お買い物狂想曲②
「おしめと、替えの服……は、どうだろうな。買ったもの着させるか?いや、買う前に汚れたら嫌だな。持ってくか。お前はどう思う?」
「兄ちゃんが変だと思う」
いや、俺の事について意見を求めてる訳じゃねえよ。
鞄の中身の話だぞ?
「何言ってんだ。兄ちゃんはいつも変だろうが」
自信があります。
アオイが荷物を取りに巣に戻ってる間に、出かける準備をしている。
普段使ってないリュックサックを引っ張り出して、必要な物を揃えている。
今は翔平の使わなくなった服を赤ん坊達用に持ってくかどうか、迷ってる最中だ。
んん。帰るときは荷物だらけになりそうだな。
持って行くものは最小限に抑えておくか。
お昼の授乳によりスヤスヤと寝ているジャジャとナナを起こさないように、滑らかかつ静かな移動を心がけている。
ダイニングの太陽の当たる場所に布団を敷いて、その上で気持ち良さそうに寝息をたてている姿は、お世辞抜きで可愛い。
アオイが帰ってくる頃には起きててくれたら有り難いんだがな。
「なんでそんなにテキパキと動けるのさ。自分の学校の準備すら手間取る人が」
「チビ達の荷物、今んとこ少ないからじゃないか?」
それを買いに行くんだろうが。
あ、おしゃぶりとかって、やっぱり必要になるよな。
これもメモっておこう。
「それ。その先を見越して用意してるメモとか、何処で習ってきたの?」
「なあ、ガチで心配そうな顔すんのやめてくれない?兄ちゃん今凄い傷ついてるから」
心外とはこの事か。
確かに病弱気味だが、それにしたってすこし青ざめた翔平の顔に、おふざけや演技臭さが全く無い。
「家族だからまだ平気だけどさ、知らない人が見たら計画犯罪でも企ててるんじゃないかって思われるよ」
お前、そんなに的確に兄ちゃんのコンプレックスにクリティカルダメージを与えるんじゃないよ。
「目つきの悪い高身長の不審人物が、ニヤニヤして鞄に何かを楽しそうに詰めている……事案だよね。通学路にいたらPTAが動くレベル」
「もうやめてください」
俺が一体何をしたって言うんですか!
冤罪ですよ!冤罪!
「……なんかもう完全にパパだよね。不思議」
「何言ってんだよ。まだ一日も経ってないってのに、そんなすぐに父親面なんかできないって」
俺はそこまで器用な男じゃない。
て言うか、ネズミにもバレる程の不器用さだ。
「まあ、ジャジャやナナにとっては良い事だから、文句は無いんだけどさ」
そう言って、翔平はキッチンに向かっていった。
あんな事を言ってる割には、表情は不服そうだ。
「なんだアイツ……」
わからん。
翔平の事なら顔を見て大抵察する事ができる。でも今のアイツの感情は全く読み取れなかった。
今日の夜にでも、じっくり話をしてみようか。
「ん。こんなもんかな」
リュックサックのファスナーを閉めて、玄関に運ぶ。
「只今戻りました。ジャジャ達、大丈夫でした?」
「お、早いな。おかえり」
玄関の扉がゆっくり開き、翼を折りたたんだアオイが入ってきた。
裏の森に突き刺さる大岩、ここいらじゃ牙岩と呼ばれる逆三角形の一枚岩の頂点に、アオイの巣はある。
見える場所にあるとは言え、歩いて行くと大体にして数十分ぐらいかかりそうな距離をこの短時間で往復できたのは、アオイが空を飛べるからだ。
見送る時にも大きく翼を広げ、気持ち良さそうに空を舞っていた。
龍の姿でしか飛べない訳じゃないようだ。
「ああ、まだ寝てる。なんだお前、本当に少ないな」
アオイの両手には二つの中型トランクケース。
俺の渡したリュックサックは、翼があるせいで背負えないのか前側に抱えていた。
「はい、元々荷物は少なかったし、大きな物はベッドとか衣装ケースなんかで持ち運びできない物ですから。邪魔にもなるし」
一個ずつ荷物を玄関に下ろすアオイ。
「部屋に上げといておくから、すこし休めよ。あんまり寝れてないんだから」
下ろされたリュックを手に取り、背負う。
トランクケースは右手が使えないから一個ずつ運ぼうか。
「い、いえ!私が持ちますから、って薫平さん!?待ってください!」
遠慮なんてするなって昨日言っただろうが。
どうやら巣から履いてきた、なんか簡単には着脱できそうに無い靴を脱ぎながら、アオイは慌てている。
その声を無視して階段を上がり、部屋の中に荷物を置くと、後ろから残ったトランクケースを持ちながらアオイが階段を登ってきた。
「も、もう。無視しないで下さいよぅ」
「無駄に気なんか使うからだ。図々しくなれって言っただろ?」
母親なんて、それぐらいが丁度良い。
ソースは俺の母さん。
親父なんていつもパシられてたからな。
「ほら、チビ達が起きるまでは休んでろ。出かける準備は終わってるから」
「……な、なんか納得いかないですけど、お言葉に甘えます……お洋服、変えますね」
そういや、ずっと俺の服着てたもんな。
フード付きの黒いパーカーとジーンズ。
ファッションセンスに自信が無いから、取り敢えず黒なら誤魔化せると、俺の服は大抵黒い。
「んしょ」
「ちょっ!お前っ!」
いきなり、服を脱ぎだすヤツがあるか!
俺は慌てて部屋を出る。
「だから、そういうのは気を使えとも言ったはずだ!!」
部屋の扉を閉めて、俺は叫ぶ。
「え、だってさっきは気を使うなって」
「TPOって知ってるかなぁ!!」
日本語って難しいなぁ!
「別に、もう殆ど見られてる訳ですし、他の人ならともかく薫平さんなら見られても」
「良い訳あるか!」
こいつの俺に対する信頼は一体何なんだよ。
思えば、最初からこんな感じだった気がする。
暴れだす心臓の音を左手で抑えながら、階段を降りる。
ダイニングに入ると、寝ているジャジャとナナの横に腰を落とし、タブレットPCを操作している翔平がいた。
「兄ちゃん、向かう先って決めた?」
あ、そう言えば。
「まだ調べてなかったな。タクシー使う予定だから、多少遠くても大丈夫なんだが」
この辺りの店を知らないから、家を出る前に目的地を決めておきたい。
「んじゃあさ」
翔平がタブレットPCの画面を俺に向ける。
「ここなんてどうかな。近い訳じゃ無いけど、去年できたショッピングモール。前住んでた所とすこし近い所だよ」
そこには一周年記念セールと題された、派手めなサイトが写っていた。





