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延命措置

作者: 未雪織

家に着いてすぐ、僕は彼女に声をかけた。

「今日はユキの好物のハンバーグだよ。」

ユキは首に通しかけた紐を外して振り返った。

「そっか。食べないと、もったいないね。」

そう言うと、何冊か積まれた漫画雑誌から降りて、笑顔で「手伝うよ」と言って僕の持っていた買い物袋を取った。

「ああ、ありがとう。」

僕はユキについてキッチンへ向かった。


今日で、ちょうど200回目だ。

ユキは3年前くらいから自殺未遂を繰り返すようになった。


最近はほぼ毎日、帰ってくるとナイフを握っていたり、ベランダの柵に腰掛けていたりする。

ナイフは見つからないように仕舞った。ベランダも開けられないように仕掛けを施した。他にもたくさん、対策をした。


今日は首吊り自殺をするつもりだったみたいだ。紐は隠そう。電球のところに紐を掛けられる出っ張りがあるみたいだから、あれもなんとかしないといけないな。


そんなことを考えながら、ハンバーグを作った。

なかなか上出来だった。僕は彼女の前に皿を置いて「召し上がれ」と言って微笑んだ。

ユキは目を輝かせて「いただきます」と手を合わせた。


ちょっと大きめに切ったハンバーグを口いっぱいに頬張って、幸せそうに目を細める。毎日のように自殺未遂を繰り返すような人物には、見えなかった。

「やっぱり君の作るハンバーグはおいしいね。」

口に入ったまま喋るから、ところどころ発音が出来ていなかった。


「ユキは、本当に美味しそうに食べるね。」

僕はリスのように頬をパンパンにしたユキを見ながら言った。

「うん、だってすっごくおいしいんだもん。」

ユキが満面の笑みで言うから、僕もつられて笑った。

「そっか、良かったよ。」


「明日は、オムライスにしよう。」

と、僕は言った。

「うん。おんなじくらい、好きだよ。」

知っている。だから、

「死なないで、待っててね。」


ユキは少しきょとんとして、それからこくりと頷いた。

「うん。」


それから支度をして、ユキは布団に入った。満腹のせいか、すぐに眠ったようだった。

僕は彼女が自殺するのを防ぐための対策をしなければならなかったので、さっきの紐のかかっている部屋へ向かった。

紐は回収して、出っ張りは取り外した。漫画も棚に戻しておいた。


それが終わると、今日の彼女の遺書を読んだ。

今回は、紐の真下に丁寧に置かれていた。


「〇〇くんへ


いつもおいしいごはんありがとう

抱きしめてくれてありがとう

やさしくしてくれてありがとう

きみが大好きです

私はしあわせです


しあわせはこわいです

きみがいなくなるのがこわいです

だから死ぬんです

大好きです


わたしからいなくなれば

きみがいなくなることを

こわがらなくていいでしょう?


大好きです

やさしくて頭がよくて仕事ができて

かっこいいきみが好きです


きみのことが好きだから

死なせてほしい


死ぬよ 今日こそ

大好きだよ


ゆき」



いつもより、1回、多かった。好きという言葉が多かった。

ユキの好きが増える度、彼女の死が近づいている気がしている。

僕は怖い。彼女がいなくなることが。


ユキの寝顔は、放っておいたらそのまま消えてしまいそうで、堪らなくなってそっと手で頬を触った。壊さないように、そっと。

感触に気づいたのか、僕の手にすり寄るように首を動かす。

ああ、君は僕が好きなんだね。だったら僕は、君を離したくない。


君が居なくなるのは、怖いよ。

君が僕に好きだと言う。僕が君に愛しているという。

僕にとってはユキが1番で、ユキのこと以外に生きる意味なんてなくて。

君が消えた世界に、僕は耐えられないよ。だから、なんでも作るよ。君が死なないように。

君をここに留めておけるように。君の命が続くように。


僕は君を愛している。

君が死んだら僕も死ぬ。

だから君を生かしておくことが、僕の生きていく唯一の理由なんだ。


君を繋ぎとめておくことが、僕の延命措置なんだ。


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