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地味目な彼女は後悔している

 

 ポカポカとした陽気に包まれ、私が住んでいるこの都市も、春の訪れに賑わっている。


 なのに、私の気分は二月からずっと沈んだままだ。


「映画、楽しくなかった?夕乃ゆうの


 いちかちゃんが私の前に顔を出した。


「え?ううん?楽しかったよ」


 それは本当の事だ。公開が発表されてから一年。ずっと楽しみにしていたハリウッド映画。

 ファンタジー色の強い映画で、アクション有り、ラブロマンス有りの超大作だった。

 特殊効果はさすがハリウッドだし、4次元体験版だったから迫力も十分だった。

 何よりノンフィクションと言うからビックリだ。

 やっぱり、『あちら』の世界には不思議が溢れている。


 本当なら、帰りにパンフレットを買って、どこかのお店で、いちかちゃんと何処が凄かったとか、どのシーンが感動した、とか盛り上がるのが映画ファンの正しい姿なのだけれど。

 どうにも、気分が盛り上がらない。


 映画のシーンはちゃんと見てたから覚えている。私は物覚えが良い方だ。ていうか、それしか取り柄が無い。

 典型的な文系で、数字に弱い。

 成績は国・英・社のみがズバ抜けて高く、他が弱い。

 特に数学は毎回苦労していて、方程式や解の求め方なんて聞いたら頭がグルグルしてくる。

 運動もダメ。体力も無い。

 人見知りで照れ性だから、あまり交友関係も広く無い。


「まだ立ち直ってないの?本当に一途なんだから」


 短毛三毛猫族のいちかちゃんは、ニヤニヤと口元を歪めて、耳を揺らす。

 猫族の耳は、人間の私達の耳と同じ所についている。

 とってもチャーミングな仕草で揺れるから、時々無意識に撫でてしまい、怒られる時がある。

 ショートカットがよく似合う、活発で明るい私の親友。


「もう新学期も始まって、私達二年生だよ?後輩ができて、夕乃なんかモテモテになるんだから、あんな乱暴者なんか忘れてさ。お洒落して可愛くなろうよ!」


 ちょっとムッと来た。


「ら、乱暴者じゃないよ。風待君は」


 好きな人の悪口は、あんまり好きじゃない。


「正義感が強くて、多くを語らないだけだもの。中学の時から、風待君は自分から誰かに喧嘩を売った事ないもん」

 

「問題はその正義感が振るわれる回数なんだよなぁ」


 呆れた顔で、いちかちゃんは溜息を吐いた。


「んで、中一から好きなのに、告白はおろか日常会話すらできなくて、しかも相手は突然隣の県に引っ越しときた。んー。あの男の察しの悪さも問題だけど、夕乃の度胸の無さが一番悪いね」


 うっ、図星を突かれた。

 だって、風待君。授業中以外は殆ど寝てたし、同じクラスには一回もなれなかったし、帰り道逆だったし、弟の翔平くんが待ってるからすぐ家に帰ったし……。


 自分の度胸の無さを言い訳する理由なら、たくさんあるんだ。

 でもどれも私側に問題がある。


「入学の時は同じ学校だ、って珍しく飛び跳ねて喜んでたし、高校では三度しか話した事無いくせに家族構成とか生活サイクルとか知っちゃうぐらいストーカー気質だし、転校って聞いた時は三日も学校休んで泣くぐらい好きだったくせに。変なところで躊躇ちゅうちょしちゃうんだもんなぁ」


 さすが付き合いの長い親友。伊達に小学校から一緒に生きて来た訳じゃない。

 遠慮なく私の心をえぐってくる。


「そ、それは」


 自分でも嫌っている部分だし、どうにかしたいと思ってた。

 全てが手遅れだったけど……。


「は、反省してる」


 心の底から。


「まあさ、夕乃はその分厚いメガネと、時代遅れの三つ編みさえ解いたら激カワなんだから、イケメン捕まえようぜ!そして私にイケメンを紹介しようぜ!」


「は、恥ずかしいし、可愛くないからヤダよ……」


 いちかちゃんも、可愛いのに理想が高すぎて、彼氏いないじゃん。

 でも、私と違って女の子も男の子も友達が多い。

 休日は大抵二人で遊んでいるから、私はいちかちゃんを独り占めしてるみたいで、少し嬉しい。


「いーや!駄目だね!駄目を出しちゃうね!今日は私の言う事を聞いて、大人しく可愛くされちゃいなさい!」


「ええっ!だって今からショッピングモールに行くって……」


「そう、夕乃改造計画の為にね!」


 き、聞いてない!

 いちかちゃんが暴走したら、大抵私は酷い目に遭わされる。

 去年の夏にプールに誘われた時も、私の水着を隠してビキニにすり替え、無理やりプールサイドに引っ張られた。

 危険だ。押しの強さに定評のあるこの小悪魔猫が本気になったら、私じゃ止められない。


「い、いちかちゃん!喉乾かない!?私奢っちゃう!」


「んなのペットボトルで充分じゃい!ほら、バス来たよ!」


 手を引っ張られて、バス停まで引きずられてしまう。


「可愛くなって、風待の事なんかどうでも良くなるぐらいのいい男を捕まえさせてやるぜ!そしてアタシにイケメンを紹介させてやる!」


「い、嫌ぁ!いちかちゃんストップ!落ち着いてぇ!」


 拝啓、風待 薫平様。

 お元気でしょうか。

 私こと、三隈みくま夕乃ゆうのは、長年の親友、佐伯さえきいちか・ニャーティの手によって、命の危機を迎えております。

 残り短い命ですが、貴方の変わらないご健勝とご多幸を、遠くの空で祈っています。


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