ご近所ダンジョンを踏破しよう!④
「あのダンジョン、ほとんど利用されて無いらしいの」
翌日の朝である。
三隈は俺からの電話を終えると、ダンジョンの事やトレジャーハンター協会の事を調べ、佐伯と一緒に尋ねてきた。
行動が早くて本当に頭が上がらない。
「利用されて無い?」
「うん。難易度はC−。最初の踏破者が出たのが十六年前。それから四千人近くが最上階まで到達してて、ルートも固定化されてる。希少鉱石もほとんど取り尽くして回復待ちだし、トレジャーハンター協会もそこまで重要視してないみたい。普通のダンジョンだと、協会員を派遣して入り口で入場者をチェックさせるんだけど、今は無人だしね」
なら、入れるって事か。
「一応、一般人が迷い込まない様に魔法で施錠されてるから、それをどうにかしなきゃ……」
「それなら僕が開けとくよ。どうせ寄るしね」
本当に胡散臭いネズミだなぁ。なんで開けられるんですかねぇ?
俺の部屋のテーブルでPCを広げて座る三隈と、PCの隣でチーズを食べているアルバ・ジェルマン。
最初にアルバを見た三隈は、伝説でしか知らなかった鼠族に驚いていた。
その伝説、あとで聞いとこう。
こいつの弱みに繋がるかもしれん。
「なら、問題ないね。単純に最上階まで行くなら半日かからないと思う。ただ、この間の事件で近々視察があるかもしれない。龍の存在が確認されちゃったからね。急いだ方がいいのは確かだよ」
「ああ、今日中とは言わなくても、明日には登りたい。たった半日で最上階に行けるのか?」
「うん。トレジャーハンターさん達と違って、採取とかしないからね。オーソドックスなショートカット転移タイプのダンジョンだから、ルートが固定化しててなおかつショートカットが出来るならそんなに難しくないみたい。ルートがわからない時は結構苦戦してたみたいだけど」
オーソドックスって言われてもだな。
他のダンジョンなんて見たこともないからわからない。
「日本にあるダンジョンは、確認済みで四六箇所。未確認っていうか、伝説や伝承であると言われているので八箇所。踏破されているのは二十五箇所。最高難易度が『富士グランメイズ』って言われてるダンジョンで、静岡にあるね。これはまだワンフロアも進めてないみたい」
その内いくつかは聞いたことあるな。
「『阿蘇火炎迷宮』と、『琵琶リバースタワー』、『地下都市京都』、『富良野永久雪原遺跡』と『トキオディープダンジョン』は知ってる」
「有名だもんね。まだ未攻略だし、需要も大きいし」
一時期ニュースにもなってたもんな。
「それで、『牙岩』って言われてるあのダンジョンは、ネットによると内部モンスターが六種類。確認済み希少鉱石が四種。霊草や薬効植物が多いタイプらしいの」
言われてもピンと来ないのは、俺が素人だからだろうか。
「それで、アオイ達の巣に繋がる道なんだけどさ」
「うん。最上階から繋がっていて、尚且つ見つけ辛い場所。それだけの情報があるなら、特定はできるよ。見つけ辛い所を探せばいいから」
さすが三隈さん!
俺のお粗末な頭脳とは訳が違うぜ!
「兄ちゃん、お茶持ってきたよ」
翔平が部屋をノックした。
俺が扉を開けると、大きなお盆にジュースが二つ。
なんか小さなお猪口が一つ。
このお猪口、親父の晩酌用だろ。
「ネズミさんもお茶で良かった?」
「ああ、ありがとう。なんでも飲むさ。ネズミだもの」
「お前、客気取りか」
翔平、茶なんぞいらん。
盛り塩持ってこい!マウンテンソルトだ!
「この紙の束は?」
テーブルにお盆を置いた翔平が、座椅子に座っている三隈の傍にあるバインダーを見た。
「あの『牙岩』ダンジョンのマップだよ。本当はいけない事なんだけど、ネットとかには探せばあるんだよね。リークされた情報が」
どんな業界にも、悪いヤツはいるって事か。
「掲示板の議論でも、かなり肯定的な見方がされていたマップだから本物だと思う。少し昔のスレッドなんだけどね。ちょっと探すのに時間かかっちゃった」
いや、お前凄いよ。
「いや無いよりは助かるから、ありがたい」
俺なんか多分半年かけても見つからない。
「ごめんよ兄ちゃん。お昼の買い物行ってくるね。いちか姉ちゃんが一緒に行くってうるさくてさ」
相変わらず、佐伯は翔平にモーションかけてるのか。
あのショタコンめ。
「ああ、気をつけてな」
「行ってらっしゃい。いちかちゃんにも気をつけて」
え?
三隈さん、貴方の親友そんなに翔平に本気なの?
「さてと、難易度が低くてもそこはダンジョン。危険は少なからずあるよ。準備はしっかりしないとね」
張り切る三隈が、トレジャーハンター協会のサイトを開いた。
「現役の高ランクハンターが、フル装備で乗ってる写真って少ないんだよね。協会のPR用の現場写真に写ってるのから、何が必要か考えてみようか」
ええ?
もう思考回路がプロファイラー並みじゃないですか。
この子、本当にできる子……っ!
「あ、あの三隈…」
「何?」
昨日はとっさに電話をかけてしまったもんだから、考えもしなかった。
冷静になれば、気づいてしまった。
「アオイの事、なのに、お前を頼ってしまって本当に申し訳ない……」
そうだ。
三隈は俺の事を好きだと言った。
いわば、恋敵の手助けをする為に、俺に協力してくれている。
それがどんなに悲惨な事か、多分当事者である三隈にしかわからない。
「薫平くんは、時々びっくりするぐらいデリカシーが無いよね」
三隈が真顔で返す。
「うっ、め、面目無い」
反論もできん。
何せ、母さん以外の女子なんて、近所のおばちゃんぐらいしか接した事がない。
乙女心に疎い俺は、あまりにも勉強不足すぎる。
「アオイちゃんの為って言うよりかは、薫平くんに初めて頼られたって事の方が大きいかな。今まで助けられてばかりだもの」
PCに目を戻し、三隈は言った。
「でもアオイちゃんを不憫には思うよ。恋愛すらままならないなんて、女の子としてはあまりにも酷すぎる。それにね」
俺は三隈の感情が読めず、覗き込むように顔を伺い、見てしまった。
その目から、大粒の涙が溢れるのを。
「自分でも、勝ち目の無い恋だなってわかってるんだぁ……。なのに、貴方に頼られた事が嬉しくてしょうがないの。馬鹿だよね、私」
「三隈……」
しばらく俺は、三隈にかける言葉を探して固まってしまった。





