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パパのhow-to③

 

「精霊を見る?」


「そう、君にだからこそ見える物がある」


 あの緑の光を纏った、蝶の姿をした小さいヤツか。

 しかしそう言われてもユール、つまりアオイの母親の一件と牧場でのナナの一件以来とんと見ないんだあの精霊。

 何度か目を凝らして見ても、それらしい物すら出てこない。


 アオイに協力してもらって、普通の精霊を呼んでもらっても俺には全然見えなかった。

 アオイが操れるのは天の精霊。

 白い光を纏った蝶々の姿で、風や雨、雷などの空にまつわる事象を司る精霊だそうで、他の精霊は見たことが無いらしい。


「あの蝶々だよな?」


「蝶とは限らないんだよね。未だあの精霊を顕現、使役したことのある者は居ないんだけど、僕の想定上あの姿は天の精霊を真似ただけなんだ。もしかしたら地の精霊のようなトカゲの姿で出てくるかもしれないし、海の精霊のように小魚の姿で出てくるかもしれない。共通しているのは緑色、つまり命のことわりを示す色をしているって事さ。それが、とても重要なんだ」


「精霊によって姿や色が違うのか?」


 俺は足を組んで胡座あぐらの状態になった。

 なんとなくこのフワフワした感じも慣れてきたぞ。適応能力には少し自信があるのです。

 空中に浮く胡座の姿勢の俺。

 古い格闘ゲームにこんなの居たな。


「ああ、全然違うね。大空で戯れる白き蝶は、天の恵み。大地を駆ける赤きトカゲは、地の誇り。大海原を進む青き魚は、海の祝福。この世界は実は精霊たちが無邪気に遊んで出来ているんだ。精霊達は普段は僕達と少しだけズレた空間に居るんだ。言うなれば異なる『チャンネル』だね。違うチャンネルで起こした精霊達の行動の結果が、僕らの次元に影響を及ぼすんだ。まぁ、それほどだと本当に大量の精霊達が動いて居る事になるけど」


「む、難しいな」


「普段は見えないって事さ」


 その程度の文字数で済むなら最初からそうしてくれませんか?

 ほら、俺っていわゆる馬鹿だからさぁ。知ってんだろ?


「その異なる次元にいる精霊達を操るのが、龍種の共通した特殊能力さ。彼女達の立派な角はその能力が発達している事を現している。アオイが精霊を操る時なんか派手に光るだろ?」


 うん、それはなんとなく知っている。

 アオイもそんな事言ってたしな。


「さて、それでは本題の緑の精霊についてさ」


 緑に発光する精霊。

 ユールの時は俺の体内から大量に発生し、巨大な雷球を跡形も無く消し去った。

 ナナの時は鳥を操り、見えないけれどもしかしたら今もジャジャに操られてその辺を飛び回っているかも知れないモノ。

 さっきからジャジャの角は淡く発光し続けているから、間違いなく居るんだろう。

 ただ、ナナの時は見えて今は見えない理由は何だ。


「命のことわりって?」


 なんか中学生が喜びそうな単語だな。


「天には天の、地には地の、そして海には海の。ありとあらゆる物に精霊の影響があるのならば、僕たち生き物に影響を及ぼす精霊が居たっておかしくないと思わないかい?」


 まぁ、言われたら確かに。


「だけど未だかつてそれを見た者は居なかった。昔の魔族の学者なんかでその説を提唱する者も居たんだけどさ。神学派の影響が強い当時の魔族の間では頭のおかしい変人扱いされちゃってねぇ。結局その説はそれ以上の追求がされないまま廃れてしまったんだ。その研究は僕がこっそり引き継いだんだけどね?」


 ようし。お兄さん頭がこんがらがって来たぞう。

 神学派?

 魔族の学者?

 研究だぁ?


「良くわかりません」


「本当に君は馬鹿だなぁ。僕もどこまで君の理解力に合わせて落ちればいいのか分からなくなってきたよ」


「ご、ごめんなさい」


 謝るしかない。

 ちくしょう、言われてる事が事実だから受け止めるしかないじゃないか。

 ムカつくなぁ。


「魔族の中の一部は創世神を信仰して居る信徒なのよ。彼らは魔族の中でも極めて保守派の国の人たちだから、あまり他国との関わりが無いの。その所為で詳しい事は未だ分かって居ないのだけれども、元々彼らは知力に優れた種族だし、神様についての学問が盛んだって聞いた事があるわ。それが創世神学」


「へぇ」


 いつの間にか双子達の隣に座っていたユリーさんが補足説明をしてくれた。

 まだ良くわから無いが、何と無く理解したフリをしておこう。


「僕に言わせて貰えば、的外れも良い所な学問なんだけどね!」


 偉そうにふんぞり返りながら、灰色の鼠は自慢げに声を上げた。


「創世神学の事はどうでも良いから置いといて、今まで居るであろうが姿を確認できなかった精霊が、君の生み出した緑の精霊さ。そうだな、仮に『命の精霊』と呼称しようか」


「なんか、大変な事言ってる気がするんだけど、生み出したって、良いのかそれ」


 聞く限りだと歴史的大発見じゃないか?

 この場だけでどうにかして良い話なの?


「良いんだよ。どうせ龍以外に精霊を使役できる者なんて本当に才能に恵まれた上に、長い鍛錬を積まなければ現れないんだ。そもそもその学説は現在そんなに重要視されて居ないんだ。『こっち』の世界の科学に反する部分もいっぱいあるしね。それに」


「それに?」


「こんなのおおやけになったら、それこそ普通の生活なんて送れなくなるよ?君にしか扱えない精霊なんだから」


 は?

 何言ってんのこいつ。


「言ったろ?君にだけ見える物があるって」


「俺にだけ、って何で!?」


 だって俺は少しだけ頑丈で喧嘩っ早いだけの唯の高校生だ。

 特別な生き物でも特殊な生い立ちがあるわけでも無い。


「双子達の授乳の時に、君が人の因子を与えてるって話をしたよね?」


「あ、ああ。一日一回、足りない人間の部分を補うって話だろ?」


 だから毎日アオイと裸で背中を突き合わせてるんだ。


「君から双子に与えられるのに、双子から君に与えられない道理は無い。つまり君は授乳の時に、双子達の龍の因子を貰ってるのさ。そして、それがあの精霊の使役条件だったんだ」


 あ、え?


「双子たちから与えられるそれは、とても微々たる物で大した影響を与える物じゃ無い筈だけど、君は龍の卵殻によってとても大量の龍の因子を得た」


 いや、でもだってそれは。


「それは、お前がそうしろって」


 俺はそれに従っただけ、何……だけど。


「うん!僕は今の事態も想定して居たからね!君にはあの精霊を操れるようになって貰わないと、ジャジャとナナがとっても困った事になるのさ!」


 ゾッとした。


 背筋に鳥肌やら悪寒やら、およそ気持ちの良く無い物が走る。 

 この目の前で嬉しそうな声を出しながら俺を見るアルバ・ジェルマンを、心の底から恐ろしく感じて居る。

 伝説にうたわれる鼠の賢者は、この小さき偉大な龍の医者は、あの混乱した状況であの場に居た全ての人物を手のひらの上で転がしながら、未来である今のこの状況を作っていた。


「さあ、検証を始めようか!」


 俺は、俺たちは。

 一体いつからこいつの思惑の中で操られて居たんだ?

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