故に始まる乙女大戦⑤
無い知能をフル稼動させ、どうにか言い訳が出せないものかと考える。
「風待君?」
「お?オーバーヒートかな?」
不思議がる三隈と、面白がる佐伯。
実はワイヤーアクションで……いや吹き抜けだったし。
CGを多用した特撮加工……現実だから!
世紀のマジシャン、Mr.薫平がハンドパワーで……それで行こう!
「実は俺、最近マジックにハマって」
「馬鹿じゃないの」
佐伯にカットインされた。
「あ、馬鹿だった」
「うるさいよ」
俺だってそんなたわ言が通用するとは思ってないわ!
「兄ちゃん、僕アウトだと思うよ。主に兄ちゃんがボロを出しすぎたせいで」
弟よ、親父がいつも言ってるだろう?
「成せば成る、成さねばならぬ」
「ふざけてないでさ」
はい。
「私みたいな知識の浅い人間でもたどり着けちゃうんだもの。専門家が調べたら、多分すぐにわかっちゃうと思うよ」
「専門家?」
「龍の伝承とか、生態を研究してる人。存在は確認されてるから、余計に調べたがる人多いから」
三隈は分厚い眼鏡を直して、スマホをしまう。
「わからないのは」
アオイの顔を見る。
アオイは器用に使っていたお箸をトレーの上に置いて、唸り声を出しながら三隈を睨み返した。
「ぐるるるるるる……」
「なんでお前、そんなに三隈を敵視してんの?」
佐伯に対しては、特別なリアクションは取らないのに。
「薫平さんをっ! 取られたくないからですっ!」
何言ってんだコイツ。
三隈が俺の何を欲しがるんだよ。
「分かってないっ! 薫平さんは分かってません! やっぱり、テレビや雑誌で見た通りです! 胸の大きな人は男の人を誑かすんです!」
どんな番組がそんな事言ってたの?
「おい、それじゃ俺が三隈の胸に誘惑されているように聞こえるだろ。確かに、小学校の時に比べたらかなり立派に育ったけど、別に俺は」
「風待君は馬鹿じゃないの!?」
三隈は両手で胸を隠して身を引いた。
いや。だから、そんなリアクション取られたら俺がソレにイタズラしたみたいになるだろうが。
「いや、風待は馬鹿だよ夕乃」
佐伯、なんでお前は俺の事をそんな嬉しそうに罵れるのか。
一度話し合わなければならない。
この小悪魔猫はタチが悪いんだよ。
「そっ、それよりっ!」
三隈が珍しく声を張り上げて場を正した。
「ふぇ、ふああああああああっーー!」
「あ、ナナ起きちゃった」
翔平がぐずるナナを抱き上げる。
「はい兄ちゃん」
「えっ? あ、はい。ほーらナナー? 起きちまったか?ごめんなー?」
翔平は流れるように俺にナナを受け渡す。
「ご、ごごご、ごめんなさいっ」
大声でナナを起こした事を、詫びる三隈。
「ほらナナおいでー。おっぱいさんがうるさいですねー」
「いや、お前もうるさかった」
アオイが俺からナナを奪い取り、頬を重ねてなだめる。
だからどうして敵意を隠さないんだお前は。
「あのっ、つまり、不思議なのは風待君がパパって呼ばれてるところなのっ。伝承では竜種が人と子供を作った事なんて書かれた事がないしっ、卵生だからっ」
「そんなの、薫平さんがジャジャとナナを愛しているから以外理由が無いですっ!」
三隈が自らの疑問で議論を締めた。
アオイがそれを意味不明な自論で答える。
答えになってない自覚は無さそうだな。
「意味がわからない……風待君達が隠そうとする理由はなんとなくわかるの。龍の存在は色んな事に影響を与えるから」
そりゃ、学者でもなんでも無い三隈にバレる位だ。
この先、かなり気を使わないとどんどんアオイ達の存在が露呈していく事になる。
