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知りたがりのアルバ・ジェルマン

 


「極東の空が喜んでるみたいだね」


 僕は馴染みの杖を地面に突き刺し、遠くの空を見上げた。

 祝福の風が東に向かって、どんどん流れていく。


「二百五十年ぶりの新しい龍か」


 楽しみだ。


「『知りたがり』アルバ・ジェルマン」


「なんだい?」


 正面を向きなおす。

 風の結界の中で、彼女はまるで祈りを捧げるように座っている。


「あの、正直邪魔なのだけれど」


「酷いな。君が暇してるだろうと思って、わざわざ顔を出したのに」


「わざわざとか、押し付けがましい。貴方にとっては大した距離じゃないでしょうに」


 バレたか。


「アハハ。でも、安心してよ。どうやら僕は行かなければならないみたいだね」


「……龍の子が、産まれたのですか?」


「うん。そうみたいだ。龍種専門の僕としては、居ても立っても居られない」


 なんなら、最高速度で飛んで行っても構わない。


「……喜ばしい事です。私達は、産まれづらい」


「空の女王の娘以来だからね。純粋な龍種は」


 懐かしいなぁ。元気にしてるかな。


「……行ってあげてください。龍の子にとっては、貴方は必要な存在ですから」


「うん。そりゃそうだ。僕しかいないもの」


「性格はともかく、貴方の腕は信頼してます。どうか新しい同胞をよろしくお願いします」


 この子も、丸くなったなぁ。

 小さい頃はあんなにお転婆だったのに。


「任されたよ。君達はとても強くて大きいのに、とっても儚い」


 世界がこんなに混ざりあっても、この子達が混ざりあう事は無かった。

 いや、正しくないな。

 この子以外が、混ざりあわなかった。


「さて、僕は行くよ。暫くはここにも来れないね」


「あ、あの」


 何か言いたい事が残ってるのだろう。大丈夫。理解している。


「心配しないで、ちゃんと報告には来るよ。今までみたいに頻繁には来れないけれど」


「………あ、ありがとう。アルバ・ジェルマン」


「だから、頑張るんだよ」


 彼女はその綺麗な瞳からポロポロと涙を零し頭を下げる。

 それでも、その姿勢は崩さない。


「僕は、龍の味方だ。たとえ世界が龍を嫌おうとも、僕だけは龍を救い続ける。それが、僕の存在意義だからね」


 微笑んで、振り向く。

 正直名残惜しい。この子はどの龍よりも頑張っている。

 できるならずっとついてやりたい。


「アルバ・ジェルマンたま!お帰りでしゅか!」


「やい『知りたがり』!ヒルデガルダ様は大丈夫なんだろうな!」


「元気だとも、ピンピンしてる。『妖精フェアリー』の君達のお陰かな?これからもあの子をよろしくね」


 小さな小さな妖精フェアリーが二匹。帰り際に飛んできた。


「まかしぇてくだたい!アンはヒルデガルダたまの妖精フェアリーでしゅから!」


「お、おれだって!ヒルデガルダ様の一の妖精フェアリーだい!」


 頼もしい。

 彼女が元気なのは、この子達のお陰でもある。


「暫く来れないけど、心配しないで。何かあったら僕にはわかるから」


「不思議鼠だもんな!」


「ロック!アルバ・ジェルマンたまに失礼なのでしゅ!」


 そんな事はない。長毛鼠族なのは間違ってないし、僕は不思議の塊だからね。


「気にしないで、アンミラ、ロックヒルト。ヒルダを頼んだよ」


 僕はそう告げると、神殿の出口に向かう。元気な返事と、生意気な返事が返ってきた。


 出口を抜けて、深い森の中に立つ。

 目的地は結構遠いが、僕にはなんの問題も無い。

 龍と僕を分かつ事は、古き者にすらできないのだから。


「待っていてくれ、新しい龍の子よ。僕がいる」


 杖を二度打ち鳴らす。体が宙を浮き、上昇する。


「僕は龍の後見者!矮小なるアルバ・ジェルマン!」


 時空が歪む。

 空と空の境目を曖昧にし、目的地までの距離を縮めた。

 僕が使える唯一の権能。それはただただ龍のもとに向かうために身につけた、僕のプライド。


「君達の、絶対的な味方だ!!」


 そして、僕は亜光速を超える。

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