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閃光のお昼休み①

前回の投稿分に4行ほど追加しています。

 昼休みが始まるチャイムが鳴り響き、みんなが次々と教室から出て行く。

 俺はと言えば、机に突っ伏したまま微動だに出来ない。


 ここ最近、アオイの俺に対する距離が近すぎる。

 いや、前からアイツは俺に対してはかなり無防備だったが、この間の買い物から帰った日からそれが意図的な物になった気がするのだ。

 例えば、以前はダイニングのソファに二人で並んで座っていたら、無意識っぽく体を預けてくる事は確かにあった。

 今じゃ隣に座るやいなや、俺の膝に両足を乗せて肩に頭を乗せてくる。

 その薄い胸を俺に密着させて、熱を帯びた視線でチラチラと上目つかいをしてくるのだ。

 他にも部屋の座椅子に座っていたら後ろから抱きついてきたり、ベッドに横になっていたら静かに覆いかぶさってきたりと、正直言って行動がエロい。


 以前から分かってるつもりではあったけれど、それにしたってここ数日のアオイからの好意がメーターの限界を振り切ってリミットブレイク気味だ。

 空気が読めず、女心に無知だと自覚している俺でも、アレは誘われてると嫌でも気づくさ。


 買い物の日から変わったって事は、佐伯が何かを吹き込んだ事は簡単に想像できる。

 あんの小悪魔子猫。

 今度会ったら問いただしてやる。


 そんな訳で、俺の精神的疲労は現在ピークを迎えている。

 いや、男なら据え膳なんとやら。

 向こうから誘われているならば、美味しく頂けば良いだけなのは重々承知しているのだが、なぜかそれを素直に頂戴してはいけない気がするのだ。


 第一に、ジャジャとナナの存在だ。

 家にいる間は、俺の近くには必ず双子達が居る。

 当然だ。育児してますもの。


 我が風待家の今までの役割分担は、親父は稼ぐ為に働き、翔平は食事の準備、俺は掃除や洗濯や細かい雑事を担当していた。


 ぶっちゃけ、家事の鉄人である翔平がやろうと思えば、掃除・洗濯なんて簡単に俺より上手く、俺より早く終わらせる事ができるけど、そうすると俺の仕事が無くなってしまう。

 長男役立たずのレッテルは御免被りたい。

 そうでなくても、弟のスペックが高すぎて俺の影が薄いのだから。

 あえて俺が仕事を受け持つ事で、我が家は長年バランスを保って来た。


 それが、今ではアオイが俺の代わりに掃除・洗濯なんかを率先して引き受けている。

 俺達は特に気にしていた訳じゃないが、アオイは自分や双子達が風待家の負担となっている事を大分気にしているのだ。

 だから細かい事や、アオイでも出来そうな家事は全てやろうと息巻いている。

 そうするとどうなるか。

 俺の、やることが無い。


 頑張ってるアオイに、『俺の立場が危ういから何もしないで欲しい』なんて言える訳が無く。

 と言うかそんな事言ったら俺って凄い器の小さい男になる。なんとか風呂掃除だけは死守しているが。

 そんなこんなで自然と、双子達の子守は俺の仕事になった。


 だから、アオイがどれだけ情熱的なアピールをして来ても、必ず近くにジャジャかナナがいる訳だ。

 まさか娘達の隣で煩悩爆発で襲いかかる訳にもいかないじゃ無いか!

 双子が起きてようが寝てようが、俺にはそんな事できません!


 そして第二に、家族の目がある事だ!

 アオイは結構ところ構わず俺に接触してくるから、当然親父や翔平にもバッチリ目撃されてしまっている。

 あんの親父、何が楽しいのかニヤニヤニヤニヤしながら俺を見て笑いやがるもんだから、頭にくる。

 何が悲しいって、物分かりの良すぎる我が弟が気を使うのだ。

 テレビを見ていようがお茶をしていようが、静かに立ち上がり部屋へと消えていく姿に、俺は頭を抱えてしまう。

 翔平?

 兄ちゃんどちらかといえば助けて欲しいんだけどなー。

 夜になると、早めに寝ようとするし、この間なんかイヤホンを着けてベッドに入りやがった。

 そんな知識どこで覚えてくるんだよ。早すぎるだろうが。


 それに俺達の部屋は、空室を一つ挟んでいるとはいえ親父の部屋と近い。

 それっぽい物音が聞こえて来たりなんかしたら、あの野郎次の日に満面の笑みで嫌味を言ってくるに決まってる。

 そんなの、耐えられない。


 そして最後に、俺のアオイに対するイメージが母親で固定されてしまっている事だ。

 双子達に接するアオイは、綺麗だ。

 幼さの残る容姿で、優しく微笑みを浮かべるその姿は、一種の神々しさすら感じてしまう。

 そんなアオイに対して邪な気持ちを抱く事に、俺はなぜか抵抗がある。


 女性に対して幻想を抱きすぎてる俺が悪いのは、分かってる。

 だけど、なんかこう、『母親』って、綺麗な存在じゃん?


 俺も翔平も、自覚しているマザコンだ。

 これは、何も恥ずる事が無い。

 死んだ母さんは、優しくて強い人だった。

 俺達兄弟、そして親父も、母さんが大好きだ。

 もし再び会えるのならば、みっともなく泣きながら甘えまくるだろう。

 だからなのかも知れないが、俺は『母親』に特殊な想いを抱いている。


 アオイには悪いけど、それは根深い物だ。母さんが死んで七年。

 その程度の短い時間じゃ、覆せない。


 そして俺は疲弊していく。

 思春期だもの。

 男の子だもの!

 目の前にいる美少女に対して、反応しない訳ないじゃん!

 そんな暴走一歩手前の感情を、鉄の理性と若干の負い目で我慢していたら、そりゃ疲れるってもんだ。


 ジャジャとナナの夜泣きも、昼に目一杯遊んでやってるから前よりは落ち着いて来たもののまだ続いてるのだ。

 毎朝のジャジャの『パパ!いかないで!』とアピールする泣き声に耐えるのも体力を使うし、学校でのぼっちも俺の精神をゴリゴリと削っていく。


 俺、大丈夫かなぁ。


「兄貴!今日は何買って来ますか!?」


 ……出たな。


 机に突っ伏していた俺は、ゆっくりと上体を起こし、声の主を探す。

 そいつは俺の席のすぐ隣に立っていて、満面の笑みで俺を見ていた。


「……なぁ」


「うす!」


 うす!

 じゃねぇよ。

 隠せない溜息を一つ吐いた。


「これで何度目か、もう覚えてないんだけどさ。いちいち昼飯のパシリなんかさせねぇんだよ俺」


 翔平印の美味しい弁当を毎日持参してるだろうが。

 ずっと見てるじゃないかお前。


「はい!でも、気が変わるかも知れないじゃないすか!兄貴!」


「だから!兄貴って呼ぶのやめろって!」


 こいつだ。

 このやけに背の小さな金髪リーゼント。


 俺の舎弟を自称する、日下くさか 牧雄まきお

 こいつもまた、俺を疲れさせる要因の一つだ。

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