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がおっと吠える②

 

「三隈!正面にダークミート三匹!もうこっち気づいてるくさい!」


『ごめんなさい! 迂回路が無いの!突破するしかない!』


「了解!親父、大丈夫か!?」


「なんとか、なっ!」


 走る走る。


 二階の転移トラップで六階に辿り着き、ロックウルフとかいう身体が石で作られた狼の襲撃を受けてからもう五時間ぐらい経過している。


 あれから俺たちは小休憩を挟みながら、なんとか最上階目前である七二階に辿り着いた。

 このダンジョンは、階を登る事にフロアが広くなる。

 外観が逆三角形だから、当然と言えば当然だ。


 このダンジョンで遭遇したモンスターは全六種のうち、今の所五匹。

 真っ黒な肉袋のダークミート。石の身体を待つロックウルフ。

 大きなハンマーを担いだ巨大な二足歩行の雄牛、バスターカウ。

 パーツ毎に蟻が擬態している、彷徨う鎧風のメイルアント。

 とある希少鉱石の出す光を真似て、トレジャーハンターを騙すトリックメタル。


 まあ、バスターカウとロックウルフにはかなりビビらせて貰ったし、その素早さや腕力の強さに苦戦しているが、それ以外はどうって事が無い。

 問題は階を進むにつれ、群れ始める事だ。


 二階では一匹しか居なかったダークミートも、四十階を超えると三匹ワンセットがデフォルトになった。

 おぞましい肉の塊が三つ、波打ちながら飛び跳ねる姿はまさしく悪夢だ。

 バスターカウなんて最大で四匹まで出てくる始末。

 手と一体化したハンマーが振られると、壁に大穴が開く光景は俺と親父の背筋を容易く凍りつかせた。


 そんな化け物達相手になんで俺達が未だ無事かと言うと、第一は三隈の適切なナビゲートのお陰である。

 ルートがモンスターで塞がれれば、瞬時に迂回路を導き出す。

 俺達が疲労し始めると、近辺で身体を休める事のできる場所を探し当てる。

 逃げられなければ、俺達に覚悟を促す。


 俺は人間や獣人相手なら喧嘩慣れしているつもりだ。

 だからと言って、流石にモンスター相手に正面から挑む程馬鹿じゃないが、今回は別だ。

 あらかじめ戦わなければならないと知っているなら、心構えが違うってなもんだ。


 しかも、アルバのネズ公に借りた龍牙りゅうげの剣。

 こいつが本当に凄い。

 大して力を入れてないのに、飛び込んできたロックウルフが勝手に真っ二つになる斬れ味。

 もう心強いなんてもんじゃ無い。体の中心に剣を当てさえできれば、絶対に勝てるのだ。

 そりゃもう、慢心したともさ。

 一度背後の確認を怠って親父に殴られた。反省している。


 そして更に助かっているのが親父の存在。

 俺は、殴り合いで親父に勝てる気が微塵も無い。

 その余裕ぶった態度もあるが、これまでの人生で幾度も殴られて得た感想からもそう結論つけている。

 この中年、かなり強い。

 同世代、若い世代を含めても、このおっさんに勝てる奴は居ないんじゃ無いだろうか。

 いや、もちろんそんな事はあり得ないのも判るのだ。

 流石の親父でもプロの格闘家や、アホほど鍛えている奴には勝てまい。

 だが俺には、同じ人間や獣人に親父が殴り合いで負ける想像ができない。


 俺が正面でモンスターと対峙したら、親父はすかさず周囲の警戒と牽制に回る。

 持ってた金属バットは既にボロボロで、今持っているのは三本目だ。

 俺が龍牙の剣でトドメを刺す役目で、親父がその全体的なフォローに回ってくれている。


 それは、今も。


「薫平!右に飛べ!」


「おうっ!」


 親父の警告に逆らう気は毛頭ない。

 すかさず右に飛ぶと、一匹のダークミートが跳ね飛んで来て壁にぶつかった。

 真っ平らに潰れるダークミートを一瞥いちべつしながら、残りの二匹を睨む。


 倒し方はもう分かってるんだ。

 ダークミートは分裂する。

 切り口から映像を倍速で回すように次々増える。

 だけどその間、中心になるモノが露出する。

 小さな小さな石ころだ。

 何がわかりやすいって、その周辺からしか肉が盛り上がって来ない。

 どうやらこの石ころは、切り口一辺につき一個必ず生成されるようで、それがダークミートの分裂方法だった。


 止めるのは簡単だ。

 石ころを踏み潰すだけ。

 一回真っ二つにしたダークミートを良く観察し、二つの石ころをできるだけ素早く踏む。


 攻撃方法が突撃しかないので、ぶっちゃけると余裕だった。

 ダークミートなら、作業感覚で倒せる。


 定石となった撃退方法を繰り返し、俺と親父はあっという間にダークミートの群れを片付けた。


「ふう、水をくれよ」


「なんとか保ったな。あとペットボトル二本しか無え」


 最初に持ち込んだのが四本。

 少ないようだけど、三隈の調べた情報どおりに給水ポイントとなる泉があったから問題なかった。


「しっかし、慣れるもんなんだな。この視界の暗さ」


『次の階は最上階で、日光を取り込む穴があるらしいので、もう暗くないですよ』


 親父の疑問に、三隈が答える。


『兄ちゃん、父さん。怪我は無い?』


 心配そうな翔平の声が、イヤホンから聞こえる。


「おう、かすり傷は流石に多いがな。大きな傷は二人とも負って無いぞ。大丈夫だ」


『良かったぁ、でもまだ気をつけてね』


 安堵のため息が聞こえる。親父を見ると、何故かニヤニヤしている。


「まあ、父ちゃんがいないと薫平だけじゃ大怪我だな」


「言わなくても分かってるよ。ありがと」


 こいつ、この機に乗じて俺をいじるネタを仕入れてやがるのか。


『それじゃあ薫平くん。お義父とう様。この先の通路を進むと最上階への階段がありますから、その前におさらいを』


 三隈の声に、俺と親父は気を引き締める。


『最上階は、たった一本しか正解のルートが無いの。そのルートを選べば、元々このダンジョンの基礎となった巨大な魔石のある広間ね。そこにダンジョンボスである怪鳥ルテンって言う、岩のグリフォンが居る筈。魔石自体はもう根こそぎ採取されてるから、あと二十年は復活しないって言われてるし、今回は用事も無いからそこまで行く事も無い。探すべきはその上、『牙岩』の頂上に続くルート。鉱石採取ポイントでも無く、目立たない場所で、なおかつ頂上に続いてそうな傾斜を持つ場所は一つ』


 スマホに保存していた、最上階の写真を俺と親父は眺めて居る。


『階段の裏手、雨水が流れる川沿いの先。巨大な岩石で道を塞がれたその裏だと、私は踏んでる』


 マップには、行き止まりと書かれていた。

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