第三話 顔合わせ
「はぁーーーー...疲れたわ..」
「とてもご立派でしたよ、エレノア様」
魔王の即位式でやったことといえば
長い廊下を歩いて、短い文章を言うだけだったのだがそれに見合わないほどの疲労感が押し寄せる。
気怠げな表情を浮かべるエレノアと反転して
カタストロフは嬉しそうに目を細めた。
即位が終わると執務室に通され
大きな椅子に見合わない小さな体を
ちょこりと沈ませる。
窓の外は嵐になっており、
激しい雨が色のついた
ガラス窓を叩きつけている。
魔王に即位すると嵐が起こるのね..
と、ふと自身に身を引かせながらも
カタストロフが連れて来た3人の魔族達を見た。
初めに声をかけて来たのは
見知った顔の男性だった。
「お久しぶりです、エレノア様」
「ライ!お久しぶりですわ」
ライリーはサラサラとした藍の髪を僅かに揺らしてふふっと愉しげな笑みを漏らすと
こちらに一歩近づいた。
「本日よりエレノア様の家庭教師をさせて頂きます、どうぞよろしくお願いしますね」
「あれ、でもライはティリスティア領の領主じゃなかったかしら」
「えぇ、領主の座は弟のユリウスに譲る事になっています。元々そのつもりでしたから」
「四天王が殉職されてから
魔力の強いものを宮廷に呼んでいるのです
人間国からこの国を守るために性急に人材を確保する必要がありましたから
ライリーは精霊の寵愛を受けていますから
魔術に優れているのです。
しばらく領主も務めていましたから
エレノア様の家庭教師には適任だと思いまして。それに見知った顔がいた方が安心でしょう?」
カタストロフがエレノアの隣で補足をする。
エレノアは納得して他の二人を見た。
エレノアの視線に気づいた金髪のゆるく波立長髪の男がサファイヤのような瞳を細め蠱惑的な笑みを浮かべてエレノアの前に立った。
服は白を基調とした西洋的でフォーマルな格好をしている。
刹那に見えた鋭い八重歯を見るに
ヴァインパイアの種族なのだろうか。
「ご機嫌麗しゅう、エレノア様
私はこの国の祭事を主に担当しております。
オーガストと申します。
本日の即位式も私が担当致しました」
この国には魔王を守る主力護衛である四天王の他に左官と右官という役職があり、
左官は国の祭祀を担当し、右官がそれ以外の国家運営を担当する。
オーガストはこれの左官であり
カタストロフは右官を務めている。
右官は八省という八つの国家運営の機関をまとめている。
国をまとめる機関がしっかりしているため、
6歳の少女が王となっても比較的円滑に国を統治できているのだ。
そう思うと魔王の重要性は
国営の面ではなく抑止力的な意味合いが強いのかもしれない。
「よろしくお願いします、オーガスト
お陰で即位式が滞りなく進んだわ
ありがとう」
オーガストは満足げな笑みを浮かべると
その瞳を妖艶に揺らめかせる。
「エレノア様は容姿こそ愛らしい少女のようですが言動は成人女性のような聡明さを秘めていらっしゃいますね」
オーガストの言動にどきりと胸が跳ねるが
慌てて笑顔を貼り付ける。
見据える瞳にエレノアは心の内を見透かされるような心地がして冷や汗をかいた。
「あまりエレノア様をいじめないでくださいね」
カタストロフがにこやかに横槍を入れると
オーガストはその笑顔を真似るようね
微笑みを作る。
「エレノア様、相談事があればいつでも私をお呼びくださいね、隣のものよりも女性の心は分かっているつもりですから」
そういうオーガストは
カタストロフの方を見る
二人の間にはバチバチとした見えない火花があるように思え、触れない事が得策だと確信した。
「はーおいおい、お前達魔王様の御前で喧嘩するなよな」
居た堪れない空気を取り払ったのは
体幹のしっかりした、
橙よりの茶色の髪に短髪の青年だった。
童顔の顔立ちをしていて、
タレ目がちの瞳は琥珀に近いペリドットのような黄緑色をしている。
肌は健康的に少し日焼けしていて
耳の部分が獣のようになっていてその上に小さな角が生えていることから
獣人族なのだろう
黒の軍服のような服を着て
脇には剣が差してある。
「はじめまして、魔王様!
俺はお嬢さんが自らの四天王を決めるまで
護衛を担当するクリストフだ。
こう見えてもこの中では一番の年長者だから
宮廷のことは俺に相談してくれ」
クリストフはそう言って
にしっと快活な笑みをを浮かべた。
どう見ても17歳くらいにしか見えないが
実際は幾つなのだろうか、
ぱっと見ただけでは
一番若く見えるくらいだ。
魔族は容姿で年齢が分からない事が多い。
「四天王はいつまでに決めればいいのかしら」
「出来るだけ早めに決める方がいいが
いい加減に決められるものでは無いからな
四天王は魔王国の軍の最高幹部、
自分の目を信じて任せられると思った奴を指名した方が良いだろう」
魔王軍は国家運営の八省から
軍部が独立しており
それを指揮する四人の幹部が四天王だ。
その頂点に立つのはもちろん魔王だが、
人間国の軍に備えて今は臨時の幹部が
統率している。
四天王の指名は現在の魔王の最重要任務だ。
「分かったわ
よろしくね、クリストフ
これからも色々教えてくれると嬉しいわ」
エレノアは目を細めてに微笑むと
それに応じるようにクリストフも白い歯を見せて爽やかに笑った。
クリストフの朗らかな立ち回りのおかげで
顔見せ会は穏やかな形で幕を降りた。
ライリーは魔族会議編で出てきたオネエのエルフです。キャラがかなり増えました。