故に始まる乙女大戦②
「え?」
「つ、妻?」
三隈と佐伯が固まった。
三隈はその表情から色を落とし、佐伯は片方の口が引きつっている。
「あ、いや、その。な、なーに言ってんだこのー。し、親戚だよな、親戚!」
思わず身を乗り出してアオイを隠した。
馬鹿じゃないのコイツ!
アオイは確かに約250歳だが、見る分には中学生と思われても仕方がない容姿をしている。
そんな女の子を妻と呼ばせる事が何を意味するかなんて、分かりきっている。
鬼畜変態異常性癖、しかも子供が二人である。
中学生を孕ませた極悪人として、明日から後ろ指を指されて生きていかなきゃならない。
「いえ、妻です! いつも主人がお世話になってます!」
アオイは鼻息を荒くして食い下がる。
「おい!」
振り向いてアオイの顔を見る。
口元を引き締め、眉は釣り上がり、瞳の色は真剣そのもの。
その迫力に、思わず後ずさってしまった。
「か、風待。あんたこんな小さな子に、て、て、手を出したの?」
氷結魔法から一番最初に生還したのは、佐伯だった。
「ち、違う! お、おれ、俺は何もしてない!」
振り向いて、必死に首を振る。
佐伯の目は見た事があるぞ。
あれは、人間のクズを見る目だ。
「私に、こんな可愛い子供達を授けてくれました!」
「ちょっ、ちょっと待てアオイ! なんでそんなにムキになってんだお前は!」
両手で、ジャジャを見せつけるように差し出した。
ジャジャは呑気にも喜んで笑っている。
「だって、薫平さんはジャジャとナナのパパです! パパじゃなきゃ駄目なんです!」
「ぱ、パパ……」
「夕乃、おーい!夕乃!? やばい、戻ってこれてない!」
後ろでは佐伯が三隈の肩を激しい勢いで揺らしている。
「いや、確かに、間違ってはいないんだけどね!?」
「み、認めるの……?」
「夕乃!駄目だよ! そこは堕ちちゃ駄目な場所!暗黒面のささやきに答えちゃダメ!」
「私、間違った事言ってないもん! 薫平さんは、私達のパパだもん!」
混沌。
未だ多目的ホールに残っていた俺たちの周りには、大勢の子供連れがいて、さっきまでの騒動も相まってざわついている。
「ね!? 薫平さんは、私達を捨てないですよね!!」
「いや、そりゃ捨てるとかじゃないし! 責任は取るって」
必死そのものの形相に、またも気圧される。
双子の面倒を見る手伝いをすると約束したのは、つい昨日だし、俺が言った事だ。
違えるつもりは微塵もない。
「せ、責任……?」
「夕乃!その目の色はヤバイ! 光を取り戻すのよ夕乃!」
「だー!あー!」
ジャジャは遊んでくれてると勘違いしたのか、更に喜ぶ。
「あー?」
ナナは一人マイペースに、ベビーカーの中で一人遊びを始めた。
「ナナは静かだね」
翔平はさっきの失態を気にしてるのか、ナナから目を離さない。
「ど、どうなんですか!? 私達、捨てられちゃうんですか!?」
「ばっ、馬鹿野郎! そんな事する訳ないだろう!ちゃんとジャジャとナナは面倒見るし、お前も家族としてだな!」
「か、家族……?」
「夕乃! 愛を取り戻すんだ夕乃!」
何これ。
容易くテンパる俺の思考回路では、この事態を収める方法が思いつかない。
冷静だ! くればーだよくんぺい!
「とりあえずさ」
そんな中、誰よりも冷静な声が俺たちを呼んだ。
「ご飯、食べない?」
翔平は呆れたような目で、提案した。





