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はなれてもずっとおともだち③

 

「うひゃあ冷てぇなこりゃ!」

「でも気持ちいいね」

「にぇえええええ……」


 俺達男子組は朝飯後に川沿いにやって来た。

 女子組は水着へのお着替え中だ。

 俺達はそもそも水着なんて持って来てないから、普段着のままである。

 濡れてもこの陽気ならすぐ乾きそうだしな。


「こうちゃん、泳げるようになった?」

「ふにぃ」

「後で練習しようね」


 翔平も浩二もすねぐらいまで水に浸けて遊んでいる。

 俺も大きな石に腰を下ろして足だけひたしてみた。

 ひんやりとした水の感触と、木々から子漏れる日光の暑さのギャップが心地良い。

 川の底は細い石がゴロゴロしているから、サンダルは着用したままだ。


「翔平、浩二。ちょっと手伝ってくれ」

「何を?」

「にぃ?」


 立ち上がって川の底を覗いて見る。

 うん、大きい石を集めりゃなんとかなるかな。


「ジャジャとナナが遊べるように、浅い所に囲いを作りたいんだよ。石で区切ったら大丈夫だと思うんだけど」


 理想はジャジャ達が座ってもお腹の下ぐらいまでしか水に浸からない浅さだ。

 石で水を遮って、掻き出せばイケる気がするんだが。


「あ、良いねそれ。こうちゃん大きめの石探そうよ」

「にぃ!」

「まだ深い所には行くなよー」


 元気に石集めを開始した翔平達の姿を見ながら、俺も準備を始める。


「ここかな」


 川べりを探していると、ちょうど良さそうな場所の川底に平たい岩盤を見つけた。

 水流で研磨されたその岩盤は表面がツルツルしていて、お尻をつけても痛くなさそうだ。

 せり上がってるから水深も浅いし、この周りに石を集めたら簡易的なプールになるんじゃなかろうか。


「にいちゃん、こんなのは?」

「お、良いじゃん。お前らが持てそうに無い奴は俺が運ぶから、見つけたら呼んでくれ」

「にゃー」


 さて、少し頑張りますかね。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「できたー!」

「にぃー!」


 翔平と浩二が元気よく大声をあげて喜ぶ。

 作業開始から四十分ぐらいで、双子達用の自然を利用したプールが出来上がった。


「おお、思いのほかそれっぽく見えるな」

「石を積むだけで水って入らなくなるんだね」


 隙間を無くそうと工夫してみたからな。

 こういう工作系は意外と得意なんだ俺。


「運動したらやっぱり暑いな」

「ちょうど良いんじゃない? 水の温度もいい感じになったし」


 無我夢中で作業していたら、気がつけば汗だくだった。

 見れば浩二も翔平も額に玉の様な汗を浮かべている。

 そろそろアオイ達が来ても良さそうなんだが、なんだか時間掛かってるなぁ。何やってんだろう。


「おーい。差し入れ持って来たわよー」


 コテージへと続く階段を降りて来たのはドギー巡査だった。その後ろから井上巡査が続く。

 ラフなハーフパンツにTシャツの格好で、金色の髪と尻尾と耳が日光に反射して輝いている。

 井上巡査の右腕にはビニール袋、左腕には持ち運べるレジャーチェアをぶら下げていた。


「なんですかそれ」


 翔平が川から出てドギー巡査に駆け寄った。


「ママが家から持って来たレモネードとお昼のおにぎり。水遊びで怖いのは意外と水分不足なんだから」

「体は冷えてるけど汗は出るからね。こまめな水分補給は大事だよ。ほら」


 ビニールに入っていたのは、ラップに包まれたおにぎりと水筒と紙コップか。有難いな。実は喉が乾いてたんだ。


「もうじき女の子達も来るから、少し休憩してなさい。あら、いいわねその囲い」


 俺達が作った石のプールを見てドギー巡査が頷く。


「うん。これなら双子ちゃん達も大丈夫だろうね。浩二君も翔平君もあんまり深いとこ行っちゃダメだよ?」

「はーい」

「にゃー!」


 井上巡査の言葉に小学生組が元気良く返事を返した。


「アオイ達、何やってんです?」


 幾ら何でも遅すぎない?

 ジャジャとナナに何かあったのか?


「女の子の身支度って時間がかかるもんなの。そうでなくても水着なんだから、チェックするとこ多いのよ?」


 そうか?

 よくわかんねぇな。


「お待たせー! 見ろ風待! そして骨抜きになるがいい!」

「あぁ?」


 甲高い声を上げて登場したのは、佐伯だった。

 ライムグリーンが目に鮮やかな、なんだっけあれ。タンキニってヤツ?

 上下がセパレートしていて、下がホットパンツみたいになってる水着を着用していた。

 短毛三毛猫(ミケネコ)族特有のまだら模様の短い髪を無理やり後ろでまとめていて、短いポニーテールを作っている。


「おお、似合うじゃねぇか佐伯」


 お世辞抜きで。

 活発そうな佐伯にぴったりの装いである。

 こいつもなぁ。黙ってりゃあモテるだろうに。


「あれ? 予想していた反応と違う。鼻血ぐらい吹いても別に軽蔑しないよアタシ」

「そう言われても」


 佐伯の見た目だと色気っていうよりは可愛らしさが先行しちゃうからなぁ。

 年下って言われても違和感ない相手に動揺できるわけないだろ。


「アンタ、今凄い失礼な事考えてんだろ」

「いやぁ! ナイスバデーだぜ佐伯! ヒューヒュー!」


 だからナチュラルに俺の思考を読むなってば!


