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お買い物狂想曲④

 

 モールのD棟は、主に女性客を対象とした店が多く並んでいた。

 様々なジャンルの洋服、コスメやアクセサリーらは基本として十数店舗。

 ネイルサロンもあるし、美容室、シャレオツなカフェにスイーツ店まで備えている。

 その一つにベビー用品専門店があった。


 俺の想像の中のそういう店は、明るい店内に、幼児向けのファンシーなPOPなどでデコレーションされたちょっと甘ったるい空気の店だ。

 しかし、予想というのはいつだって容易く現実を凌駕する。


 その店は、煌めいていた。

 高級ベビーブランドから、誰もが知るブランドの意外なベビー用品。

 大衆向けの信頼性の高い安めの商品から、一体これを身につけさせて何処に連れてくんだ?って思える変わった洋服まで揃える、暖色の光に包まれたオシャレイズム全開の店構え。

 何せマタニティグッズは勿論のこと、『妊婦さんだって輝きたい』と銘打たれた下着すら置かれている。


 おい、その布面積で下着を名乗って、恥ずかしくないの?


 断言しよう。俺一人なら絶対に入れない。

 むしろ、前を通る事すら恐ろしい。

 何かの間違いで迷い込もうものなら、全ての客から視線ビームを集中砲火だ。


 居心地の悪さに殺される!!


 このD棟全体が、男の存在を希薄にさせていた。

 言うなれば、女の結界。

 世の男性の羞恥心を煽り、感性を真っ向から拒絶している。


 勿論、周囲にはカップルや夫婦だと思われる客も大勢いる。

 てか、多すぎる。

 殆どの二人組が男女ペアで、時々子供を連れた家族も見受けられる。

 共通するのは一つだけ。

 男の客が、皆何かに耐えているような表情をしている事だ。


「これ、これ可愛い!絶対にジャジャとナナに似合いますよ!ほらほら薫平さん!見てください!」


 ハンカチかと錯覚する程小さな布を手に取り、大はしゃぎのアオイ。

 勿論、それはハンカチでは無く乳幼児向けのつなぎだ。POPにはボディオールと書いてある。


 可愛らしい兎のプリントと、うさ耳のフードが付いている。

 これ、兎族とかが買ったら意味わかんないよね。


「んー、うん。結構安いな。買っても良いんじゃないか」


「いや、他にも可愛いのが絶対にありますよ!これを妥協しちゃ駄目です」


 なんで聞かれた俺が肯定したのに、聞いたお前が否定するんだよ。


「つか、最初にベビーカー買わないか?帰りは荷物もあるんだから、ずっと抱っこしてる訳にもいかないだろ」


 この店を見つけてもう一時間。

 アオイのテンションはどんどん上がっていく。

 なのに買うと決めた商品は小物だけだ。おしゃぶりに涎掛け、ガーゼに哺乳瓶。煮沸消毒の機械は考え中だ。


 ナナとジャジャはすでにおねむ。

 ジャジャは俺の腕、ナナはアオイの腕でスヤスヤと寝息を立てている。

 これだけの雑踏の中で、良く寝れるなぁ。


「あ、そうですよね」


 我に帰ったアオイが、店内を見渡す。

 店の奥、会計レジの隣の広いスペースに、ベビーカーコーナーがあった。


「あそこですね」


 周りの商品にも興味が尽きないのか、アオイは視線を忙しなく動かしながら移動していく。


 翔平は店の外、ベンチに座り不機嫌そうにスマホを弄っている。

 どんどん機嫌悪くなるな。


「あら!双子ちゃんですか!?お可愛らしい!」


 小太りの優しそうな狐族の女性店員が近寄ってきた。


「え?あ、はい…」


 ビクッと体を強張らせて、アオイは一歩引いて俺の後ろに隠れる。

 そういや、あんまり他の種族と関わって来なかったって言ってたな。

 人見知りか。


「あらあら、おねむでちゅねー。ごめんなさいね大声を出してしまって、妹さん達ですか?」


 なんか、すごい絶妙な距離感を瞬時に作る叔母ちゃんだった。親戚だったか?


