こんにちわパパです②
赤ん坊はケラケラと笑いながら、アオイノウンさんの指をニギニギと掴んでいる。
「ふぁ、ふああぁ、可愛い……。私の赤ちゃん、可愛いよぉ」
アオイノウンさんは感極まったのか、空いた左手をプルプルと震わせながら赤ん坊に近づいていく。
俺は赤ん坊を、惚けた頭のまま凝視した。
「……角と、尻尾と、翼」
白い産毛が生えた頭の左右、こめかみ部分から灰色の柔らかそうな小さな角がまっすぐ生えている。
背中にはアオイノウンさんと同じ色の、だけど大きくサイズダウンした翼。
お尻からは俺の腕ぐらいの太さの、短い尻尾。
「こっち、こっちも!妹ちゃんですよ!」
未だカタカタと揺れている左の卵。
こちらは出づらいのか、かなりもがいているようだ。
「割ってやったらダメなのか?」
「そ、そうですね!可哀想ですもんね!」
ハッとして俺に振り向くアオイノウンさん。未だ握られたままの右手を見直し、また俺を見る。
「あの、薫平さんに、お願いして貰っても良いですか?お姉ちゃん、離してくれなくて」
「あー!」
ニコニコと笑いながら、赤ん坊はアオイノウンさんの指を両手で振り回していた。
「あ、うん」
俺は頷き、そっと卵を触る。
かなり硬いなこの卵。
ひび割れて所々露出しているから、指を入れて優しく剥がしていく。
中の赤ん坊に破片が当たらないよう気をつけながら、パキパキと少しづつ慎重に。
「うぉっ」
左手の指を、何かに食べられた。
モゴモゴと咀嚼され、甘噛みされたのち、吸われている。
「お、おーい。何もでないぞー」
ゆっくり引き抜き、殻を割る作業に戻る。
『……ふぇ、ふぁああ』
卵の中から、息を深く吐くような鳴き声が聞こえた。
「あぁ、薫平さん早くっ!妹ちゃん泣いてますぅ!」
「あ、わっ、わかった!」
両手を素早く動かして、殻を割る。
大分剥がれてきたから、卵の上部分を両手で持って力任せに引っ張った。
「ふぁあああん!ああああっ!」
開ききってない目から涙を零す、可愛らしい赤ん坊が現れた。
「あああぁ……妹ちゃんも可愛いっ……ほーら怖く無いよー。ママだよー」
アオイノウンさんは左手を伸ばし、頬を撫でた。
安心したのか、撫でられた手の親指を食み、吸う妹ちゃん。
やはり、白い産毛の生えた頭の左右に、角がある。
お姉ちゃんと違うのは、こっちは角も白くて、途中から上を向いて曲がっている事だ。
背中の翼も、お尻の尻尾もちゃんとある。
「だ、抱っこしたほうが良いですよね?」
「そ、そりゃそうだろ。寒そうだし」
当然ながら赤ん坊達は全裸だ。
今はまだ三月。暖かくなってきたとはいえ、まだ肌寒い。
「ちょっと、待ってろ」
俺は上着を脱いだ。大きめのフード付きのトレーナー。
俺は大丈夫。寒がりだから、長袖のシャツと、この下にあと一枚着込んでいる。
「あ、アオイノウンさんはこれ着て」
忘れてた訳じゃ無いが、この子もすっぽんぽんなのだ。親子三人、仲がよろしい。じゃなくて。
ジャケットを肩からかけてるが、さっきから全部丸見えだった。
その小さいが張りのある胸も、白いお腹も、あ、あと、毛の生えてないソコとか。
俺が大分困る格好をしている。正直、直視できない。
「はっ、ハイ!ありがとうございます!」
ゆっくりと赤ん坊達から手を離して、俺からトレーナーを受け取り、着込む。
大きめのサイズだから、なんとか太ももまで隠せた。
もう一枚シャツを脱ぐ。中の下着は薄手の防寒着。多分、平気だろう。
シャツで最初は妹ちゃんを包んだ。あったかいのか、心なしか表情が緩んだ気がする。半開きの目をパチパチと瞬かせて、口を閉じたり開いたり。
お姉ちゃんの方は、アオイノウンさんに渡してたジャケットで包んだ。内側が薄い羽毛で出来てるから、きっとあったかい。
握ってた手が無くなったのを不思議がっているのか、キョロキョロと瞳を動かしていた。
あ、つむじの巻き方が姉妹で違うのな。お姉ちゃんは右巻きで、妹ちゃんは左巻きか。
「ほら、抱っこしてやりなよ」
俺の血で汚さないように気をつけていたから、少し手間取ったが、ようやく二人ともあったかくなった。
「……うわぁ、ありがとうございます。ほーら暖かくなったよー。良かったねー?」
アオイノウンさんは両手を広げ、まずはお姉ちゃんを抱き上げた。
人肌が嬉しいのか、またケラケラと笑っている。
「や、柔らかいっ……温かいよぉ」
また瞳からポロポロと涙を零し、アオイノウンさんは感動で震えている。
それを見ながら、俺はお役御免となった風呂敷を包帯がわりに、手にグルグルと巻きつけていた。
アオイノウンさんは座った状態のまま、妹ちゃんの脇に手を入れてモゾモゾと動いている。
暫くして、俺を見上げた。
「あ、あの、体勢が難しくて、妹ちゃん抱き上げて貰ってもいいですか?」
あ、なるほど、片手じゃバランス悪くて持ち上げれなかったのか。
「わ、わかった」
赤ん坊を抱くなんて、翔平が小さい頃以来だ。
緊張するな。
「ほら、ゴメンよ」
両手で脇の下に手を入れ、持ち上げた。
首は、座ってるみたいだな。しっかりしている。
「あー」
不思議そうに、俺を見ている妹ちゃん。半開きの目がジッと見つめている。
「あー、あー!!」
「あれ?お、お姉ちゃん?」
アオイノウンさんが、不思議そうな声を出した。
見ると、抱き上げているお姉ちゃんが、俺の方へ手を伸ばし、ワタワタと落ち着きなく動いている。
「い、妹ちゃんと一緒がいいのかな。薫平さん、ハイ」
「ハイってお前」
お姉ちゃんを渡そうとして来やがった。
咄嗟に妹ちゃんを右手だけで抱え、空けた左手でお姉ちゃんを受け取る。
「あー!」
「……あー?」
嬉しそうなお姉ちゃんと、不思議そうな妹ちゃん。
なぜか俺に抱かれている双子の姉妹。
なんだこれ。本当にそろそろ説明して貰ってもいいかな。
アオイノウンさんは、ニコニコと笑いながら、目尻の涙を拭う。
俺の腕の中の姉妹を見て、更に破顔した。
「わー……二人揃うと可愛さが凄いなぁ……良かったねーパパが抱っこしてくれて」
「ぱ、パパぁっ!?」
恐ろしい事を、口にした。
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