お買い物狂想曲③
「大きいな」
「凄いね」
「あ、あの、私、町を出るの久しぶりで、離れないで下さいね?」
「あぅー」
「うあー」
俺たち五人は、郊外にある大型ショッピングモールに来ている。
その大きさは半端ない。
専用駐車場も広く、立体駐車場まで備えていた。
殆どの客は車で訪れるからだろう。郊外にある理由は俺にはわからないが、これだけの敷地面積。人口密集地では土地を用意する事はできないって事は何となく分かった。
タクシーの運転手が凄い気前の良い虎族のおっちゃんで、赤ん坊を連れてるからってモールが何となく見えた場所でメーターを切り、しかも正面玄関まで乗せてくれた。
なんか、最近会う人全員優しいなぁ。前まで住んでた場所は実はスラム街だったんじゃないだろうか。
「うわぁ、大きいねえナナ。ママもこんな場所に来るの初めてだー。小さいうちに来れるなんてナナとジャジャは幸せ者だなぁ」
ナナを抱いたアオイが、二人とも顔を揃えて建物を見上げる。
ナナは相変わらずキョトンとした顔で建物とアオイを見比べている。
ジャジャはと言うと、俺の腕に抱かれている。
タクシーの中から大喜びで、ずっと機嫌よく笑っている。
「アオイ、余所見して迷子になるなよ」
「わ、分かってますよぅ。で、でも何があるかわからないんで側にいて下さいね?」
顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに笑った。
「二人とも、ジャジャ達疲れちゃうから早く行こうよ」
翔平が俺とアオイの袖を引っ張る。
アオイの格好はモコモコした白いセーターにパンツスタイル。
靴は歩き慣れているらしいスニーカーを履いていた。
お気に入りは可愛いピンクのハイヒールらしいが、『ヒールの高い靴だと転びそうで怖いんで、ジャジャとナナを抱く時はやめておきます』と言って玄関で真剣な表情で靴紐を結んでいた。
「サイトの館内マップにね?ベビー用品の専門店があったんだ。そこなら大抵の物は揃ってるんじゃない?」
スマホを操作しながら、翔平は店内を伺う。
それにしてもデカイ。
地下一階、地上五階建ての横に広い建物だ。
正面玄関の自動ドアの上に、ヤケにオシャレな文体で『中央棟 (セントラル)』と大きく書かれている。
「なあ、建物が何個かあるみたいなんだけど、目的の店はどっちだ?」
「えっとね。中央棟を含めて四棟あって……D棟の二階、かな。こっちが今いる所で……あっちだね」
真剣な表情でスマホを見て、顔を上げて指を指した。
つか、この規模の建物が四棟もあるのかよ。
「な、なんか凄すぎてわけわかんないです」
そう言いながらも、アオイの顔はニヤついている。
こいつ、実は楽しみにしてたな?
翔平を先頭にして、俺たちは歩き出す。
目的のD棟は洒落た木製の通路を抜けて、色取り取りの花のアーチをくぐった先にあった。
「あぅ、あー!」
「何だ。ジャジャは花が好きか」
両手を伸ばしてアーチを掴もうとしている。
だが残念。お前の伸ばした手の先は俺ですら届かない場所だ。
「はあぅう、可愛いぃ……」
うっとりとした目で、アオイはジャジャを見ている。
「ほら、ナナもナナも。お花さんだよー」
「あー」
アオイの呼びかけに応えるも、ナナは我関せずとアオイの首元を甘噛み始めた。
「うひゃあう!」
うお、びっくりした。
「おい、変な声出すなよ」
くすぐったかったのか、アオイは堪らず甘い声を上げた。
「な、ナナー?ママのおっぱいはそこじゃないよー?た、確かに大きくは無いからどこも一緒に見えるかもしれないけど……」
なんで落ち込んでるんだお前は。
「き、気にしてるんですぅ!」
「お前、自分で言ったんじゃないか」
そう言うのを自爆って言うんだ。
「…………ねえ」
翔平が冷たい目で見ている。
恐ろしく真顔で。
兄ちゃんそんな顔、初めて見たぞ。
正直怖い。
「仲が良いのは分かったから、あんまり恥ずかしい事しないでよ」
「ご、ごめんなさい」
そんな翔平に気圧されて、アオイは堪らず謝ってしまった。
「確かに変な事口走ってたけど、別に悪い事はしてないだろ?お前、なんか朝から変だぞ?」
「別に、僕は普通だよ」
俺から顔を背け、翔平は歩き出す。
これが、反抗期ってやつなのか……。
風待家の最も恐れていた事がついに!
「……変なのは、兄ちゃんだろ」
「ん?なんて?」
声が小さすぎて聞こえなかった。
「何でもない。そろそろ着くんじゃない?」
「あ、ああ」
やけに平坦な口調で話す。
翔平の言う通り、D棟はすぐ目の前に見えていた。





