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ご町内迷宮を突破せよ!⑦

 

「雛!お前どうしてここに!」


 日下は扉を片手で支えながら大声を上げた。


「お、にいちゃ……ん?」


 子供達の中で一番大きな女の子が、涙を蓄えた瞳で日下を見る。


「っ!お兄ちゃん!おにいちゃぁんっ!!」


 そのまま立ち上がり、日下に抱きついた。


「無事だったのか……っよかったぁ。本当に良かったっ」


 日下はその子を抱きしめ返し、涙を流して顔を女の子の頭に埋めた。


「日下の、妹?」


「小学校に居るとか言って無かったか?」


 俺とガサライオはその隣で立って日下を見ている。


「詳しいことは後よ。小さな子供達もいるみたい。こんにちわみんな。お姉さん、お巡りさんなの。もう大丈夫よ」


 ドギー巡査が日下とその妹の横を通り、ドーム型滑り台の内部へと頭を屈めて入って行った。


「毛玉、俺じゃ怖がられるから、子供達を安心させてやれ」


「俺だって自慢じゃねぇがガキに好かれた事がねぇんだ。婦警のねーちゃんに任せよう」


 無力なり。

 俺とガサライオはハッキリ行って、人相が悪い。

 俺はガサライオが言う通り、極めて悪人じみた顔を自覚しているし、ガサライオはライオンだ。

 そんな二人がヅカヅカと中に入っていけば、泣いている子供達を更に怯えさせてしまう。


「……おまわりさん?」


「けいさつのひと?」


「ママぁ……こわいよぅ」


「みんなだいじょうぶだよ。おまわりさんがきてくれたよ」


 思い思いのリアクションを取って、子供達は少しだけ泣き止んだ。


「ええ。もう怖くないわ。よく頑張ったわね。偉いわ。ほらあのお兄ちゃん達を見て?とっても強そうでしょ?」


 ドギー巡査は優しく微笑み、前列にうずくまる子供達を抱きしめた。


「うぅ、うえええええええ」


「こわかったぁ…こわかったの……」


「ヒナねぇちゃんが、お外は危ないからここで隠れようって……うぅぅ」


 一斉に子供達が泣き出した。


「お、おい毛玉!なんかしろって!泣いてるじゃねぇか!」


「そんなこと言われたってよ!えっと、ほらガオオっ!」


 何を思ったのかいきなり凄み出したガサライオの声で、子供達の泣き声は更に大きくなる。


「馬鹿野郎!」


「だって、だってよぉ」


「大丈夫。大丈夫よ」


 ドギー巡査は大きく手を広げた。

 合計六人の小さな子供達は全員ドギー巡査にしがみつく。


 男の子2名と、女の子4名か。


「雛、なんでここに?図書館にいるって」


 まだ抱き合っていた日下兄妹は一度離れて、兄は妹の涙を拭って上げていた。


「う、うん。今度の児童館の読み聞かせの本を探してて、見つけたから児童館に持って行こうとしてたの。その時この子たちが公園で遊んでて、急に木がいっぱい襲ってきたから、思わずここに」


 日下雛くさかひなちゃんは鼻声で事情を話す。


 偉いなこの子。

 小さい子供達を守ろうとしたのか。


「そ、そしたら扉開かなくなっちゃって、なんとかこの子たちを落ち着かせようって、泣かないようにしようってぇ。うぇええええん!」


「うん。うん!偉いぞ雛。すごいなお前。良くやった。もう大丈夫だ!」


 雛ちゃんは今になって怖くなったのか、もう一度、兄の胸に顔を埋めた。


「ああ、逃げ込んだはいいが増殖する木がこの滑り台に絡みついちまって出れなかったのか。運が悪かったな」


「バカ。空気読めよ毛玉」


 この子達の頑張りを讃えるのが先だろうが。


「クォオオオオオオオオオオオオオ!!」


「ひいっ!」


 突然の怪音に、雛ちゃんが短い悲鳴をあげて肩を強張らせた。

 この声、ルテンか!