そう考えると、さっきの騒動もだいぶ拙い。
周囲にはスマホを構えていたヤツらが大勢いたから、俺もジャジャも顔と名前が知れ渡る可能性が高い。
「そうだとしても! 貴女には関係の無い事ですよぅ! これは私達『夫婦』と、『親子』の問題なんですからね!』
「こら、言い過ぎだ」
「あうっ」
熱くなりすぎたアオイの頭を弱めに叩く。
心配してくれてるのはわかってるだろうに。
どうも、アオイと三隈は相性が悪いようだ。
「『夫婦』……? 『親子』……?」
「あ、ヤバイ」
瞳から光を無くした三隈を見て、佐伯がポツリと零した。
「あ、あの三隈さん?」
「………な、なんで夫婦なんて簡単に言えちゃうのかな……? 私なんて中学で自覚してからずっと夜眠る時に想像して楽しむ事で我慢してるのに……どうしてこの子はこんな簡単に……それに親子って……ほんとなら私が……男の子と女の子の双子……行ってきますとお帰りなさいって……ネクタイつけさせてあげて……只今のキスとか……お夕飯は好物の……寝る前に腕枕とか……休みの日に公園……映画とか……ドライブ……なんでなんで」
「夕乃ー?駄目なのかー? こじらせすぎたのかー? 手遅れかー。そうかー」
ブツブツと聞こえない音量で何かを呟き続ける三隈。
怖い。
何か知らんがとてつもなく怖い。
佐伯が顔を引きつらせて、徐々に体を下げる。
「っ! そ、それは私がして貰うんですぅ! 絶対、ぜったいに!」
「あ、風待。骨は拾ってやるから」
アオイには聞こえていたのか、激昂して声を張り上げた。
腕の中ですでに泣き止んでいるナナは、いつもどおりキョトンとした顔でアオイを見上げている。
そして何故か不吉な事を言う佐伯。
「っずるいよ! 突然出てきて全部持っていくなんて! 私は四年も頑張ってたのにっ!子供なんてダシにして風待君を引き止めようなんて、汚いよっ!」
三隈は突然立ち上がり、涙目で捲し立てた。
「おい、三隈っ!?」
「なっ、何が汚いんですかっ! こんなに可愛いのにっ! 薫平さんは約束してくれましたっ! パパとして頑張るって!それにジャジャとナナは薫平さんをパパだってちゃんとわかってるんです! ジャジャなんてパパが大好きだから、足音だけで大喜びするんですよっ! 子供達から薫平さんを奪う気ですか!」
アオイも椅子から腰を浮かせて、テーブルを挟んで三隈に反論をする。
「アオイっ!?」
「それが汚いのよ! 貴女が風待君をどう思ってるかは全然言ってくれないじゃない!」
更に前傾姿勢になり、声量をあげる三隈。
「おち、落ち着けって!なあ!」
俺も声をあげて、三隈を制する。
「わたっ、私は! ええ大好きですよっ! 一目惚れしましたっ!それが何か!? たった一度、半年前に顔を見た時からずっと好きですけどっ!貴女こそ、薫平さんをどう思ってるか口に出さないじゃないですか!」
「なんか大変な事言ってる気がするんだけど!? 取り敢えず座ろう! な? 三隈もアオイも座ってお茶を飲もう!?」
今こいつ、勢いでとんでもない事口走ったよな!?
「私なんてっ! 私なんて!」
何だろう! 今三隈に口を開かせたらいけない気がする!
「……あー、あー!」
「あ、ジャジャも起きちゃった」
「うるさいもんねー」
我関せずと、翔平はジャジャを抱き上げる。
しれっと避難していた佐伯が、その隣でジャジャの頬を突く。
いや、助けろよ!
「ずっと!風待君が好きだったんだからっ!!」
二発目の爆弾は、三隈が投下した。





