を帯びた瞳でエレノアに迫る。

その姿にギョッとして後退するが

フィリーはお構いなしに距離を詰めてくる。

オーガストの言う通り目の前の男性は眷属になりたいらしい。


やがて壁に追いやられてしまう。


助けを求めるように隣を見ると

仮面を被った女性が

男性の首元に牙を立てて

まさに吸血していた。


エレノアはヒッと体を震わせて目をそらし

眼前を向くとフィリーが片手でエレノアの行く手を阻みながらシャツの第一ボタンをプチっと外している。


使役してしまおうか、それか魔術で、

いや今この場で騒ぎをたてる事は出来ない。

呪印を持つものがもしいるなら逃げてしまうかもしれないからだ。


「彼女から離れて貰えるかな」


見かねたクリストフがぐいっとエレノアからフィリーを引き剥がす。


「邪魔しないでくれる?

お兄さんも僕たちのことは放っておいて

好みの相手を見つけに行きなよ」


フィリーは甘やかな微笑みを一転させ

鋭い瞳でクリストフを睨んだ。


「おー怖、

女性とはいえヴァンパイアを壁に追いやる

なんて人間のくせに肝が据わってるな

だけど悪いが吸血が望みなら他を当たってくれないか?俺たちは連れの付き添いで来てるだけなんだ」


クリストフはフィリーの肩をぽんぽんと軽く叩いて諭すように言葉をかける。


フィリーは眉を潜ませ怪訝げにクリストフを見ていたがやがてふっと堪えていたものが吐き出されたかのように笑みをこぼした。


「ふっふふ..っ

吸血なんて初めから望んでないよ

茶番はこの辺までにしようか

ねぇお兄さんとお姉さん?

貴方達はヴァンパイアじゃないのに

どうしてこんな場所にいるの?」


その言葉に二人は瞠目する。

首筋につたう冷や汗を感じながらエレノアは

口角を上げた。


「どうしてそう思うのかしら?」


エレノアの言葉にこてんと首を傾けて

再び柔らかく微笑んだ。

しかしその透き通る天色の瞳に隠された嘲笑の色に今更気付く。


「だって貴方は僕を見てなんの反応も

しないんだもの

まるで初めて僕を見たかのように、ね」


どういう意味だろうか?

彼はヴァンパイアの間では誰もが知るほど有名なのだろうか?


エレノアの疑問は膨らむばかりで

眉間の皺を深くして何も言えなくなる。


「フィリル..」


重々しい空気を断ち切るように

低く呟くような声が響く。


その声のする方へ顔を傾けると

目を見開き、強張った顔のオーガストが立っていた。


「あーあ、見つかっちゃった」


フィリーが顔を伏せて

萎えたような声色で吐き捨てる。


エレノアは訝しげにその両者を見比べているとフィリーが不意にエレノアの肩を掴み

その唇をエレノアの耳に寄せる。


「明日の正午、

ヴィンセシアの中央通り、時計台広場

この事は他言無用、必ず一人で来ること

誰かに話したら君の知りたいことは教えてあげないからね、“赤目のお嬢さん”」


フィリーは早口でそう囁くと身軽な足取りで壁のすぐ隣に設置された小さなバルコニーから飛び降りた。


「待て!フィリル!」


オーガストが追おうとするが

「いかががなされました?!」と使用人が

集まって来てしまったので

渋々追うのは諦めたようだ。


エレノア達がいる手前、騒ぎを起こすのは

悪手だと判断したのだろう。


バルコニーの下を苦々しく覗いていたオーガストが直ぐにエレノアの前に立って、

静かにマスクを外すと、

エレノアのマスクも

オーガストにだけ瞳が見えるように

僅かに上に傾けた。


そして逸るような面差しで問う。


「正直にお答えください、

先ほどの男は貴方に何と仰いましたか?」


その声は低く落ち着いていたが

ピリリとした緊張感にオーガストの隠しきれぬ焦燥が伝わって来る。


オーガストからくる切迫した空気に

ついその問いの答えを零しそうになるが

ぐっと喉に押し込めた。


フィリーは私の瞳の色を知っていた。

瞳を覆う仮面はマジックミラーのような黒いガラスが張られていて外側からは見る事はできない。


髪の色だけで判断するのも早計だ。

白銀は確かに珍しいが銀髪の種族がいるくらいだ、

白銀=魔王と判断したとは考えずらい。


魔力の気で判断したとも考えにくい。

ライリーとの特訓で体から発する魔力は抑えている。今は少し魔力の強い魔族と同じくらいのはずだ。


では何で判断したのか。

その前に彼とオーガストには

何らかのつながりがある。


つまりオーガストだ。


彼はオーガストと私がこの領地に来ている事を

知っていたのではないか。


だからオーガストの近くにいる白銀の髪を持つ私が魔王であることを確信した..?


だが私の知りたい事をフィリーが知っているならば絶対に本当の事は伝えられない。


「彼は私に近いうちにまた会いたいと」


オーガストは秘密を見抜くのが上手い

嘘はつくだけ無駄だ。


だが正直には伝えられない。

ここがラインだろう。


エレノアは真っ直ぐな眼差しをオーガストへ向ける。


「...そうですか」


オーガストはその瞳の裏を探るように

凝視した後それだけポツリと言うと

それ以上言及しなかった。


使用人達が集まって来てしまったせいで

あたりが少し騒ついている。

オーガストはその様子気づくと

嘆息して眉を下げた。


「少し寄り道をし過ぎたようですね

事情は我が家に着いた後

ゆっくり説明致します


正直家庭の事情にエレノア様達を

巻き込むのは気が引けますがね」


「家庭の事情?」


オーガストは小さく頷くと

そのまま出口へと促した。

今回少し長めです。お読みいただきありがとうございました。

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