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パパのhow-to②

 

「あら、本当に鼠の賢者様って居たのねぇ」


 ジャジャを抱えたユリーさんが、アルバの姿を物珍しそうに見ている。


「やあ、僕こそが伝説にその名を刻むアルバ・ジェルマンさ。と言っても、最近だと名前までは知れ渡ってないようだけどね」


「そうですね。お名前まではさすがに存じませんでした。英雄達の導き手であらせられる賢者様にお会いできて、とても光栄ですわ」


 深々と頭を下げるユリーさん。

 ジャジャはそんなユリーさんを不思議そうに見つめている。


「お前、そんな偉い奴だったの?」


 獣人達に伝わる伝説に、鼠の賢者が出てるのは知っているけどさ。

 それがどんな内容かまでは知らない。

 ドギー巡査曰く、小さな頃に大人から聞く類の伝承らしいんだが。


「そりゃあもう。3000年ぐらい前だったら誰もが僕にこうべを垂れてうやまったほどさ。あの時は気持ちよかったなぁ」


「何やったんだよ」


「そんな大した事はしてないよ。長い戦乱を収める切っ掛けを作ってやっただけさ。各獣族の勇士達を引き合わせたんだ」


「戦乱?獣族の勇士?」


 どうにも想像がつかない。

 現代において、獣人達は多少の確執と領土問題を抱えているけれど、一般人である俺たちのレベルで見たら上手い事共存出来ている。


 それが、戦争ねぇ。


 まあ、確かに。

 俺たち人間ですら、未だに人種の垣根を越えられては居ない。

 過去の戦争や紛争、小さな事で言えば町内のご近所トラブルですらその類だろう。

 戦時中に生きた人達が何を思い、相手をどう捉えているかなんて、現代でのほほんと生きる平和ボケした俺たちに想像できる訳ない。


 だから、獣人達の過去にも、そう言った争いはやっぱりあるんだなあ。


 3000年前、そんな昔の話だと授業でもなかなか教わらない歴史だ。

 特に『向こう』の世界。獣人達の世界の歴史はひどくあやふやな部分が多い。

 なぜなら獣人の種族は数が多すぎる。そのため、種族固有の文明もまたその種族数と同じくらい存在して居て、伝わってない物もあれば一つの事件に関して視点が違う文献の数が半端じゃないのだ。


