第三話 人買の舞踏会
2話まとめて投稿します。
オーガストがにっこりと笑ってこちらを見ると投げかけられた二人は思わずえっ、と身体が跳ねる。
オーガストがふふっと笑みをこぼす
「ランタナ・リリーゼ」
両手をふわりと指揮をする様に揺らすと
二人の周りがキラキラ輝き出し光に包まれた。
光が消えると、エレノアは大人の容姿に、
クリストフはヴァンパイアの姿になった。
服も目立たない様に落ち着いた服を着ていたが真っ赤なドレスとタキシード姿になっていた。
エレノアは驚いて唇を確認すると
ヴァンパイアの様な鋭い八重歯が生えている。何が起こったのか分からずあたふたとしているとクリストフも同じ気持ちなのか目を見開いて口をパクパクしている。
派手なスーツの中年男性は
変身の魔術をかけた事に気付いているのか
深くため息をこぼして頭を抱えていたが
なにも言ってこなかった。
オーガストは満足げにその光景を見た後
エレノアの眼前に跪きエレノアの顔をジッと見つめた。
オーガストの瞳に大人の姿のエレノアが映り不思議な気持ちになる。
「やはり貴方はこちらのお姿の方がしっくりときますね?」
オーガストは確信めいた笑みを浮かべると
その艶美な瞳を細ませた。
その言葉にエレノアは激しい動悸を隠すかの様に無理やりに笑みをつくる。
別に隠す様な事でもないが
なぜかオーガストには知られない方が良いという気がしてならなかったのだ。
助けを求める様にクリストフを見ると
ポカンと口を開き頬を紅潮させた顔でこちらを見ていた。
いや、中身は7歳なのよ?!
大丈夫か?!クリストフ!!
と思いながらオーガストにだけ聞こえる様に小声で耳打ちする。
「なんでそのまま大人の容姿にしたのよ..?!この瞳は目立つし、変えてくれても良かったじゃない..!!」
オーガストはなぜか嬉しそうに
その小声の叫びを聞いてから
サファイアの瞳で再び見つめてくる。
そしてその瞳を不敵に細めた。
「だってこちらの方がドキドキするでしょう?」
オーガストの言葉にエレノアは
唖然とした顔で固まった。
派手なスーツの男がこほんと咳き込むと
黒服の男が白い品の良い仮面を渡してくる。
「ヴァンパイア族の方には目元が隠れるマスクをご用意しておりますのでご安心ください...それとこちらを」
次に渡されたのは一片だけ花びらが赤い、
黒い薔薇のブローチだった。赤い花の一片を取り出すと端に金の針が付けられている。針の先に付けられた留め具を外すと上品な模様の中央に3桁の数字が彫られている。
「本日のパーティでは多くの人間を揃えました。好みの相手がおられましたらその赤い花びらを人間の胸にお付けください。
それではどうぞ、お楽しみを」
マスクとブローチをつけ、
黒服の男に促されるままに大広間に入った。
中に入ると豪華絢爛な光景に瞠目する。
派手なシャンデリアの下には
多くのマスクをした男女と
マスクをしていない男女がいて、
一目で人間かヴァンパイアかが分かるようになっており、
広間の先では舞踏会が開かれている。
食事ができる場所も設けられており
様々な食材や飲み物が置かれる場で
男女が歓談している。
「どういう事なの、オーガスト」
ようやく頭が冷えてきたエレノアは
マスク越しにオーガストを睨む。
それに気付いたオーガストは広角をあげると
「実は少し前から妙な噂を耳にしていましてね。人間国でヴァンパイアに興味がある者を集め、この国へ連れてきてこの様なパーティを秘密裏に開いているという」
「という事は無理矢理人間を連れて来たわけでは無いのね」
「えぇ、このパーティに来ている者は皆ヴァンパイアの牙に興味がある者です。
吸血時には強烈な快楽を伴うため、その快楽を求めて自ら眷属になる事を願う人間もこの世界にはいるのです」
「それで、貴方はこのパーティを探していた様だけど、どうして?」
「そうですね、実は探しているのはこのパーティ自体では無いのですが」
「どういう事?」
「理由は後ほど、
ここには人間も多くいるでしょう
エレノア様も情報収集の場にお使いください」
オーガストはそういうと、
一人で広間の奥へと行ってしまった。