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噛むからね?①

 

「いだだだだだだただ!!」


 入浴後の風呂掃除を済ませていたら、ダイニングから親父の悲鳴が聞こえてきた。


 濡れた足をマットで良く拭いて、廊下を歩く。


 あー、なんとなく予想つくんだよなぁ……。


「ジャジャっ!ジイちゃんお指痛いの!」


 ダイニングに入ると、ソファでジャジャと戯れている親父の姿が目に入る。

 その隣で翔平が口元を押さえてプルプルと震えていた。


「ジャ、ジャジャっ。駄目でしょっ!じーじのお指噛んだらメッ!」


「あむあむ」


 対面のソファでナナを膝に座らせたアオイが慌てている。


「ふっ、ふふふっ。父さんだって、かっ、噛まれてるじゃん」


 翔平は笑いを堪えているようだ。


「あー、また噛んだのか」


「ほ、ほらジャジャっ!パパ来たぞ!噛むならパパ噛みなさい!大丈夫アイツ喜ぶから!」


 人を変態みたいに言うんじゃないよ。


「あむあむ、ぎりぎり」


「あーだだだだだだっ!ぎりぎりしちゃ駄目っ!」


 よく噛むのは良いんだけど、離乳前のジャジャにはまだ早いです。


「ほら、ジャジャ。爺ちゃんの指がチョンパしちゃうだろ。駄目だぞ」


「あー」


「ふぅ、ふぅ、痛かったぁ」


 見かねて親父の膝からジャジャを抱き上げた。

 親父は噛まれていた左手の薬指を大事そうに撫でる。


 後ろ向きに持ち上げたから不思議がっているのだろう。キョロキョロと周りを見渡して、身体を捻った所でようやく俺を見つけたようだ。


「あー!」


「はい、あー」


 両手を上げて笑うジャジャ。

 俺も釣られて返事を返した。


 まるで花が咲いたかのような笑顔に自然と口元が緩む。


「もう、ジャジャったら」


 アオイがソファから立ち上がって近寄って来る。

 右手を出してジャジャの額を軽く人差し指で押した。


「めっ!」


「あー!」


 うーん。遊んでくれてると思ってるなこれ。


 最近、ジャジャの噛み癖が酷い。

 口の上に生えてある犬歯けんし、この場合は龍歯りゅうしって言えばいいのか?

 その他の歯よりやんわり尖った龍歯や、他の生えかけの歯がむず痒いようなのだ。


 お気に入りの犬さんの縫いぐるみは、シッターのユリーさんの手によって二度ほど縫い直されていて見るも無残。

 寝る時に使っているタオルケットの端もボロボロになってきた。


 寝る前に必ず遊ぶアヒルのおもちゃも酷い有様で、なんだか彼が可哀想になってきた。

 この歯、多分人間より丈夫で鋭いんだよな。


 俺も何度か味わっているジャジャの噛み癖。

 これが凄い痛い。


 最初は朝だった。

 俺が起きる前に目覚めたお寝ぼけジャジャは、最近できるようになった寝返りと尻尾を使った反則臭いハイハイを駆使して俺の耳元に近寄り、おしゃぶりと勘違いした俺の耳たぶを思いっきり噛んでくれた。

 思わず悲鳴を上げてしまった。

 顎の力はもう立派な龍で、耳たぶが俺から家出したかと勘違いする程の威力だ。


 跳ね起きて耳たぶをさする俺を見て、ジャジャは無邪気な笑顔で大喜びした。


 この子、怖い子だよ。

 どうやら歯が痒い以外に、俺たちの反応を楽しんでいる節があるのだ。


 それからというもの、家族全員がジャジャの被害者となった。

 唯一無事なのは、ナナだけだ。

 お姉ちゃんとして、絶対に妹に怪我をさせないのは褒めてやりたいけど、俺達にも優しくして欲しい。


 アオイは授乳中に悲鳴を上げたし、翔平は昼寝の最中を狙われた。

 親父は構い過ぎて自業自得気味に噛まれまくっているし、俺の首元や肩にはジャジャの歯型が沢山残っている。


 いつの間にかウチの長女は吸血鬼になっちゃったのかな?


 どうにかその癖を治そうと噛んだらすぐに叱りつけるのだが、長女様は持ち前の突き抜けたポジティブシンキングを発揮してしまい、素敵な笑顔で俺達の毒気を抜いてしまう。


 どうにかなんないかコレ……。


「あぅ」


「だぁ!」


 アオイが抱えているナナが、何かをジャジャに伝えている。

 いいぞ妹様!

 お姉ちゃんに怒ってやりなさい!


「えへぇ」


「あー!」


 あ、駄目だコレ。

 二人とも笑顔で何かを終わらせてしまった。


「もう、ママ怒ってるんだからね?」


 そう言うアオイも、愛らしさにやられてニヤケている。


 わかる。

 この双子の醸し出す空気を前にして、怒りを持続するのはかなりの難易度だ。


「だぁ!」


 ほら、この笑顔に怒り続ける自信なんて俺にはございません。


「ユリーさんはなんか言ってたか?」


 母親として、そして元保育士さんとして経験豊富なユリーさんはアオイの師匠のような存在だ。


 すっかり打ち解けた二人は色々な相談をしているらしい。


「はい、ジャジャ自身が噛んだら痛いって分かれば治るって言ってました。方法は調べてきてくれるそうですけど……」


 まあ、ユリーさんだってなんでも知ってる訳じゃない。

 頼り過ぎもいけないし、俺達の方でも色々調べてはいるんだが、ネットや本の情報は大体長期的な処置だ。

 根気強く対応するしか無いかな。


「あむ」


「いだだだだだだただっ!うっわナニコレっ!骨まで行ってんじゃねっ!」


 ちくしょう油断していた!


 隙を突いたジャジャが俺の肩に思いっきり噛み付いている。


 毎回毎回痛みの種類が違うんだコレ!

 今回はかなり深くまで行ってる気がする!


「あわわっ、パパ痛いって言ってるよジャジャ!離しなさい!」


「あむあむっ」


「あぅ」


 アオイが懸命に止めるが、ジャジャの歯は俺の肩に食い込み続ける。

 ナナのちょっと引いた声が、なんとなく心配してくれている気がした。


「あむあむっ!」


「ぐわぁああああっ!」


「も、もう駄目っ!あはははははっ!」


「ざまぁみろ」


 俺の悲鳴を聞いて、翔平がついに堪えきれずに笑い出した。

 親父は悪い顔でほくそ笑んでいる。


 夜の我が家のダイニングは、今日も騒がしい。




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