第二話 魔王の名代
初回のみ連続投稿します。
「あれが魔王様のご令嬢か、
髪色こそ違うが
魔王様の幼い頃に良く似ていらっしゃる」
「しかし人間の血が混ざっていると聞いたぞ」
コソコソと聞こえてくる噂話から
カタストロフはエレノアの身を案じるように
背にそっと触れる、その手に後押しされ
竦んだ身を奮い立たせ胸を張って席に着いた。
会議で話された内容は予想通り
魔王のことだった、
カタストロフが角の件を話すと
すぐに封印場所の探索と調査をする事が決定する。会議の主導は王の右腕であったカタストロフが行なっていた。
そして今後の政策についての話題となった時
ついに会議の議題が魔王の娘であるエレノアに向いた。
「今後魔王様復活までの
名代となる者を決める必要があるが、
私は魔王様のご令嬢であるエレノア様が相応しいと思いますぞ」
サルヴァトスと名乗る
ゴブリン族と見られる
中年魔族の一人が口を開いた。
中肉中背だが腹がぷっくりと膨れている。
緑色の皮膚に魔女のような尖った鼻が特徴的だ。
「しかしエレノア様はまだ6歳、
しかも女性であらせられる。
魔王の名代をお任せするのは些か荷が重いのでは...」
すかさず批判が飛ぶ、
サルヴァトスはそれでも一歩も引かないと言う様子でエレノアを真っ直ぐに見据えた。
「エレノア様は6歳の少女だが、
魔王様と同じくらいの魔力の波動を感じます。魔族にとって権力とは己の強さ、エレノア様はここにいる誰よりもその力を秘めておられる、不足な所は我らが全力でサポート致します」
サルヴァトスの言葉に一同が沈黙する。
魔族の権威の基準はその魔力の強さ、
それは魔族にとっての常識であり
それを基準にしてしまえば魔王の魔力を色濃く受け継ぐエレノアが選ばれる事は妥当だと判断せざるおえない。
しかし政治においてこのような脳筋思考で良いのだろうかとエレノアは頭を抱えた。
中身が20歳を超えた身としては精神年齢的には妥当ではあるが何せ前世は普通の学生だったのだ、それに今世はまだ6歳、
まだ幼い私はこの世界の事をあまりに知らない。幹部の一人が荷が重いと正論を口にしていたが現時点では全くその通りなのだ。
しかし一同が沈黙している理由は他にもある。魔族の長は数百年の長きに渡って父である魔王が治めてきた。
その絶対的権力おかげで長い間権力闘争もなく平和にこの国を統治出来ていたのだ。
今そのような権力闘争が起これば
さらなる混乱を招きかねない、
聖剣の力を得た人間側が有利に立っている現在、そのような混乱は余計な危機を招くだけだ。
だから名だけでも王の子に名代を立てることは政治において定石なのだろう。
そして王に代わって国を統治するもの、
その権力をサルヴァトスを含む一部の魔族は狙っている。
ここにいる誰もがその事に気付いている。
だから今この室内にいる誰もが思案しているのだ。誰につくべきかを。
この状況下で王の席を拒む事はもはや
不可能だろう、エレノアはその事を察してしまう。
しかし逆に考えれば王という立場の方が
父を早く救う手立ても見つかりやすいとも考える。ただの小娘と魔王の名代ではその発言権は天地の差である。
子供のようにご寝る事は許されない。
だったらその権力を利用されないように
そしてその権力を存分に発揮して
父を救うために強く前へ出て行く必要がある。エレノアには政治の才能などない、
知識さえない、だが幸いカタストロフのような有能な人材が揃っている。
であれば今の私に求められているのは
信頼できる味方を作る事だ。
私の代わりにこの国の為に権力を振るう事の出来る存在を。
エレノアは心の中でそう決心し、
誰に対してでもなくこくりと頷いた。
一方、カタストロフはこの状況に苦虫を噛むように眉間に皺を寄せていた。
彼女が後10年早く生きていれば
何か変わったのかも知れない
人の成人年齢はこの世界では15歳だ。
彼女はまだ6歳、このままでは
政治の人形にされてしまうだろう。
しかし今この現状それが最善策である事は認めざるおえない。
その事実にどうしようもない無念の情が湧き上がる。
もっとじっくりと世界を知り、
魔族達と関係を深め、彼女自らが己の眼で自分の生きる道を決められたら良いとずっと思っていた。
しかしこの沈黙が既に
彼女が王の名代となる事を決定づけている。
だったから私が政治の権力を握るしかない。
彼女が都合よく使われる事を許しはしない。
その為には自分が彼女の側で権力を振るうしか無いのだ。