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パパのhow-to⑤

 

「ぐぅっ!」


「耐えるんだ。もうじきの辛抱だから」


「ど、どうしましょう。とりあえず汗、汗拭きましょうね?」


 アルバの叱咤に答えているわけじゃ無いが、奥歯を噛み締めて気力を振り絞る。

 ユリーさんがオロオロと慌てながら、俺の額に浮かび上がる汗をハンカチで拭いてくれた。

 キッツイ。気を抜いたら意識が持っていかれそうだ。


 今俺がやっているのは、ジャジャの操る精霊の群を俺の体に取り込む作業だ。

 一匹残らず俺の支配下に置いた緑の精霊を、俺の体の中心、微弱に感じる『光』へと集めて居る。

 アルバの言葉に従って開始して、わずか2分足らずで既に余裕なんて消え去っている。


「僕の仮定が正しければ、この精霊は元々が君から双子達にもたらされたモノだ。授乳や日々の接触で少しづつね。双子達にとってその存在は強すぎる。だから与えられた分がその許容量を超えた時に、感情の爆発と共にこの特殊な『能力』として発散されているんだ」


 だから、つまりっ!どうゆうことだよ!


「悪いっけど!っ余裕無いんだ!もっと分かりやすく説明してくれないか!?」


「放って置いたらまたすぐに一杯になって、強い思いで暴走するって事さ」


 最初からそう言え!

 感情の爆発。強い思い。喜怒哀楽で言うなら、ナナは哀か?じゃあ、ジャジャは喜か。

 体内の妖精が溢れるほど溜まってて、強い感情をトリガーにして発動するのか。

 え?んじゃあこれを定期的にやらなきゃいけないって事?


「あぅ」


 ジャジャは俺の両腕に抱えられて、不思議そうな顔をして居る。

 右手を俺の頬に添えたまま、左手は俺の肩で服を強く握っていて、不安がって居るんだろう。

 可哀想に。


「だ、大丈夫だ。すぐ終わるからな?」


 できるだけ、優しく笑った。

 俺が辛そうな顔なんかしたら、娘達が怖がってしまうから。


「だぁ」


「おー、ナナも、少し待ってろな?」


 足元のナナも、俺を見上げて固まって居る。

 大丈夫だ。パパはこんぐらいじゃへこたれない。結構満身創痍だけど、根性だ。


 緑の精霊達は、俺の意思に操られて次々と俺に飛び込んでくる。

 その勢いは凄まじく、すでに見える範囲の半分は無くなっていた。

 縛ってまとめてあった、浮いてしまうおもちゃなんかはもうすでに床に落ちている。

 俺の体も既に重さを取り戻していて、急に戻った重力のせいもあって体が異常に重い。


 精霊を一匹取り込む毎に、内臓が絞られるような痛みと想像以上の脱力感が急激に増す。それと同時に、目の奥がジンジンと痛む。クラクラと揺れる視界のせいで、頭痛もしてきた上に気持ち悪くもなってきた。

 足を踏ん張ってなんとか立てて居るが、かなり紙一重だ。


「ようし。ジャジャの分はもうほとんど終わってるね。どうだい?」


「つ、辛いなコレ」


「精霊ってそもそも力の集合体だからね。それを取り込むって事は大変なことだよ?精霊を空気に例えると、外から無理やり空気を入れられた風船と同じさ。君が頑丈じゃなかったら、破裂こそしないがとっくに失神してるだろうね」


 そんな怖い事、今更言うなよ……。

 なんでやる事なす事、詐欺師じみてるんだコイツ。


 灰色フワフワ詐欺鼠に色々文句を言いたいけれど、そんな気力も湧いてこない。


「ジャ、ジャジャはもういい、のか?」


 もうダイニングには精霊の姿は見えない。

 不思議と感じ取れた、ジャジャの小さな体の内側にいた分も、今じゃ殆ど消えている。

 よし、大丈夫だろう。次はナナだ。どうせこの作業をする度に辛い思いをするのなら、一気にやってしまおう。


「ユリーさん。ジャジャ、お願いしてもいいですか?」


「え、ええ。おいでジャジャちゃん」


 俺の両腕から、ジャジャの重みが遠ざかる。

 俺は両目を閉じて、目頭を片手で押さえた。目を閉じたまま、ヨロヨロと手探りでソファーを探す。


「す、座ってやった方が良かったな」


 今更ながら気づいてしまった。とは言っても、さっきまでの俺は殆ど浮いていたから、座るのも一苦労だったろう。


 手の平に独特の毛羽立った感触を感じて、体を引き寄せるように引っ張る。

 なんとかソファーに座ると、備え付けのヘッドレストに頭を深く沈ませた。あぁ、このまま眠ってしまいたい。


「……いや、ナナもやらなきゃ」


 勢いをつけて、体を起こす。

 未だに床に座って俺を見ているナナへと両手を伸ばした。


「おいで、ナナ」


「あぅ」


 ジャジャより上手くはないが、ナナだって最近メキメキと飛ぶ事が上手くなっている。

 ヨロヨロと浮かび上がり、おぼつかない感じでフラフラと俺に近づいてきた。


「あ、あぁー」


 両手を俺に伸ばして、ナナは翼を羽ばたく。

 何度見ても応援したくなる光景だ。


 やがて俺の膝の上までたどり着くと、勢いよく胸に飛び込んできた。


「だぁ」


「はい、お上手」


「あぅ」


 衝撃を和らげて胸で受け止める。

 アオイに抱かれる時もそうだけど、ナナは癖なのか胸に顔をグリグリと擦り付けてくる。

 大変庇護欲をくすぐるから、俺はその仕草が大好きだ。

 ジャジャの場合は、噛み付いてくるからなぁ。可愛いんだけど、とても痛い。


「ナナの体内の精霊は、ジャジャに比べたらとても少ないね。普段どれだけ君と接触してるかで変わってくるんだと思う」


 むう、つまりスキンシップしすぎるなって事か?

 そんな殺生な。


「いや、定期的に精霊を回収できるなら、むしろ積極的に甘えさせてやりなよ。なんにせよ君から人間の因子を摂取しないといけないんだからさ」


 なるほど、俺にこの苦行を数日毎にやれと。

 クッソ、望むところだ馬鹿野郎。ジャジャとナナ、二人と戯れる為ならこんなの屁でもねぇや。


「本当に、君は親馬鹿になったね。何度も言うけど頼もしい事さ」


 あ、それは褒めてないなお前。


「さあ、さっさと終わらせてしまおう。僕もあの子の所に戻らなきゃね」


ボディガードを頼んだ龍のところか。


「あと、どれくらいで着きそうなんだ?」


「んー。ちょっと関西の方が騒がしくてね。少し遠回りをするから、2週間ってところかな?」


 6月ぐらいか。


「わかった。準備しておく」


 そう言って、俺は目を閉じる。

 ナナの体内にいる精霊を、五感や、表現し辛い感覚で感知して、捉える。


「あー」


「おう、パパに任せとけ」


 目を開いて、その瞳を覗き込む。

 綺麗な瞳。俺の大好きな瞳。


 続いて、ユリーさんに抱かれるジャジャを見た。

 やっぱり疲労していたようで、早くもうつらうつらと船を漕いでいる。


「ジャジャもおねむだし、ナナも早くお昼寝しような?」


「だぁ」


 ゆったりとしたナナの返事を聴きながら、俺は精霊を操り始めた。



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