「あ、いや」


「娘です」


 一瞬、どう答えようか迷った俺と違いアオイはきっぱりと言い放った。


「あら、あらあらあらあらあらあらあらあら」


 ジャジャとナナ、アオイと見て、最後に俺の顔を凝視する。

 あ、この表情あれだ。

『ヤりやがったなこの男』って顔だ。


「お若い夫婦ですこと。うふふふふふ。最近は獣人と人間のハーフの子も増えて、喜ばしいですわ」


 ニンマリと口を吊り上げ、俺から視線を逸らす。


 反論したい。

 ヤる事ヤってないって、とても反論したい!


「あー、ベビーカーを探してるんです。すぐに使いたいなぁって」


 グッと堪えて、俺は狐の女性店員に問いかける。

 反論できないんだもの。ややこしい事が多すぎて。


「かしこまりました。こちらなんですけど、色々種類があるんですよ」


 連れられて、ベビーカーコーナーに訪れた。

 アオイは目を輝かせて歩き出し、腰を屈めて商品を物色しだした。


「あ、双子用なんてあるんですねぇ。可愛いなあ」


「お選びになってる間、お子さん達を寝かせても大丈夫ですよ」


 叔母ちゃんが手を向けた場所に、移動できるベビーベッドがあった。

 お言葉に甘えたいと思う。

 右手がそもそも使えないから、左腕が塞がると実は不便だったんだ。


「ありがとうございます」


「いえいえ、私は全てママの味方ですから。当然の事です。いや、若いのにしっかりしてらっしゃるわー」


 なんか、店員と親戚の叔母ちゃんを行ったり来たりしている。

 これで不快感が全くないから、さすがプロだよな。


 俺とアオイは交互にチビ達を寝かせた。ベッドに付いているハンドルを握るのは俺だ。


「それで、ベビーカーの用途とかお考えですか?双子ちゃんなら、電車とかでは不便になりますが、広い物の方が後々楽になりますよ」


「そうですよね」


 アオイが顎に手を当て、考え込む。


「例えばこれだと、雨避けがスッポリ覆いかぶさるタイプですわ」


「へー」


 興味深そうに、差し出された商品を覗き込む。


「これなんかは三本のバーと車輪を立体的に組み上げる事で、操作感を軽くしておりますし」


「はい」


「あそこの上のヤツは良く買われる人気筋でして、ダンジョン産の貴重金属で作られてるので、かなり丈夫で軽く、長持ちですわ」


「あ、は、はい」


「これは形状記憶合金と三点式構造を使うことで衝撃に大変強いタイプになりますよ」


「え、え?」


「一歳まで使える物と、五歳程度まで使える物もありますし、リクライニングシートかフラットシートかでも違いますわね。二人も乗せる物ですから頑丈なタイプがベストですわ。その分重量も多くなっちゃいますが、パパは力持ちそうですわね。是非とも手伝ってあげてくださいまし。ママだけだとちょっと不便ですけど、その分荷物も載せられるので、買い物にも使えますわ。あ、階段など良く利用される環境なら、補助機能付きもあるんですよ。折りたたみが若干難しくなりますが、持ち上げて登るより良いと思いますの。あ、岩永さん、ここのベビーカーさっき売れちゃいました?在庫があるか確認して貰ってもよろしい?ええ、お願いね。ああ、失礼しました。どうぞ実際に動かしてみて下さい。実際に良く使われるのはママかしら。ベビーカーって大体五年程で使わなくなりますけれども、良く選ばないと危険ですからね。坂道ストッパーはとても大事なんですよ?良く忘れてベビーカーごとお子さんを流してしまう事件が全国的にあるから、気をつけて下さいまし。簡単にストッパーがかかる機種や、ママの体格や身長にも合わせた方が良いですわ。これなんかどうですか?持ち手にブレーキが付いていて、いざという時に減速できますの。色違いも四種類ほどありますから、色見本お持ちしますね。当店は取り寄せも行なってますから、パンフレットも持ってきた方が良いですね。あら、戸崎さん。ちょうど良かった。カウンターからパンフレットとカラーファイル持ってきて頂戴。お客様がお待ちだから急いでね」


「く、薫平さぁん」


 助けを求められても、困る。








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