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閃光のお昼休み②

 

「オレは兄貴の舎弟ですから!」


「兄貴でもないし、舎弟なんかいらん!」


 小柄な癖に押しの強い日下くさかは、目をキラキラさせて俺を見てくる。

 その目には、かつて住んでいた街で俺のお溢れを頂こうとしていた奴らとは違う、本物の憧れの光が宿って居るのだ。

 だから強く拒否する事ができない。

 これもまた純粋な好意の一つだからなぁ。


 なんでこんな事になったか思い出してみよう。

 過ぎた4月。俺がこの高校に初めて登校したあの日、あの時を。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「先月、こ、この町に越してきました。風待薫平フェス!よろしくお願いします!」


 盛大に噛んだ。

 なんだフェスって。音楽祭かよ。風待オンリーフェス開催中なのかよ!


 完全にミスった。緊張し過ぎてテンパってしまった。何やってんだ俺!。


 教室を見渡す。

 作りは最近の学校で良く見る、席毎に段差を設けている階段状の教室だ。

 羽が大きい鳥族や体格の大きな獣人がいるから、教卓を徐々に見下ろす作りにしないと、後ろの奴が黒板なんかを見れなくなるからな。

 俺の席は廊下側の中列。50音順で縦に並んだ席の4人目。4番目の自己紹介だった。

 早い。早すぎる。

 もう後10人ぐらい前にいてくれたら、このクラスの空気を読んだ上で傾向と対策が取れていたモノを!


 皆一様に俺を見てポカンとしている。

 転校生とは言え、今日は新学年の新学期。

 俺以外の生徒は一年をこの学校で過ごして居るから、クラスが変わったとは言えある程度お互いを知っているのだろう。

 前の席や隣の席と早速仲よさそうに内緒話をして居る生徒もいる。


 俺は何も無かったかのように着席した。

 そう、何も無かった。

 記念すべき新生活の第一声を盛大に噛むという無様を晒した間抜けなんて居ないんだ。


 つとめて平静を装う。

 俺の後ろの席、最後列の男子生徒が立ち上がり、普通に自己紹介をした。

 俺のと比べて簡潔で、ユーモアに溢れている。


「今年はサッカー部のレギュラーになります!女子!今の内だぜ!?」


「馬鹿じゃないの?」


「がんばれよー!」


 ウケている。もう馬鹿ウケである。

 男子列と女子列が交互に並んだ教室が爆笑に包まれている。

 俺の失態なんて消えて無くなり、殆ど覚えていないのだろう。

 あれ、おかしいな?転校生って、こうもっと騒がれると思ってたんだけどな?

 ほら、『どこから来たのー?』とか、『何か部活やってたー?』とかさ。あるでしょ?


「……ねぇ、風待君って、ヤンキーなのかな?」


「絶対そうでしょ。見てよあの鋭い目つき」


「デケェな……お前カツアゲとかされるんじゃね?」


「あーせっかくヌラちゃんと一緒のクラスだったのに、なんであんなホンモンが……」


「フェスって、ウケ狙ったのかな?」


「よしときなよ。本人気にしてるかもしれないし」


 俺の耳の良さは相変わらずか。

 聞こえなくて良い話がバンバン入ってくる。

 気を使ってくれて、どうもありがとう。余計な御世話です。


 決して表情を崩さず、新しいクラスメイト達の自己紹介を聞き続ける。

 内心は大荒れである。もしこの教室で一人きりだったら、床に寝そべってゴロゴロと暴れまわりたい。

 風待!薫平は!大馬鹿者です!


