ご近所ダンジョンを踏破しよう!⑤
「それじゃあ準備はいい?薫平くん。お義父様」
ちょっと待って三隈さん。
なんか今不穏なモノを感じたんだけど。
「ん?どうしたの薫平くん」
そんな、さも当然見たいな顔をされてもさぁ。
「わかるぞ風待。あの子はいつだって真っ直ぐに歪んでるんだ」
どう言う言葉遊びなわけ、それ。
佐伯が諦めろと言わんばかりの楽しそうな表情で俺の肩を叩く。
「ああ、ありがとう夕乃ちゃん。おらネズミ、渡したい物があるとか言ってただろうが」
「君達家族は日に日に僕の扱いが雑になってくるね。気にしないけど。ほら、僕の宝物を貸してあげるよ」
親父が右肩に乗せているアルバ・ジェルマンを顎で促した。
ネズミが杖を一振りすると、眩い閃光が突如発生する。
目が眩んで顔を逸らす俺と親父と三隈と佐伯。
やがて光がおさまり、俺たちは視線を戻した。
「……何だこれ。象牙?」
親父の側面に、細長い真っ白くて鋭い物体が浮かんでいる。
「龍の牙、龍牙だね。力のある龍が死ぬ時僕に授けてくれた物さ。長い年月をかけて剣に加工してあるから、剣先には触れないでくれよ。洒落にならない切れ味だから」
それ、銃刀法とか大丈夫なんですか?
「このダンジョンから戻ったらすぐに返して欲しいな。大事な物なんだから」
まあ、あった方がいいなら借りておこう。
俺たちが用意した金属バットより武器としては優秀だろうし。
時刻は明け方。
場所は『牙岩』ダンジョンの真下。
昨日お泊まりした三隈と佐伯を連れ、俺たちはダンジョンを登る為にやってきた。
中に入るのは俺と親父。
三隈と佐伯は俺たちが入ると、家に戻る手筈だ。
翔平はお留守番。
昨日大急ぎで買い込んできた、野球のレガースやアイスホッケー用のフェイスメット、マグライトと額当て型のライトに命綱とハーネス、カラビナやペグ、十徳ナイフにLEDランタン、湿布や包帯、消毒液にスマホの外部バッテリーが山ほど。
翔平作のお弁当や、大容量の水筒は勿論持ってきた。
他にも持っていきたい物はあったが、重さで身動き取れなくなったら本末転倒だ。
厳選した物しか持ってきてない。
俺と親父の背中のザックにそれぞれ分けている。
「あとはコレかな」
「ん?これは……卵の殻?」
アルバが手で差し出して来たのは、どこか見覚えのある白いカケラが二枚。
多分だけど、ジャジャとナナの卵の殻……だと思う。
「そう、龍の卵の殻さ。聞いたことないかい? 龍の卵は無双の力と、不老長寿をもたらすって」
ああ、なんかそんな事を誰かが。
「半分本当で半分間違いなんだけどね。別に食べても不老長寿にはならないよ。無双の力というか、仮に人間が食べたら人間を辞められる程度かな」
え、人間辞めちゃうの?
それはまだ、覚悟してない案件なんだけど。
「ほんの短時間だけだよ。しかもバッチリ副作用も出る。食べた翌日からは動かなくなり、終いには体の内側からボンって感じさ。龍の力を人や他の生物の器で取り込んでしまったら、当たり前だけど耐えられないから」
「それは対価に見合ってるのかなぁ」
三隈が俺の隣で怪訝そうな表情を隠さずに言った。
そもそも、食べて死ぬなら意味は無いだろうが。
「大丈夫さ。これは卵の中身でも無ければ、産まれたてでもない。もうこの殻はジャジャ達が産まれた事で出涸らしも良いところだからね。いつもより体が軽くなる程度しか変わらないし、副作用ももっと軽い。二、三日寝込むぐらいだと僕は見てるよ」
それの何処が大丈夫なのか、時間さえあればじっくりと問いたい。
「本当にどうしようもない時、死にたく無かったら使えばいいさ。即効性があるから驚かないでね」
「……まあ、一応持っておくわ。他には?」
アルバから卵の殻を受け取る。
ジャジャ達が産まれてから、俺の机の下の段にまとめて保管していた筈なんだけどなぁ。
鍵付きで。
「もう無いよ。甘えないで欲しいな」
「お前さ、いちいち余計な事言わないと死んじゃう病気なの?」
それだったら許してやるよ。
「あはは、ただの性分だよ。お陰様で僕の事好きなヤツは今まで現れた事が無いね。いや、一匹だけ。遥か昔に居たよ」
そうかい、奇特なヤツもいたもんだ。
「よし、親父。俺はいつでも行けるぞ」
「有給まで取ったんだ。絶対にアオイちゃんとチビ達を連れ戻すぞ」
分かってる。
その為には、まずはこのダンジョンを踏破しよう。
「私達は戻るね。予定通り、最初の階段が見えたら電話して。一階は一本道だから、迷わないと思うけど」
「それで迷ったら迷王の称号を与えよう」
迷わないって!
心配そうな顔の三隈と、対照的に楽しそうな顔の佐伯。
一応、命の危険があるかもしれないんだけど。
「んじゃ行ってくる。気をつけて戻れよ」
「うん。お家まで十分ぐらいだもの。私達は大丈夫だよ」
「あんたの方こそ気をつけなよ。翔平泣かすなよ」
分かってる。
兄貴として、これ以上弟に無様なところ見せられないからな。
「親父」
「ああ」
アルバが解錠した扉を開け、チェーンを潜り俺たちはダンジョンの中に足を踏み入れた。
『牙岩』ダンジョン。
我が家のご近所にある、危険地帯へと。