 あの野郎も空気読めないタイプだったようだな!


「とりあえず中に入るぞ!それから考えよう!」


 俺の声にガサライオと日下は頷き、順番に入り口を潜る。


「みんなごめんね。少し詰めてね」


 七人が子供、四人が大人だ。狭くもなる。

 日下の背丈はまんま小学生だが、ガサライオがでかすぎる。


「おい毛玉!なんか縮む魔法具とか持ってねぇのか!お前デカ過ぎんだよ!」


「馬鹿言うな!そんなんあるわけねぇだろ!」


 ドヤドヤと騒ぎながら、なんとか全員の体を押し込む事に成功した。

 ガサライオの膝の上に男の子二人と女の子一人。日下は妹を抱えてて、ドギー巡査も女の子二人を抱きしめている。俺の膝の上にも、小さな女の子が一人だ。

 ぎゅうぎゅうになったドーム内は大人を外側にして子供たちは比較的動きやすいように内側に抱えている。それでも狭い事には変わりない。

 なんせ十一名だ。普通の遊具にそんな規模のスペースがあるわけがない。


 扉を閉めると、中が真っ暗になった。

 この子達、こんな暗い場所で身を寄せ合って耐えていたのか。

 本当に偉いな。


 思わず膝の上で体育座りをしている女の子の頭を撫でた。

 女の子は首を上げて不思議そうにこっちを見ている気配がする。


 胸ポケットからスマートホンを取り出すと、その画面の明かりで内部に少し光が戻る。

 こんな狭い中で腕を動かすのも邪魔だから、出力を外部向けスピーカーに切り替えた。


「三隈、そこにいるか?」


 さっきから繋げたままのスマートホンに呼びかける。


『うん。居るよ。状況もずっと聞いてた。みんな偉いね。このお兄ちゃんすっごく強いからもう安心だよ』


 リップサービスを忘れないできる女。それが三隈夕乃だ。子供達の顔にも笑顔が戻ってきた。

 俺が本当に強い訳じゃないのが、残念である。


「どうだ。何か分かったか?」


『ルテンに関してはあまり。ガサライオさんの言う通り、牙岩のボスはスルーっていうのが定石なせいで、アングラのハンター掲示板にいるプロっぽい人達もあまり話題に出さないの。というか多分、最初期の攻略組しかルテンと戦ったハンターさん、いないんじゃないかなぁ』


 あの鳥、そんな前からシカトされてたのか。そりゃ根に持つよなぁ。


「毛玉。お前も知らないのか」


「ぶっちゃけていうと、別に弱点がなくてもウチの兄貴や姉貴レベルなら倒せちまうんだよアイツ。突進と風のブレスにさえ気をつけてればなんて事ないからな。弱点とか気にした事ねぇ。牙岩に潜ったのはあん時が初めてだったが、調べるうちに大した事ないって結論になっちまったから、途中で調べるのをやめたんだ」


 お前の兄貴たちはどんな化け物だよ。


「あ、言っとくが俺は兄貴達ほど強くねぇから、無理だぞ?」


「知ってるわアホ」


 それならここまで逃げる必要ないじゃないか。


「んで三隈。さっきの言い方なら、ルテン以外には何か情報が集まったのか?」


『うん。推測と掲示板の情報を照らし合わせたら、なんとなくね。確証はないんだけど、どうして牙岩がこんな事になったのか、分かってきたかも』


 さすが我が風待家御用達のブレインだ。

 優秀過ぎて眩しく感じるぜ。

 あぁ、スマートホンの画面が眩しいのか。


「どういう事だ?理由があるのか?」


 ガサライオがスマートホンを覗き込んだ。

 子供達は多分、この場の空気で大事なお話をしてると分かってくれたのか、静かにしてくれている。本当に賢い子供達だ。将来有望だな。


『はい。一応聞いておきたいんですが、ドギー巡査』


「何かしら」


『ハンターさん達、すでに何人か前乗りされてるんですよね?ネットでもハンターさん達に助けられたって情報が出てます。何名ぐらいかわかります?』


 ガサライオ達以外のトレジャーハンターか。

 道中一切見なかったな。仕事してたみたいで安心する。


「えっと、大規模調査の前乗りが百名弱。あとは別件でこの町にきたガサライオくん達『楽園兄妹』の三名と、協会のお抱え研究チームが十八名ね」


 多いな。本番はもっと居たってことか?


