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転生先は魔王の娘でした。  作者: 成瀬イト
魔王城編
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第十話 自責と旅立ち

数話まとめて投稿します。

翌日、昨日の誕生祭で出席した

ヴァンパイア族を緊急招集させた。

変身の魔術が得意なヴァンパイア族を懸念して

検査はライリーの魔力無効化結界の中で行われた。

念のため男女別にそれぞれ同性の魔術に長けた魔族によって透過(トレース)魔法によって全身を隈なく検査される。


しかし名簿に載っている者全てに

左腕ばかりでなく、身体のどこにも呪印がなかった。


「昨日自害した女性の首筋の吸血痕、

私も見させてもらったけど

あれは間違いなくヴァンパイアのものだね」


招集に呼ばれたオーガストが眉を下げて笑う。


カタストロフはオーガストの左腕をまじまじと見て睨見つける。

その姿にオーガストは苦笑する。


「お前が犯人という落ちだけは

勘弁して貰いたい所だな」


「ふっ私が犯人であれば、

わざわざ呪印の場所に

吸血痕を残すような馬鹿な真似はしないさ、あれでは見つけてくださいと言っているようなものだからね」


エレノアはそのやり取りを側で聞いていた。

確かになぜわざわざ歯跡をつけたんだろう。

呪印の上に付ければ疑われて仕方ないだろうに。


「帰るときに魔族達には

理由を伏せて呪印がないかチェックしたが

他に被害にあっている人はいないようだ

本当に心当たりは無いんだな?」


「勘弁してくれ、

私は女性に自害させるような己のポリシーに反する真似は絶対しないさ

昨日は本当に忙しかったんだ

君も分かっているだろう?

変身してウロつく暇など無かったと」


カタストロフは荒く長いを吐き出すと

掴んでいたオーガストの左手をパッと話した。離された左手をさすりながら

オーガストは眉をひそめ、溜息を吐いた。


「それにしても馬鹿なヴァンパイアがやらかしてくれたお陰で私も朝からヴィンセシアに

連絡を入れたり色々とばっちりも甚だしいよ。魔王様の為に張り切って取り行った生誕祭も台無しにするしね」


やれやれ、という風に瞳を閉じて

両手を上げると

オーガストはエレノアの方を向いて

片膝を折って礼をした。


「私の一族の者のせいで、

せっかくの誕生祭を悲しい思い出にさせてしまったこと、深くお詫び申し上げます。

エレノア様には小さなパーティでもまた開きましょう。昨日は食事も召し上がることが出来なかったとお聞きしておりますから」


「貴方が謝る事はないわ

むしろせっかく私の為に開いてくれたのに

こんな事になってしまって

申し訳なく思っているもの..

それより私がヴィンセシア領に伺うのは

いつになるのかしら?」


エレノアはケロッとした笑みを浮かべると

目が点になっているオーガストの隣で

カタストロフは貼り付けた笑みを浮かべながら猛烈な怒気を発している。


「エレノア様..?

今の私たちの会話を聞いていましたよね..?」


にこりとした微笑みを浮かべ

カタストロフは怒りに震える声を

落ち着かせながら問う。


「えぇ、私としては今すぐが良いけど

1ヶ月後くらいかしらね」


エレノアがのほほんとした笑みを浮かべると

カタストロフはついに笑みの仮面を取り払い

震える怒りを押さえ込むように目を瞑る


「ヴァンパイアに呪印持ちがいるとわかった以上エレノア様がヴィンセシアに行く事はあり得ません...っ!

足を切り落としてでも行かせませんからね」


そういうとカタストロフは背筋がゾクッとするほどの満面の笑みを浮かべた。


エレノアは思わず顔が蒼ざめる。

が、ここで負けてはいけない。

エレノアはポカリと空いた口を引き締めて

カタストロフを強い眼光で睨んだ。


カタストロフはその表情に構う事なく

伏せ目がちに厳しい瞳を向ける。


確かに魔王という立場で

呪印の犯人がいる可能性のある、

ヴァンパイアの住むヴィンセシアへ向かう事は無責任な事なのだろう。

だが呪印の犯人も捕まえられず、

勇者に勝てるのだろうか?

呪印と勇者には繋がりがあるように思われる。そして呪印よりももっと強大な魔力を

あの聖剣は秘めているのだ。


「カタストロフ、危ない思いをしないように部屋に閉じ込めるだけでは彼女の成長の機会を奪う事になるのではないかい?

君はもう少し彼女を信じるべきだ。

彼女は魔王なのだよ?」


オーガストは諭すように言うと、

こちらを向いて穏やかな笑みを向ける。


「エレノア様、貴方が命令すれば

私達はどんな不条理なものであっても受け入れる義務がある

それが魔族であり、それに従わないものは

魔人や魔獣に成り下がる


彼にその気はない事は明白なのだから

貴方は貴方の判断を信じれば良いのです」


オーガストの言葉に後押しされて

エレノアはしっかりと頷いた。


カタストロフは諦めたように深く長い息を吐くと苦々しげに瞳を閉じて口を開いた。


「分かりました

しかし日取りは私がお決め致します。

エレノア様がご自分の身を守れるようにライリーに教育させてからでなくては行かせられません」


エレノアはその言葉に安堵の笑みを零した。

その後ライリーも含めて

決まった日取りは2ヶ月後となった。


エレノアは魔王の血を受け継いでいる事もあり、魔術センスがずば抜けていた為、

予想以上に早くヴィンセシアへ行く目処がつけられたのだった。


エレノアは荷造りをしながら

あの男のことを思い出す。

何も映していないような

底知れぬ闇を秘める曇った瞳を。


裏切りを認知していながらも

彼のために命を落とした女性のことを。


エレノアは自身を守った父の事を反芻した。


あの女性を利用した男も

自害をさせてしまった自身にも

やるせない憤りが胸の奥で疼く。


私は責任を取らなければいけないんだ。


エレノアは今も手に残る

血の感触を握りしめるように丸め込むと、

伏せていた長い睫毛を持ち上げて

一歩前へ踏み出した。

魔王城編完結です。

次の編の布石のような編でしたが

引き続きお付き合い頂けますと幸いです。

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