第二話 呪印の気配と鮮血の匂い
二話まとめて投稿します。
お洒落で賑やかな雑貨や飲食店が並ぶなか
エレノアはあるものに目を付ける
20代女性、12歳女性、30代男性...
レストランと見られる店の外のガラスケースに並べられるワインボトルには小さくそう記載されている。
「これってまさか..」
エレノアは蒼ざめてロボットのようにぎこちなくオーガストを見ると、
オーガストは薄く微笑む。
「人間も人種や年齢や体格によって味が違うんです。
店に置かれている血液は安全なものが多いので利用する者も比較的多いですよ。
人間には持病がある者もいるので
眷属にする相手は吟味する必要があります。
私は鮮度が落ちるのでボトルを買ったことはないですが。
...何より刺激が足りないでしょう?」
オーガストの蠱惑の灯る微笑みに
背筋を凍らせながらふとある疑問が浮かぶ。
「人間の血以外の...魔族の血は飲まないのかしら」
誕生祭で騒ぎを起こした女性は種族は魔族であった。だが店に並べられる物は全て人間のものだ。
オーガストは眉を潜めて首を振る。
「魔族の血はどの種族であれ濃く生臭く飲めたものではないですよ
種族によっては薬に使うこともあると聞きますが食事には適しません」
「オーガスは飲んだことがあるの?」
言動に妙な実感がこもっている気がして
訝しげに見つめる。
「長い間生きていると
そういう機会もあるでしょうね」
オーガストはそう言って口角を上げるが
瞳は試すようにその虹彩をぎらつかせた。
その瞳に疑念が膨らみ
眉間の皺を深ませていると
微かだが一瞬嫌な気の流れを感じて慌てて周囲を確認する。
「遠い..だけど確かに感じた。」
エレノアはすぐさま駆け出した。
「おい!エレノア様?!どうしたんだ!」
クリストフが叫ぶ。
突然の行動に一瞬呆気にとられていた
二人は慌ててエレノアを追った。
こちらに注目する人の波を掻き分けて
無心に駆け抜ける。幸い小さな身体は小回りがきき、押し寄せる足の波を器用に避けていく。息も絶え絶えにただその気の発した場所を目指すと気づけば明るい中央街から逸れた街灯の少ない街の近郊にたどり着いた。
「いきなり飛び出してどうしたんだ?...って
なんだ...この辺妙に..」
クリストフは急に怪訝な面持ちになり
キョロキョロと周囲の匂いを嗅いでいる。
「ちょっと待て、あっちだ」
促すクリストフに着いていくと路地裏に入り
人気のない静かな街道に出る。
大きく立派な建物が並んでいるがその多くが宿屋の様だ。クリストフが示した先には閑散とした街並みの中一際明るい建物があった。
豪奢なホールのような洋館だ。
人の住む家というよりはパーティを開くためのホールの様な出で立ちをしており
入り口には黒服の男が二人並んでいる。
「この邸、なんか妙に臭うな..
鮮血の匂いがプンプンする」
クリストフの言葉にオーガストが確信したようにニヤリと妖しげに微笑んだ。
「エレノア様は本当に素晴らしい...
まさか来てすぐに見つけてくれるとは思いませんでしたよ」
オーガストは目を細め愉快げに言葉を零すと黒服の男に話しかけた。
「私達も参加したいのだが、宜しいね?」
「会員でない方の立ち入りは...っ
オーガスト様?!えっええ!
承知致しました!
直ぐに係の者にお伝え致します!」
男はオーガストと話すと慌てて館内に入って行く。その様にエレノアとクリストフは首を傾けて顔を見合わせた。
やがて扉が開かれ、オーガストの手招きに従って館内に入ると煌びやかで広い玄関ホールに派手なスーツの中年の男性と数人の黒服の男達が迎えていた。
「オーガスト様、大変申し訳ありませんが
小さなお連れ様やヴァンパイア族以外の方は参加できませんのでどこかへ待機して頂きたく思います」
「あぁ、彼らは私が変身の魔術をかけているだけでヴァンパイアなのですよ、
今解きますから、ね?」




