双子の龍は夜に泣く①
「………ふっ、ふえ」
俺はムクリと体を起こす。
「ふやあああぁああっ!!んにゃあああああ!!」
ジャジャ選手、本日四五分ぶり四回目の夜泣きです。
「うにぇ……っあああああっあああ!!」
その声に驚いたナナが、こちらも三回目の泣き声を発する。
「ほーらジャジャー?なーんにも怖くないぞー。なんだ、怖い夢でも見たんすかー?」
虚ろな思考を張り倒して、俺はジャジャの脇に手を差し込み抱き上げた。
胸に囲い、背中をトントンと叩き、リズムを取りながらなだめる。
「………今度はジャジャちゃんがおっぱいかなー?」
アオイが髪をボサボサにして上体を起こした。
勢いよく上着をめくり、俺に向かって手を差し出す。
「だから、少しは気を使えと」
俺は思わず目を逸らした。
「ご、ごめんにゃさい……ぐう」
俺の腕からジャジャを受け取り、アオイはジャジャを胸元に寄せた。
頼む、眠たいのは良くわかるけど、頑張って欲しい。
ジャジャの泣き声が止んだと言う事は、おっぱいに夢中らしい。
「ナナー?びっくりしたかー?ほーら大丈夫だ。ネンネしなー?」
今度はナナを抱き上げた。
こっちは抱いた瞬間に目を閉じて泣き止んでくれる。
ありがたい。
「赤ちゃんって、こんなに泣くものなんですか……?」
しっかりしろよ。まだ初日だぞ。
「夜泣きが酷くて寝れないってのは、良く聞く話だな……想像以上だが……」
最初は、二十三時ぐらいだったか。
ダイニングのソファの上で、疲れてグッスリ寝てた俺を、アオイが涙目で揺さぶって来た。
『ぜ、全然泣き止まないんですぅ〜』
どうやら同時に泣き出した双子にパニックになり、俺に助けを求めて来たらしい。
とりあえずすぐに二階にあがった。
階段の時点で物凄い音量の泣き声。
部屋の扉を開けると、ベッドの上で手足をジタバタしながら、この世の終わりでも見たかのように泣きわめく双子の仲良し姉妹。
すぐにジャジャから抱き上げた。
おしめを確認しても、何もない。
『おしめはさっき変えたばかりで、おっぱいだって上げたんですけど……』
アオイはナナを抱いている。
『ど、どどど、どうしたー?』
高い高いだ。無反応。
『おーおー。元気良いなぁ』
部屋の扉を開けて、親父が入って来た。
『あ、お父様……起こしちゃって、ごめんなさい』
アオイが申し訳なさそうに顔をしかめる。
『ん。気にしないで。それよりやっぱり夜泣きをしたか』
親父、一人だけ分かってないで助けてくれ。
『ほら、貸してみろ』
両手を差し出して来たから、ジャジャを渡す。
『ほーれ、爺ちゃんだぞー』
嬉しそうにジャジャを受け取り、胸に抱いて背中をトントンと叩いた。
『二人もいるからな。一人が泣き出したら釣られて泣き出すもんだ。両方同時に泣き止ませないとダメだぞ』
『は、はいっ』
親父を真似て、アオイもナナの背中をトントンと叩く。
暫くして、声が収まり、二人ともウトウトと目を閉じた。
『ようやく泣き止んだ……』
俺は息を吐いてベッドに腰掛ける。何もしてないけど、疲れたな。
『この子達は新生児にしては大きいし、首も座ってる。人間で言う生後半年ぐらいかな。その頃だと、ちょうど夜泣きが始まる時期だ』
親父はそう言いながら、俺にジャジャを渡して来た。
『夜泣きかぁ。聞いた事あるなぁ』
『何、特別な事じゃないさ。みんな通る道だ。お前なんかもっと酷かったぞ。声もデカイし大暴れだ』
な、なんかごめん。
『夜だと、泣いちゃうんですか?』
ナナを抱いたアオイも、ゆっくりとベッドに座った。
『いや、夜も朝も昼も泣きっぱなしだよ。この時期の赤ん坊は寝るか食べるか泣くかしか無いからな』
『そ、そんな』
まあ、喋れないし動けないもんな。
『んじゃどうするんだよ』
『どうするもこうするも、我慢して付き合うしか無いもんだ。根気よく相手してやるんだよ』
寝る時間減るなぁ。
『アオイノウンちゃん一人じゃ、双子の夜泣きに耐えるのは無理ってもんだ。お前も手伝わなきゃな。パパなんだから』
口元を歪め、ニマニマと笑う親父。
楽しんでやがる。
『一応、ネズミのおじさまに対処法を聞いてみます。毎日こうだと大変ですから』
『毎日?そいつは違う』
『へ?』
『酷い時なんか、一時間おきに泣くぞ。この時期の赤ん坊を持つ親が、一番苦しいんだ』
そ、それはアレですか。
死刑宣告ですか。
『泣かせない方法より、泣き止ませるコツを掴む事だ。どんな事したって、泣くのは赤ん坊の唯一の自己主張だからな』
『そ、そうですよね』
『まあ、おじさんの経験で語らせて貰えば、おしめの小まめな交換と、適度な授乳。あとは音だな』
音?ビートを刻めってか。
エイトビートで良いか?
『人間の赤ん坊だと、胎内にいるときは母親の心臓の音が子守唄だ。だから心臓か、それに近いリズムに安心感を持ってるんだよ。胸に抱いて心臓の音を聞かせるか、背中をゆっくり優しく叩いてやると良く泣き止む。今の二人も、そんな感じだったな』
な、なるほど。
経験者の言葉は説得力があるなぁ。
『んじゃ頑張れ。何かあったら俺を起こしても構わないからな』
『あ、ああ。ありがとう』
そう言って親父は部屋を出て行った。
それが大体二時間前、そっから数回、ジャジャが泣けばナナがびっくりし、ナナが泣けばジャジャが負けじと声を張り上げる。
ね、寝れない。
確かにアオイだけじゃ無理だこれ。
いつの間にか、俺も同じベッドに寝て、アオイと二人で双子を挟んで待機していた。
「こんな小さいのに、凄いパワーです……」
「どっちかって言うと、ジャジャが良く泣くな……元気の証拠だと思いたい」
初日にして、俺たちはグロッキーだ。
昼にあれだけ大変だったから、疲れているのもあるが。
「アルバのネズ公に、色々聞いといた方が良かったな。夜泣きがいつ終わるかぐらいは知りたい」
ゴールは、見えてた方がモチベーションが上がるからな。
龍は長命種族らしいし、半年やそこらでも辛いが、十年続くとなると俺は倒れるぞ。
あのモコモコ野郎。同じ車で帰って来たのに、森の方が住みやすいとかなんとかで、家の裏手に消えて行きやがった。
「と、とりあえず、寝れるだけ寝ましょう」
「賛成だ」
俺たち四人は同時にベッドに沈む。
俺はナナの、アオイはジャジャの背中を優しく叩きながら。
くそう。夜が、長いぜ………。