『調査に用いられる魔法具や武器、研究資材や搬送車両もチェックってしてるんですか?』


「一応。ドライバーも特殊搬出資格者しか扱えない物資もあるからね。個人の所有物や日用品も、安全かどうかは簡単にチェックしてると思うわ。それがどうかした?」


 抱えていた女の子達を膝に座らせて、ドギー巡査は思わず前のめりになる。


『SNSに上がっている救援のつぶやきの中に、一般の個人運送会社の人のつぶやきがあったんです。その人、ハンター協会の搬送依頼の帰りに巻き込まれたって愚痴を呟いていて、おかしいなって』


「何がおかしいんだ?資材を運んでたんじゃないのか?」


「いや、初耳だ。おかしい」


 俺の問いに答えたのは、ガサライオだ。


『うん。トレジャーハンター協会が物資を運搬する時って、搬出する企業が決まってるの。ある程度の危険物がほとんどだし、ダンジョンから採取された物って特殊だから。提携先か取引先かは知らないけれど、大金が動くから当たり前だよね。それで今回みたいな大規模な企画、しかも警察や行政のチェックを受けるなようなものなら、搬出する会社はもちろん車種やナンバーも報告しなきゃいけないはずだよ。そこらへんが曖昧になる個人の運送会社を雇うのはルール違反なの。掲示板でもいぶかしんでて、結局はかたりじゃないかって結論になってる。そもそも大規模調査自体が秘密裏に行われてるから、みんな信用してないのもあるけど』


「……これが事実なら、私たち警察に秘密にしたい物資を、この町に極秘に運んできてる……って事になるわね」


 ドギー巡査が顎に手を当てて考え始める。


『それともう一つ。これは別件の掲示板にあった物なんだけど、ガサライオさん』


「何だ」


 呼ばれたガサライオが真剣な顔で答えた。


『最近活動を休止したダンジョンとかってハンターさんには告知されるんですか?』


「あぁ、もちろんだ。無駄足になるのも嫌だし、競争相手がいないのを見計らって隠すヤツもいるからな。余計な事をしたら魔石の復活に支障がでるし、魔石を持ち出す可能性もある。報告しないと罰則があるぞ」


『それじゃあ、愛知県にあった小規模ダンジョンが一昨日、突然活動を休止したって情報、知ってます?』


「は?」


 キョトンとした顔で呆けるガサライオ。


『三河ステージってダンジョンなんですが、探索中のハンターが相手をしていたモンスターの崩壊を発端にして、ダンジョンがモンスターを生み出さなくなったんです』


「いやいやそんなバカな。俺たちが4ヶ月前に入った時は、魔石はあと十年は保つぐらいの魔力を蓄えていたはずだ。それにその情報が回って来てない。いつもなら休止した翌日には届いてないとダメなんだよ」


 頭をブンブンと降ってガサライオは否定する。たてがみがそれにつられてダイナミックな動きを見せた。

 膝にいる男の子達が、面白がって手を伸ばしている。


『三河ダンジョンにいたハンターが最奥地に行って確かめたら、魔石が無くなっていたんだそうです。それを報告したのに、協会から経過報告の通達が無いってレスがありました。そのあと掲示板全体に否定するレスが続いて、結局デマだって事になったんだけど』


