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転生先は魔王の娘でした。  作者: 成瀬イト
竜の巫女編
20/64

第九話 それは神話のような

※カタストロフ視点になります。

「早く拘束を解きなさい。

私のいう通りにするならば今は何も命じないであげる


「・・・・・何をすれば良いんだ」


右手の炎を消して

光の無い目で女を睨む。

紫がかったグレーの瞳には

ギラギラとした殺気が揺らめいている。


「私の拘束を解いて

ただ何もせず私のすることを見ていれば良い」


カタストロフは女の言われた通りにする。

その間にも女の手のひらに光る呪印をよく観察した。


見たことのない呪印だ。

恐らく魔術によるものとは少し違う。

魔法陣ではないとすると呪術か?


だが呪術の書物でもこのような模様は

見たことがない。

複雑だが遠目から見ると太陽のように見える。


だが、あの模様から発する気は非常に不快だ。この気に似たものを以前感じたことがある。勇者の聖剣、あれから発するものと酷似している。しかし聖剣には使役する能力など無いはずだ、使役する能力はその真逆に位置する魔王様やエレノア様の能力だ。

一体どういうことだ。


今優先すべきはエレノア様の

使役の解除だ。

だが相手の能力がよくわからない以上

解除のしようもない。

エレノア様は相手の瞳を見て相手の自我を取り込むが女の様子からして遠距離でも能力が使えるのだろうか。もう少し様子を見る必要がある。


カタストロフが思案している間にも

使用人の女は大理石の円台に立つ


アジアンテイストな使用人服の背中から

長い剣を取り出した。

それを魔力を込めて勢いよく振り下ろしして

魔法陣を切りつけた。


おもむろに何度も振り下ろしては

鈍い刃物の音が静かな空間に霧散する


「あははははははは!

これで良いの!結界が壊れれば私の仲間が入れるわ!魔王の恩恵のない結界など恐るるに足らない!やっとこの結界が壊せるのよ!

竜も呪印さえあれば簡単に使役できるのだから、全て私の手柄なの!

私を見下す奴らを見返してやるんだから!」


未だ剣を振り下ろし続ける女が

歓喜の声をあげる。

魔法陣は通常魔法陣そのものを壊せばその効力を失う。込めた魔力が強いほど

魔法陣は壊しにくくなる。


しかしすぐにその声の温度が下がる

焦ったようでいて憤るような声で

喚き散らす。


「なんでぇ!

どうして壊れないの?!

おかしい...絶対おかしい!!」


女が狼狽する

魔力を一層込めた剣が魔法陣を一身につくが

大理石に傷一つつかない。

カタストロフは目の前の異様な光景に

眉間の皺を深くする。


いくら竜人族の元々の力が強いといっても

この広大な領地を包む結界を賄うには負担が多い、どうしても脆くなる。

暫くは魔王の魔力が残っていただろうがそれももう殆ど無いはずだ。

だとしたら女が確信していた通り

この魔法陣はそこまでの強度はない。


力の強い術者なら魔剣でなんども刺せば

壊すことなど造作もないはずだ。


それなのに傷一つつかないどころか

魔力がどんどん強まっている


だが強まるたびに確信する。

この魔力はエレノア様のものだ。

いつの間に魔法陣に強化をかけたのだろうか。不快だった呪印の覇気がエレノア様の魔力で搔き消える。


心地の良い闇に包まれ

眉間の皺を緩めた。


狼狽し何度も未だに魔剣を突き刺し続ける女の元に歩く。


「どうして...どうして...」


目の前に立つと

腰が砕けそうになるのを剣で支える

女がこちらを睨む

女は先ほどまでの勢いが嘘のように

引けた腰を震えさせ怯えたような目をこちらに向ける


「どうせ壊しても無駄だ

結界外に隠れていたお前の仲間はすでに捉えている」


カタストロフは上から女を見下ろす。

女は愕然とした面持ちでその場に腰を下ろした。

力なく跪く女を拘束しようとしていると。

空気を切るような羽音が聞こえ

突風のような風とともに巨大な影が姿を現わす。


瞠目してその影の先を見ると

美しい白金の龍の背に乗った対のような白銀の幼子が降り立つ。


少女の着ている衣装も合わさり

その光景はあまりに神々しく

神話から飛び出して来たようだ。


「エレノア様来ては行けません!」


カタストロフの声に反応して

エレノアはこちらを向くと

真っ直ぐな面持ちで近づいてくる


カタストロフは

弾かれたように足元の女の方を向くと

狂ったような笑みをこぼした


「あ...あはははははは!!

あんたの所為ね..!

そうだったんだわ!!

だったらあんたを操れば壊せる!!

そうよね...!」


下卑た声色で叫ぶと

呪印の光る右手を向ける。


すかさずカタストロフはエレノアの方庇うように立ち塞がるが、エレノアはカタストロフの膝を宥めるように摩る


カタストロフは目を丸くするが

エレノアの穏やかな目に

答えを見出した。


“大丈夫”

有無を言わさないその瞳は

彼女が小さな王なのだと確信させる。


エレノアがそのまま真っ直ぐ女の元へ向かう。女は笑いながらエレノアを使役しようとするが術のかけられた水を飲んでいないエレノアにかかるはずもなく、

目の前の女の眼前までたどり着いた。


「どう..して...?

どうして効かないの?」


呆然とする女の掲げた右手の呪印を見て

確信した面持ちで頷くと

エレノアは疲弊した女の頬を両手で掬う

真紅の瞳を女の茶色い瞳に絡ませる。

動揺する女の瞳を赤い閃光が射抜くと

力なく脱力し、瞳に光を失った。


あどけない小さな少女が

成人女性の心身に侵食し

呪印がゆっくりと薄まっていく光景を

カタストロフはただ呆然と見守っていた。

長めですが、きりがいいので投稿します。

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