バード・ラヴァーズ①
「ジャジャもナナも見て見て!お馬さん!」
「あぅ?」
「だぁー!」
テンションアゲアゲなアオイは、ベビーカーの中で座っている双子達の顔を覗く。
変なテンションのママに双子達は思い思いの対応を返した。
ジャジャは楽しそうに同調し、ナナは不思議そうに首を傾げる。
いつもどうりの反応だった。
「こうちゃんは馬苦手なの?」
「ふしゃーーーーーーっ!!」
翔平の背中に隠れて眼前の馬を威嚇するのは、佐伯家の長男である浩二だ。
短毛三毛猫族の特徴であるまだら模様の短い髪を逆立てて、囲いの向こうの馬に敵意を向けている。
「こーじ!あんた男なんだから友達を盾にするんじゃない!」
「ふかーーーーーーーっ!!」
「おうなんだやんのか愚弟!!」
姉の佐伯いちか、別名子悪魔猫いちかちゃんが浩二のシャツの襟を掴んで翔平から引き剥がし、じゃれあいに似た喧嘩を始めた。
翔平はその光景を横目で見つつ、顔を出してきた馬を優しく撫でている。
「いちかちゃんも浩二くんもやめなよ。馬が怯えて暴れだしたらどうするの?」
三隈が佐伯姉弟の間に割って入り、無理やり引き離す。
「ええい止めるな夕乃!こいつうちの一族でも珍しい男の子だからって、いっつも甘やかされてるから調子に乗ってんだ!姉として教育する義務があるの!」
「しゃあーーーーーーーっ!」
「なんだこんのやろう!!姉より優れた弟などいない事を教えてやる!」
兄より優れた弟がいる身としては止めざるを得ない。
「喧嘩すんなよ。馬に笑われてんぞ」
俺が指差した馬が、歯茎を見せ付けて笑っている。笑っているかどうかはわからんが、そう見えるのは確かだ。
「兄ちゃん、それ発情期によくするんだって。前にテレビで見た」
ただサカってるだけかお前。
「フレーメン現象だね。匂いを多く取り入れようとするとそうなるの。馬は発情期に雌馬のフェロモンを嗅ぎ分けるんだよ」
「へぇ」
三隈の説明に翔平が頷く。
俺たちはとある牧場に来ている。
俺たちの家から遠いこの場所は牧場だ。
ここは世界衝突で新規に盛り上がった高原にあり、多くの馬や羊、鶏が放牧されている。
更には本来この世界にいなかった陸生の巨大スズメ、通称『チュンチュ』が多く飼育されている。
『チュンチュ』は、茶色くてでっぷり丸っこく、人懐っこい。
もともと『あちらの世界』では労働力として古くから親しまれていたが、世界衝突が起こったことにより車にその立場を譲り、今では殆どが愛玩動物として親しまれている。
体は人間より大きく、雛ですら幼稚園児と同じ位だ。
飛べない癖に無駄に立派な羽を持っていて、力持ち。
愛嬌もたっぷりでしかも草食。
その可愛さに熱狂的なブリーダーが世界的に増え始めている。
もちろん俺たちの目的もチュンチュだ。
町にたまに歩いている交配種のチュンチュは、小型犬と同じサイズ。
電車で四十分、バスで三十分の日帰りで来れるこの牧場には、原生種である大型のチュンチュがいる。
見たい!
何を隠そうこの風待 薫平、大きい動物が大好きだ!!
もちろん俺のそんな独断で決めた場所では無い。
家の近所で大騒ぎをすると、龍だとバレた時に特定されやすい。
なので近場で有名すぎない観光地、それも広くてあまり他人の目に触れない場所を検索していたら、この牧場に行き着いた。
駅から遠い上に坂道が多く、生き物以外にさして見るものが無い所為なのか、俺たち以外には家族連れが三組と大学生っぽい集まりが一組しかいない。
ここならジャジャもナナも落ち着いて羽を伸ばせるだろう。
アオイにとっては久々の遠距離旅行だ。家を出た直後からテンションが上がる方向に振り切れ、目を輝かせて楽しんでいる。
「お弁当、どこで食べようか」
「もう少し奥だな。放牧地だとさすがに不味いだろ」
馬を撫でたまま、翔平が辺りを見渡した。
俺はそれに返事を返してバッグを背負いなおす。
人数分の弁当を担いでここまで登ってきたから肩が痛い。
「そうだね。昼食スペースが売店の近くにあるらしいよ?」
三隈が俺の横で地図を広げる。
ここは放牧地ゾーン。
主に馬や羊がのんきに遊びまわる場所だ。
ちなみにチュンチュは水辺を好み、放っておいたら一日中水浴びをして過ごす生き物らしい。
チュンチュのいる湖は放牧地ゾーンからかなり先にある。楽しみだ。
「薫平さん!ジャジャが大喜びですよ!ナナは少し怖がっています!」
ベビーカーを押しているアオイが、道の先から手を振っている。
暖かくなってきたから、お気に入りらしい白いワンピースに、薄いピンクのカーディガンを羽織り、お洒落なつばの広い帽子を被っている。
「アオイちゃん、大喜びだね」
隣に立つ三隈は大き目のセーターに、動きやすそうなパンツスタイル。暖色で彩られていて、三隈の見た目と相まっておとなしい印象を与えている。
「そりゃあ、二月も家の中で篭りっきりだったんだ。楽しいだろうな」
すまん。これも俺の甲斐性が無い所為か。
学校で同級生が話す家族旅行にピンと来なかったら、アオイは春の間引きこもってしまうところだった。
同級生が話すといっても、自分の席から遠く離れた女子の話題が耳に入っただけだ。
今のところ順調にクラスからハブられている。
いや、一人だけやたら話しかけてきて対応に困る男が一人いるが、まともに相手をすると俺が損をするので必死に無視している。
その所為でクラスの女子から睨まれているのだが、もうどうしていいかわかんないよ……。
「くんぺいさーん?」
「薫平くん?」
学校生活を嘆いていたら、いつの間にか近寄っていたアオイと三隈に顔を覗かれていた。
「いや、なんでもない。さて、さっさと食べる所探して飯にしようぜ?おい、いつまでやってんだよ佐伯姉弟」
佐伯とその弟の浩二はいまだにじゃれあっていた。
浩二は若干涙目である。
「こーのっ!お姉さまの力を思い知ったか泣き虫め!」
「にゃあっ!にゃあ!」
必死に翔平へと手を伸ばし、助けを求める浩二。
「こうちゃん、強くなるんだ」
「にゃあっ!みー!みー!」
そんな浩二になんとも無い顔で手を振る翔平。
悲しみのあまりか、浩二は本気で泣き出した。
いつまで経っても変わらないな、あの関係は。





