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お買い物狂想曲①

 

「私、前から魔族って名乗ってますよ?」


 翔平の作った蕎麦を食べながら、何言ってんだコイツと言うような素ぶりでアオイは首を傾げる。


「あ、そう……」


 俺の涙は何だったんだ……。


「兄ちゃん、冷静に考えてみてよ。僕らがここに引っ越すずっと昔から、お姉ちゃんはこの町に住んでるんだよ?龍だって隠さないと大変な事になるんでしょ?」


 呆れた目で翔平は俺を見る。


「………そだね」


 俺はソファの上でジャジャとナナを遊ばせている。

 顔の前で手を閉じたり開いたり、たまに首をくすぐったり。

 俺の簡単な動作で、ジャジャはケラケラと笑っている。

 ナナと言えば、相変わらず俺の手を不思議そうな目で追いかけて、たまに頬を撫でられるとフニャリと笑う。


「お前らも、幸せそうで何よりだよ……」


 ああ、癒される。


「それに薫平さんは気づいてないみたいですけど、角と尻尾は無理ですが翼はしまえるんです」


「え?」


 ダイニングの椅子に腰掛けるアオイを見る。

 昨日まで背中にあった、大きな翼が、無い。


「に、兄ちゃん。もしかして本当に気づいて無かったの?同じ部屋で寝てたじゃん」


 あ、やめて。そんな可哀想な人を見る目で俺を見ないで翔平。

 一応、言い訳させてくれよ。


「色々あって、疲れてたからかなー?」


 そうなのかなー?

 そうだよね。

 同じベッドで寝てたのに、寝返りだってうってたし、そもそも昨日の授乳の時から背中をピッタリ合わせてたもんね!


「観察眼無さすぎでしょ……心配するレベルだよ兄ちゃん」


 母さん、弟に心配ばっかりかけてゴメン。


「……そ、それより!何時に家を出ようか!買い物行かなきゃな!」


 そうそう!その為に親父から経済と決闘デュエルする魔法マジックカード、その名もクレジットカードを預かってるんだ!

 使い方によってはトラップカードになるけどね!


「買い物、ですか?」


「うん。親父がさ。赤ん坊に必要な物揃えておけって。金なら心配すんな。うちの財政大臣こと翔平がキチンと考えてくれる」


「使いすぎは絶対許さないからね」


 家計簿をつけられる小学生ってどのくらいいるんだろうか。


「そ、そこまでして頂く訳には。母さんが残してくれたお金がまだ残ってますし、私が出しますよ」


 金持ってたのか。ああ、そう言えば。以前から必要最低限の買い物はしてたんだっけな。


「幾らぐらいあんの?」


 人の財布の中身を探るのはマナー違反だが、アオイに関してはもはや他人行儀にしてられる関係じゃないからな。

 把握していた方がいいだろう。


「ご、五万円ぐらい」


 却下。


「無理です。それでは多分足りません。ヘソクリに回しておいて下さい」


「あうぅ」


 幾ら何でも、全財産五万の人間に高い買い物はさせられない。

 アオイは恥ずかしそうに俯いた。


 これから何かと物入りになるのだ。蓄えは有るにこしたことはない。ここは素直に親父のすねかじらせて貰おう。うーん、デリシャス。


「俺も、何とかして稼がないとなぁ。バイトするか」


 自覚が足りないとはいえ、チビ達の事を引き受けたのは俺だ。

 何もやらない訳にはいかないだろう。


 そんな事を考えていたら、ナナに指を噛まれていた。

 両手で俺の手を掴み、口に含み、そしてこそばゆい甘噛みの後、怒涛の吸引。

 残念。それは私の人差し指だ。

 ジャジャもナナも、前歯に乳歯が生えている。上の列にやんわり鋭い生えかけの犬歯。

 色んなことが、人間の赤ん坊と違うんだなぁ。


「ジャジャとナナは、翼をしまえないのか?」


 ちょっと疑問に思った。


「慣れない内は、出してないと落ち着かないんですよね。私も少し大きくなるまではずっと出しっ放しでしたし」

 

「へー」


 アオイの翼は体より大きくて横に広かったが、チビ達の翼は正面からは見えないぐらい小さい。

 そういえばジャジャの黒くて真っ直ぐな角も、ナナの白くて上向きな角も、母親のアオイとは違い小さくて少し柔らかい。


 フニフニとジャジャの角を触ると、くすぐったそうに身をよじらせた。


 尻尾はどうだろう。太さは俺の腕と同じぐらいだが、これもアオイの尻尾と比べるとかなり違う。

 アオイの尻尾は地面に着きそうなぐらい長いが、チビ達のは本人達の短い足より更に短い。

 お尻の少し上、背骨の下らへんから生えているから、獣人用のおしめじゃなきゃ使えなかった。

 しかも尻尾穴のサイズは特大だ。

 昨日買った時に初めて知った事だが、おしめの種類って沢山あるのな。

 人間用のSからLLサイズはもちろん、獣人用のSからLLサイズ。

 さらには尻尾を出す穴の種類と細かいサイズ。

 人魚用の、もはやおしめかどうかも怪しい下半身スッポリタイプ。

 俺の知らない事だらけだ。

 薬局の赤ちゃんコーナーには、獣人の幼児向けにトイレ砂とか置いてあって驚いた。


「とりあえず、私は一度巣に戻って、荷物取ってきます。少ないですから三十分もあれば戻ってくるので、ジャジャとナナを見てて貰えますか?」


「わかった。そんな急がなくていいぞ。俺も飯食べて無いしな」


「早く戻って来たいんですよぅ。子供達と、なんか離れづらくて」


 うーん。

 これもアルバ・ジェルマンが言ってた、母性の強さって事なのかな?


「わかったよ。昨日の今日だ。気をつけて行ってこい」


「はい」


 二日目にして、親心つく。

 ママは流石だと思わないか?チビ達。



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