 さて、冷静クレバーだ。こんな時こそ冷静クレバーに行こう。

 感情を無にして、教室を再び見渡す。無だ。


 この高校は、全国にも数十校しかない魔族との交換留学生制度を採用した高校らしい。

 事前にドギー巡査に聞いた話によればかなり多くの魔族が文化と技術、学問を学びに、他種族とのコミュニケーションを取る為に国から離れてこの国に来ているらしい。

 この学校もそんな魔族たちを受け入れいている一つだ。


 見た限りだとこのクラスにも二人ほど居る。

 肌の浅黒いコウモリの羽を生やして静かに目を瞑る女子と、立派な角と真っ白な翼を持って偉そうにふんぞり返って居る男子が一人。

 前まで住んでた街は大きかったが、魔族の姿は見た事がなかった。

 なるほど、なんかアオイが魔族と偽っていてもバレない理由がなんとなく分かった。

 登校中や始業式でも結構な数の魔族の姿を見たが、なんというか統一性が無い。

 容姿に関して言えば皆バラバラで、羽や翼や角の有る無し、形状、大小、肌の色や体の大きさ。何もかもそれぞれ違っていた。


 魔族の国ってそう言えば、かなり細かく分かれているんだっけか。

 球大陸。オーストラリアの西側真横にある魔族が住む大陸。

 ドーム状の土の壁に殆ど覆われたその大陸には、数多くの魔族の国がある。

 一番有名なのが、フランシオンって国だ。

 言語体系魔法を特別な水晶に込めた魔法具、言球スフィア。その原産国。

 これが全世界的に大ヒットした。


 その大きさにもよるが、魔法具の効果範囲では言語が自動翻訳されるという優れもので、公的施設や空港、企業や学校施設を中心に大活躍している。

 言語の違う外国人と簡単に意思の疎通ができるという世紀の大発明で、例えば語学なんかだと以前の授業に比べてリスニングやヒアリングの補助として最適だった。

 かつての世界衝突の折、人間と獣人や魔族を結びつけたのも、言球スフィアに込められた言語体系魔法の力が大きい。

 決して安くない魔法具だが、一応家庭向けにローカライズされた物も売りに出されて居る。それでもおいそれと手が出せない値段だけど。


 この言球スフィアのおかげで、他国の言語を習得している人達がかなり増えたのだ。

 この高校にも体育館や学食なんかにもちろん設置されている。

 教室に置いていないのは、生徒達の自主的な素のコミュニケーションを推奨しているとかなんとか。それは全国的に一緒だ。


 改めてクラスメイト達の自己紹介を聞いてみる。

 一年間、お世話になるからな。

 もしかしたらこの中の何名かは、ほら、挨拶とか、できるかも知れないし……。


 当然ながら、獣人の姿も多い。

 高校によっては獣人と人間を完全に分ける所もあるらしいけれど、批判の対象になっているから見たことは無い。


 俺の前の席には猫族の男子。

 隣はなんだろう、この耳は見た事無いな。犬族っぽいけれどかなり大きい。

 後で、勇気があったら聞いてみよう。


 そんな感じでコソコソとクラスメイトを見ていると、一人の男子生徒と目があった。

 女子列を挟んだ列の一番前。

 教卓の目の前にいるすごい小柄な、あれは男子だよな?

 整った顔立ちに、栗色のセミロングの髪型をしている、見ようによっては女子にも見えなくはない男子が驚愕したような顔で俺を見ている。


 なんだあいつ。


 やがて女子列の自己紹介が終わり、その小柄男子の番になった。

 だけどその男子は俺をじっと見たまま、立ち上がらない。

 口は半開きで目は見開かれていて、正直怖い。


「日下、おい日下。お前の番だぞ」


 担任である歴史担当の教師が、小柄男子を呼んだ。あの先生、名前なんだっけか。


「はははっは、ハイ!うわっ!!」


 日下と呼ばれた小柄男子は、慌てて正面を向くと勢い良く立ち上がった。

 勢い良すぎて、机が倒れた。


「マキ、慌てすぎ!」


「マキオー、なんだビビってんのかー?」


「マキちゃん深呼吸!深呼吸だよ!」


 ヤジとも励ましとも取れる声が、一斉に日下に投げられる。

 その声の半分以上は、女子の声だ。

 なんとなく分かったぞ?あんな容姿をしているから、マスコット的な感じで女子の人気が高い奴と見た。


「大丈夫?」


 日下の隣の席、眼鏡をかけたロングヘアの猫族の女子が倒れた机を元に戻すのを手伝っている。


「だ、大丈夫。ありがとうリーナちゃん」


「落ち着いてね牧雄まきお君」


「う、うん」


 机を戻し、後ろを振り返る日下。

 その視線は相変わらず俺に一点集中している。


 ……またこの見た目のせいで、ビビらせてしまったかな。

 悲しい。

 俺にそんな気は微塵も無いのに。


「あ、あの!日下くさか!日下牧雄(まきお)です!覚えてますか!?」


「は?」


 自己紹介なのに、俺に向かって発言してね?


「あ、あの!『昇りごい』さんですよね!」


「えっ!?」


「はぁ!?」


「ひっ!!」


 周りから悲鳴が上がった。


 え?

 あれ?


「『端午たんご節句せっくの昇りごい』で有名な!風待薫平さんですよね!?」


「お、おま!ちょ!」


 待て待て待て待て!!


「なんでその名前を知ってんだ!!」


 思わず、叫んでしまった。


「あの!三年前に、あの子供会で助けてもらった日下雛(くさかひな)の兄です!妹を助けてくれて、ありがとうございます!『昇り鯉』さん!」


 小柄男子は、俺の最も嫌う言葉を言いながら深く頭を下げた。


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