双子の龍は夜に泣く②
「おはよう……」
「おはよう、って兄ちゃん大丈夫?」
ダイニングに入り、翔平に挨拶をした。
「大丈夫じゃねえよ……今何時だ?」
テレビの上の壁掛け式の時計を見る。
もう十時か。
多分四時間も寝れてない。
「顔色悪いよ?お昼は昨日の残りでいいかな」
「おう、それでいい」
翔平はクッキーを食べながらソファでワイドショーを見ていた。
紅茶のカップに、お茶請けの籠。
こいつ本当に小学生か?
ウチの弟の主婦力が高すぎる問題。
「お姉ちゃんと赤ちゃん達は?」
「今メシあげてる。一時間ぐらい前から寝てくれなくなったからな」
あんだけ頻繁に起きてたのに、朝になると元気にワタワタと手足を動かし、二人だけで遊んでいた。
「大変なんだね。赤ん坊って。父さんからカード預かってるよ」
「カード?」
この歳で親父と決闘なんてする気無いぞ。
ルールも知らないし。
「クレジットカード。赤ちゃん達の必要な物買いに行けってさ。良いものなら高くても良いって」
「ああ、了解」
足りないもの一杯あるからな。
「あとでアオイが荷物取りに巣に戻るらしいから、戻って来たら出かけようか」
「その手で買い物大丈夫なの?」
翔平は右手を指差す。
包帯で巻かれた俺の右手は、医者が言うには全治一ヶ月。
今でもかなり痛いし、動かしづらい。
「腕で持つ分には大丈夫だろ。お前が付いて来てくれたら、兄ちゃん助かるんだけどな」
「まあ、元々暇だしね。良いよ」
「サンクス」
「ユアウェルカム」
本当に出来た弟だこと。
ソファに座り、お茶請けからクッキーを取って食べる。
チョコチップのクッキーは翔平の好みだ。
「ちょっと裏の森見て来て良いか」
「裏の森?」
翔平が首を傾げた。
様になるなあ。
「あのネズ公、探して話を聞きたいんだよ。暫くこの町に居るって言ってたのに、アイツ森に入って行っちゃったろ?巣穴ぐらい把握してないと、いざ困った事があったら大変だからな」
何せ、龍のお医者さんらしいからな。
本当かどうかは眉唾物だが。
「うーん。あの森、結構深いから気をつけてね。庭から見える所でも、凄い暗かったし」
「了解。顔洗ったら少し行ってくるわ。昼までには戻ると思う」
家の裏で迷うってのも嫌だしな。
「わかった」
ポリポリとクッキーを食べながら、翔平は頷く。
ソファから立ち上がり、ダイニングを出る。
洗面台に立ち、顔を洗って、鏡を見る。
髭は、まだ良いか。
俺は伸びるの遅い方だからな。
歯を磨いて、口をゆすぐ。
洗面台に頭を突っ込んで、水を被る。
俺の髪は硬い。毎朝寝癖を直すのに苦労している。
いっその事水洗いした方が早いのだ。
洗面台横のタオル棚からタオルを取る。
前の家と配置を似せてある。よく使う物ぐらい、探さずに取り出したいからな。
ワシャワシャと頭と顔を拭きながら、二階に上がる。
親父の部屋の前、物置の前、二部屋通り過ぎて、俺の部屋だ。
その奥と、対面の部屋、その隣は空室だ。
何も入ってない。
右手でノックしようとして、包帯が目に入ったから左手に変えた。
怪我をしてる事を忘れそうになるな。ちゃんと痛いのに。
三回ノック後、声をかける。
「入っても良いか?」
「はい、大丈夫ですよ」
返事を待って扉を開けた。
「メシ、終わったか?」
アオイはベッドに座り、双子と遊んでいた。
身を乗り出して顔を覗き込んでいて、指先で頬をつついたり、指を握らせたり。
俺と同じぐらい寝てないのに、嬉しそうに微笑んでいる。
「はい、二人ともげっぷも上手に出せました。今は眠くないみたいですね」
「そか」
返事はすれど、顔は双子に夢中だ。
「ジャジャは、パパが来たら分かりやすく喜ぶんですよ?ほら見てください」
言われて、俺も双子の顔を覗き込む。
「あー、あー!」
ジャジャはニコニコしながら、手をブンブンと振り回していた。
か、可愛い。
「ナナは、おとなしい子なんですね。あんまり笑わないんですけど、時々フニャッて笑うんです」
ナナの顔を見ると、不思議そうに俺の顔を見ている。
「ほーらナナちゃーん。パパが来たよー」
「あー?」
アオイの指先で頬をくすぐられて、ナナは顔をアオイに向けた。
「えへー」
母親の顔を認識したのか、半開きだった口がゆっくり形を変える。
本当に、フニャッって感じで笑うんだな。
これまた可愛い。
「おし、ちょっとネズ公探してくるな。夜泣きの事とか聞きたいし、住んでる場所を知っときたいから」
そう言いながら、ベッドの横にある衣装ケースからシャツと下着、そしてジーンズを取り出した。
「あ、おじさまですか?分かりました」
「昼までには戻ってくるから、それからお前の荷物を取りに行ってくれ」
肩に着替えをかけて、再びベッドを見る。
相変わらず、アオイは双子に夢中だ。
「はーい」
本当に聞いてるのかね。
俺は半ば呆れながら、部屋を出た。