「魔石の無断採取は重い犯罪だぞ!?大事おおごとじゃねぇか!!」


 おいおい、三隈に吠えてもしょうがないだろうが。

 子供達がびっくりするからやめろ。


『ガサライオさん。もしこの無くなった魔石が牙岩に持ち込まれてたら、どうなるかな』


「そりゃ、同じタイプの魔石だったら、共鳴するか……」


「まさか」


 ガサライオが固まった。

 ドギー巡査も口に手を当てて驚いている。


 俺や日下、そして子供達はキョトンだ。

 ちょっと難しくなってついていけてない。


「融合、成長する……」


「おい、おいそれって」


 やっと俺も追いついたぞ。つまりは。


『うん。さっきの個人運送会社の人、もしかして魔石を運んでたんじゃないかな。多分、『裏ダンジョン』を開く為に魔石を持って来たと思うの』


「んじゃこの騒動は、トレジャーハンター協会の仕業って事か!」


 んだよ!

 俺の勘、的中じゃねーか!それより裏ダンジョンってなんだ?



「なんてこと……国の許可なく魔石を移動なんてさせたら、それこそ重罪になるわよ?」


 ドギー巡査が額を押さえて深い溜息を吐いた。


「……三河ステージも牙岩と同じで、土の属性を持った魔石で作られている。なるほどな。『裏ダンジョン』目当てか、べモン会長の考えそうな事だ」


 ガサライオもたてがみをワシャワシャと掻き毟る。

 こいつらには伝わってない事のようだな。


『薫平くん、ちょっとスピーカー戻してもらっていい?』


「あ、ああ」


 言われた通り、スピーカーを通常に戻す。


「いいぞ」


『うん。いい?ダンジョンにはね。魔石の力が強い時にしか開かない、『裏ダンジョン』っていう隠された階層があるの。普段は閉じてるから内部は手付かずだし、採取もされてないから正に宝部屋って感じ。魔力が溜まってて強いモンスターが出る傾向にあるの。もしかしなくても、協会はそこにアオイちゃん達が隠れているって、判断したんじゃないかな』


 ああ、なるほど。

 そういや、牙岩の頂上ならヘリなんかで来れるもんな。

 事前に頂上に龍が居ないと分かっていて、別の可能性を模索したわけだ。


『持ち込まれた魔石が融合して『裏ダンジョン』が開いたのなら、ルテンがここにいる理由もわかるの。ボスモンスターは『裏ダンジョン』にいるより強いモンスターにその権限が映るし、最上階はおそらく延長されてもっと上の階層になってる。ルテンはその時にあの通路から解放されて、一番記憶に新しい薫平くんを追って牙岩を飛び出した。そういう推測なんだけど』


 いや、お前ほんとすげぇよ。


「……うん。しっくりくるな。十中八九それだ。ありがとな」


『礼はまだ早いよ。ルテンをどうにかしないと、そこの地域一体がずっと危険地帯になっちゃう。ボスの権利は移行してるけど、ルテンに流れた魔力はまだ魔石と共有してる筈。もしかしたらルテンを倒せば、その森の侵食も消えるのかも……これも推測でしかないから、もう少し調べてみるね』


「あぁ頼む。ほんとお前は頼りになるやつだよ」


 ちょっと誇らしいじゃないか。


『嬉しいな。薫平くんに褒められちゃった。アオイちゃんや翔平くんからはまだ連絡は無いの?』


 そうなんだよ。

 一応キャッチが入ればすぐに分かると思うんだけどさ。


「まだ、みたいだな。アオイが居ればモンスターなんて脅威でもなんでも無いが、心配だ」


『大丈夫。あの子が双子ちゃん達を危ない目に合わせるわけ無いんだもの。今は薫平くん達がこの状況から抜けて、安全な場所に避難できる事だけ考えよう。ルテンの目撃情報を集めてそこから出るタイミングを指示するから、電話を切らないでね』


 なんでも出来る奴だ。

 ありがてぇ。


「了解」


「それじゃあまた」


 お互い短く言葉を交わして、スマートホンを内ポケットにしまった。

 ドギー巡査がホルスターに備え付けてあるペンライトを点灯させる。


 子供達はその光を追って天井を見た。


 ジャジャ、ナナ、翔平、アオイ、ユリーさん。

 どうか、無事でいてくれ。


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