第四話 魔王の祝福
初回のみ連続投稿します。
イアンはエレノアに
最初から力ではなく覚悟を求めていたのだと知る。何のために魔王になるのかその為に何をすべきかを考えられる者かを見極めていた。そしてエレノアの覚悟を少しだけ認めてくれたのだ。
その意を汲んで、
イアンがここに連れて来てくれた意味が
エレノアにわかった気がした。
多分イアンなりに励ましてくれているんだ。
竜人族や多くの魔族達にとって
魔王はとても大切な存在なのだから。
エレノアはたとえ父が復活する間だとしても
魔王の責務を果たせるだろうか。
そんな不安がいつも胸の奥に燻っていた。
だけどエレノアは父になろうとしなくてもいいのだと思えば少しだけ気楽になる。
私は私なりに勤めを果たそう。
エレノアはそう決心した。
「イアン、私にこの魔法陣の力を強めることはできる?」
イアンに伝えると少し考えて頷いた
「お前の魔力は魔王様の魔力ととても似ているからできるかもしれない」
「本当に?!」
「あぁ、魔法陣の中央に立って
そして祝福を与えるように
願いを込めて魔力を注ぐんだ
...最もこれができるのは
魔王即位後だろうけどな」
「ダメ元でもやって見るわ」
エレノアはイアンに言われた言葉の通り
魔法陣の中央に立つ
なんだか懐かしい気持ちになる
この魔力を知っている
これは心地いい父の魔力だ
目を瞑りその魔力を手繰り寄せるように
精神を集中させる
その瞬間エレノアの魔力が
魔法陣と呼応し始める
ふわふわと魔力の波を身体に留まらせ
それを魔法陣のへと注ぎ込むように
魔力を移動させる
その魔力が魔法陣に触れると
魔力が高揚し白銀の髪を舞い上がらせる
両手を胸の前で組み
神に祈るようなポーズをとった
エレノアは出来るだけ
穏やかな景色をイメージする
夏の夜空の下に広がる草原
星々が輝く夜の闇
母の膝の中でゆっくりと夢に落ちていく
優しい闇が私を包む
眠れない時はいつも母が外に出して寝かしつけてくれた
隣には父がいて見守るように
私達を見ていた
そんな暖かい思い出を思い出す
安らぎと安寧を
どうか竜を、民を護れるように
そう願いを込めて魔力を込める
魔法陣は黒く輝く
月夜のように柔らかく
しかし強い煌めきを持って
白銀の髪と陶器のような真っ白な肌が
その闇の中で一層輝く
ゆっくりと魔力の波動が静まると
舞い上がった髪も自然と重力に従うように
落ち着いた
ふぅーっと小さく息を吐く
上手くできたのかはわからない
目を開けてイアンの方を見ると
目を見開き
ポカンと口を開けたまま化石のように
固まっていた
人のこと間抜け面だと言っていたが
今のイアンはまさにその顔だ。
「・・・・」
堪えきれず思わず吹き出す。
エレノアは声を出して笑った。
「ふっふふっ!
イアンなにその間抜け面は!」
その笑い声に弾かれたように
我に返ったイアンは笑われて恥ずかしかったのか僅かに頬が赤かった。
「うるさい!笑うな!」
挙動不審のイアンが面白くて
エレノアは地上に降りるまで
笑いが止まらなかった。
結局成功したのか分からなかったけれど
イアンの面白い顔が見れたから良いかと
その時はそんな軽い気持ちで流してしまった。
イアンとエレノアのやり取りを書くのは楽しいです。