 授業で習った事で言えば、例えばとある王朝の滅亡に関する文献。

 これが、滅亡した当事者サイドの視点から書かれた文献と、攻め込んだ敵国側の視点から書かれた文献で内容に相違点が沢山ある。

 滅んだ国を悪と見なす一方、攻め込んだ敵国に非があると主張する書物も存在し、さらには近隣の国から見た全く違う経緯の話すらあり、しかもそれが異常な程存在する。


 その理由として、人間に色んな人種がある以上に、獣人達にも多様な獣種という物があるせいだ。

 この獣種という物が、数を正確に把握できないほど多い。

 だから大小様々な国が、『こっち』の世界の比じゃないほど存在した。


 例えば、佐伯いちかや浩二の様な猫族で例えてみる。

 彼女達は短毛三毛猫族(みけねこ)だ。まだら模様の頭髪と体毛を持った、猫族の中でも数多い部類のスタンダードな猫族だ。

 だが、その他の猫族とは歴史上コミュニティを組んでいた事が無い。

 言うなれば日本における戦国時代の一地域版。

 ひどく小さな土地の中で、同じ猫でも種族を違える猫達が縄張りを主張しあい、いざこざが絶えなかったそうだ。

 同じ猫族でもそうなのだから、犬族同士、鳥族同士でも種族違いの争いがあり、さらには犬と猫、鳥と猫と言った戦争まであれば、もう訳がわからなくなってくる。


 この他種族紛争が、引いては同じ島の中で、大陸の中で、更には大陸間で、もっと言えば世界中で頻繁に起こっていたら、過去の文献なんて簡単に無くなってしまう。


 これを解決したのが、皮肉にも世界衝突であり、人間だ。


 俺たち人間という物は、良くも悪くも発展という物が大好きだ。

 利益、損得、存続の為なら、憎き相手だろうと笑顔で握手をしてのける貪欲さが特徴と言ってもいい。


 突如起こった大災害。

 膨れ上がる被害や損失。


 現れた獣人や魔族、魔法という未知なる物や、世界的な未曾有の危機を前にして、多くの人間が半ば上からの目線で彼らに手を差し伸べた。

 何せ人間の共同体は、獣人側の最大規模のコミニティーの数十倍もあるからな。圧倒的な数の人間の目には、獣人達は完全な被害者に見えたんだろう。


 その生命が脅かされた獣人側は、ほとんど選択の余地すら無くその手を取り、人間が主体となって歴史上初めての大規模な種族間の『共存』を始めた。

 それが、現代における人間と獣人の歴史である。


 はい、以上が教科書の受け売り。


 高校入試で勉強した範囲の、俺の知識だ。

 馬鹿だからほとんど噛み砕いて理解している。なんかもっと他にも述べられてたけど、俺の頭じゃこの程度の理解で精一杯だ


 なんでも、獣人側の文明が人間より栄えてなかった理由もそこにあるらしく、獣種が細かすぎて知識や技術の譲渡、共有が行われなかった事が原因だそうだ。

唯一発展した魔法技術も、基本的に魔族しか魔法は使えないし、魔族から流れてくる魔法具の改良方法だけが進歩してしまい、他の分野がおざなりになってしまった故だとかなんとか。

 成績の悪い俺には、こんな解釈が限界だ。細かい部分は歴史学者にお任せしますよー。


「ご謙遜を、賢者様が居なかったら我ら獣族はまだ戦争を続けて居たかも知れません。祖先の分まで感謝を」


 ユリーさんが再び恭しく頭を下げた。


「ああ!もっと僕を敬い媚びへつらっておくれ!龍の事で忙しくて権威なんか全然使えなかったからね。勿体無いことをしたなぁ」


 賢者と呼ばれるには俗っぽすぎて反吐がでるなお前。


「だあ」


 四つん這いになって俺を見上げているナナが、俺に声をかけた。


「とりあえず、そこに戻りたいんで手を貸してもらえますか?」


「ええ。少し待ってちょうだいね?」


 抱き上げていたジャジャをナナの隣に下ろして、ユリーさんは俺に手を伸ばした。

 その手を握り、軽く天井を蹴る。


「っと」


 なんの抵抗も無く、俺の身体は浮かび上がる。


「うわ、軽いわね。変な感じ」


 グイッとユリーさんに引っ張られる。

 身長は俺の方が高いし、もちろん体重も俺の方が重い。

 それなのにユリーさんの片手だけで、俺の身体は易々と引っ張られる。


 もう片方の手をユリーさんの肩に置き、俺はようやく地上へと帰還する。

 バランスを取るのが凄く難しく、両足をつけるだけで一苦労だ。


 フラフラと危なっかしい俺を見かねてか、ユリーさんが更に力を込めて俺を引き寄せる。


「はい。大丈夫?」


「ええ、ありがとうございます。ハハ」


 年上に抱擁されてしまった。

 ユリーさんは俺が再び浮き上がらないようにしっかりと腰に手を回してホールドしている。


 ううむ。恥ずかしいなコレ。


「さて、とりあえずどうするんだ?」


 足元のアルバを見る。


「一応、僕にとっても初めてのケースだからね。想定していたとは言え、こんなに早く事態が起きるとは思っていなかったんだ。やっぱりこの双子は僕の想像よりも早く成長しているんだね」


 しげしげと感慨深そうにジャジャとナナを見るアルバ。

 確かに、肉体的な成長はかなり早いと思う。


 なんせ、卵から孵った時にはすでに首が座っていた二人だ。

 飛ぶのも早かったし、お座りするのも早い。

 じきにハイハイもしそうだし、このペースだとパパと呼んで貰えるのも近いのかも。


「だから、ここからは僕の仮定を検証しながら対処していこうか」


「検証ねぇ」


 なんだろう。なんか実験動物にでもなった気分だ。

 現状、俺達はこの鼠の言う事を聞かざるを得ないしなぁ。

 多少無茶な事を言われても、それが間違ってるのかどうか分かんない以上は従うしかないってのが凄く嫌だ。


「まずは、精霊を見て確認する事から始めようか」


「精霊?」


 ペタンとお尻を地面につけて、俺を見上げるジャジャへと視線を移す。


「そう、緑の精霊。君も、前に見たよね?」


 アルバは楽しそうにそう告げた。



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