「翔平、どうよどうよ。可愛かろ? 小っ恥ずかしかろ?」


 右手を頭に、左手を腰に。

 体全体をくねくねと動かして翔平にアピールする佐伯。


「うん、似合ってるよいちか姉ちゃん。可愛い」

「嬉しいんだけど、そうじゃない……」


 哀れなり佐伯。

 ウチのクール系末っ子にはお前が求めているようなリアクションは望めないぞ。

 そうじゃなくてもお前、子供体型なんだから。

 むしろお子様が少し背伸びしたような感じになってて、どっちかと言えば微笑ましいって感じ。


「風待、後で覚えてろよ」

「何も言ってないだろ!」


 冤罪ですよ冤罪!


「にししししっ!」


 そんな姉を見て、浩二が面白そうに肩を震わせて笑っている。

 堪えようとしたのか口元を押さえているが、どうやら我慢できなかったようだ。


「お前もだ愚弟」

「にぃっ!?」


 だから浩二はなんで勝てもしない喧嘩を吹っかけるんだよ。


「いちかちゃん待ってよ! もう! 荷物ぐらい持ってよね!」


 コテージからパタパタとサンダルの足音が聞こえて来る。

 この声は三隈か。


「あ、三隈も来たんだーーーーーー」


 うそぉ……。


「あ、薫平くん……えっと、あの、どう……かな?」

「え、いや、その、なんていうか」


 肩にかけていたバッグを下ろして、両腕で体を隠しながら三隈は俺を上目遣いで見る。

 その姿に何を言えば良いのか、ちょっと上手く出てこない。

 いや、言わないと! 何か気の利いた事言わないと!

 足りない語彙を絞り出すんだ風待薫平!


「ご、ごちそうさま?」


 その結果がこれです。


「なんだそれ。馬鹿じゃないの?」


 佐伯が機嫌悪そうに突っ込んで来た。

 うん、今のは俺が悪いね? ダメが出たね?


「に、似合ってる……と、思う。その、色々と」

「あ、ありがとう……」


 普段は三つ編みにしているその長い髪を後ろで縛り、うなじから肩、鎖骨から胸元までを大胆に露出した水着。

 細いストラップは背中じゃなくて首で巻かれている。

 その大きな二つのお山が赤と青のボーダー柄の薄布のみに覆われていて、三隈の動作に合わせてブルンと揺れる。

 パレオに覆われた下半身は日光に透けていて、見ていい物のはずなのに直視しづらい光景になってしまっている。


「が、頑張ってみました。エヘヘ」


 顔を真っ赤にして胸の前で両手をもじもじとすり合わせる三隈。

 なにこの可愛い生き物。


「め、眼鏡はどうしたんだ?」


 無理やり会話の方向性を変える。

 あんなの見てたら変な事口走ってしまいそうだからな。


「あ、あんまり泳ごうとは思ってないから、その、たまには良いかなって」


 うん。

 眼鏡姿の三隈も良いがーーーーーー。


「ーーーーーー眼鏡なくても可愛いな」


 印象が変わって新鮮な感じ。


「ふぇ」


 あれ?

 三隈が目を大きく見開いて硬直した。


「うわぁ、お前直球すぎだろ」

「兄ちゃん、多分だけど思った事が口から出てるよ」


 え?


「か、かわ、かわわ」


 口をパクパクさせて、赤かった顔をさらに真っ赤に染める三隈。

 口から出てるって、何が?

 ……もしかして、俺口走ってた?


「あ、いや! そうじゃなーーーーーーいやそうなんだけど! 可愛いのは普段からで! あ、もちろん今も! じゃなくて! あの! 三隈!? おい三隈しっかりしろ!」

「あわわ」


 目をぐるぐるさせてヨロけた三隈を、両肩を掴んで支える。

 うわ何これスッべスベ! 肌触り抜群じゃん! 

 じゃなくてぇ!


「三隈! 気をしっかりと持て三隈!」


 なんだかこれ俺のせいみたいじゃん!


「いやー若いわー! 見ててこっちが恥ずかしくなるわね俊夫君」

「茶化しちゃダメだってドク」


 レジャーチェアに腰掛けて紙コップにレモネードを注いでいた巡査ペアが楽しそうに笑っている。

 いや見てないで助けてくれませんか!?


「良かったねぇ夕乃。4時間かけて水着選んだ甲斐があったってもんだ。かなり勇気出してそれにして結果オーライじゃん」


 4時間!? そんなに悩んでたの!?

 店員さんに文句言われないのそれ!


「アオイとルージュさんももうじき来るよ。双子ちゃん達の準備に手こずってたから、先に出て来たんだー」


 いや、だからサラリと流そうとしないで佐伯! 三隈を助けてあげて! お前の親友が大変なんですよ!?


「くんぺいさーん!」


 アオイの声が聞こえたのは、そんな時だった。


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