はなれてもずっとおともだち②
予約投稿時間間違えてました! すみません!
「納得がいかない」
何が何やらさっぱりだ。
「だぃ」
「ジャジャもそう思うか? だよなぁ」
「あぶ」
膝の上で自分の尻尾を掴んで遊ぶジャジャが同意する。
うん、パパを慰めてくれるのか? 本当にジャジャは良い子やでぇ。
「いつまで落ち込んでるのさ。ほらサンドイッチ。ジャジャはミルク」
「サンキュ。ジャジャ、ご飯だぞ」
「あーい!」
翔平がキッチンから持って来た朝飯を受け取る。
「また綺麗にぶん投げられたなぁ。受け身も取れないのは情けねぇ」
「受け身も何も投げられた事すら気付かなかったっての」
朝のトレーニングから2時間ぐらい経っている。
今はウッドデッキで朝ごはんの最中だ。
早起きしたはずなのに遅めの朝食を食べているのは、俺がさっき二度寝、いや気絶から目覚めたからだ。
「ごめんよ。あんまりにも飛び込んでくるタイミングが綺麗すぎたもんだから、ほとんど条件反射で投げてしまったんだ」
「ポン、ポーンってな。見てる側からしたら気持ちいいぐらい綺麗だったぞ? お手本みたいな投げられっぷりだったな」
困った様に笑う井上巡査の横で親父がケラケラと笑う。
「もう少し善戦できると思ってたんだけどなぁ。悔しいなぁ」
一撃どころか、開始して五秒も経たずに沈められてしまった。
投げられた俺からしてみれば何をやられたかすら全然わからない。
凄いなぁ。これが本当に武道を学んでいる人と、喧嘩しかしてこなかったチンピラの力量の差かぁ。
「て言うか。俊夫君の普段の動きを見てれば気づけるだろうに。体幹、体運び、足の運びから何から何までが只者じゃない奴のそれだぞ?」
分かんねぇよ。
何で親父は分かるんだよ。
「俊夫君、西日本の大会でも5本の指に入るほどの柔道家なの。田舎勤務だけど、県警どころか警視庁からもお声が掛かるぐらいね。異動の打診断ってなかったら今頃は東京でバリバリの機動隊員だったかもしれないのに。勿体無いわよねぇ」
何だか自慢げに話すのはドギー巡査だ。
金色の髪を風に揺らしながら牛乳を飲んでいるその姿はTVコマーシャルの様。
スタイルいいから何やっても様になるなぁ。
「いやぁ、都会って何だか肌に合わなくて。せっかく住んでいる町に配属になったんだから、できる限り地元で働きたくてさぁ」
「でもいつか断れない部署移動が待ってるんでしょう? 公務員さんなんだから。はいドク」
ドギー巡査にサンドイッチを手渡して、ユリーさんが井上巡査に問いかけた。
「まぁ、来るんでしょうねぇ。今までの配属先はできるだけ希望する場所に配置してくれましたが、やっぱり大都市の人員が不足している見たいですから。でもあと数年は大丈夫ですよ。牙岩がああなったんで、今はウチの管轄も大忙しですからね」
ホットミルクのコップを両手で掴む井上巡査はそう言って笑う。
大変だなぁ警察官も。
でもそうだよな。獣人共生社会となった今じゃ、警察もやっぱり人手が足りない。
政府が正確に把握できないぐらい多種多様な獣人種族は、それぞれの部族だったりコミュニテでしきたりや生活様式が異なる。
それが一つの街に集まって生活しているから、摩擦やすれ違いや、犯罪なんかも絶えないだろう。
昔みたいに人間だけ相手をすれば良いってわけでもないもんな。
ドギー巡査達みたいな獣人の警察官も増えてはいるが、まだ人間の警察官がほとんどだ。
身体能力で圧倒的に劣る人間が獣人達に対処するには、アドバンテージは数の多さしかない。
なんか考えたらかなり難しい状況だよな今の世界って。
「今回の有給も、臨時みたいなもんだしね。牙岩事件からこっちほとんど休ませてもらえなかったし」
ウッドデッキの手すりに腰掛けてドギー巡査が答える。
「良いのよこれぐらい。ドクも俊夫くんも働きっぱなしだったんだから。少しぐらい休んだって文句言われないわよ。ねぇ、ジャジャちゃん?」
「だぃ!」
ユリーさんの言葉ににっこりと笑うジャジャ。
犬耳フードの幼児用つなぎから飛び出た尻尾と翼が機嫌良くパタパタと揺れた。
「ジャジャちゃんは優しいなぁ。良いなぁ赤ん坊。癒されるなぁ」
腰を屈めて俺の膝の上のジャジャの頭を撫でるドギー巡査。
「あら、望めばすぐにでも作れるじゃないドク。娘が三人も居てまだ孫の顔を拝めてないママはいつだって大歓迎よ?」
「えー、でもやっぱりまだ仕事して居たい気もあるのよねぇ。ねぇ俊夫君?」
「あ、え? うううう、うん。そうだね」
何でそんなどもってんだ井上巡査。もうプロポーズは済んだって言ってたんだから堂々としてりゃ良いのに。
あれ? もしかしてまだユリーさんには話してないのか?
「お待たせしました。ナナがぐずっちゃって」
「起きたらいつもと違うお部屋だから怖かったみたいなの」
「えぐ、ふぇ、えぐ」
アオイと三隈がキッチンからウッドデッキに出てきた。
猫耳フードの幼児用つなぎを着ているナナがアオイのTシャツをぎゅっと掴んでしがみついている。
泣き止んですぐだから目元が真っ赤だ。
「ジャジャは平気そうなんだけどな」
「だぅ?」
この元気印め。妹はもうちょいデリケートっぽいぞ?
俺の膝の上で哺乳瓶を振り回して遊んで居たジャジャが顔を上げて俺を見る。
「にへぇ」
んー。かわいい!
俺の顔を見るやフニャリと笑うジャジャ。
「いちか姉ちゃんとルー姉ちゃんは?」
「まだ寝てる。いちかちゃん昨日は遅くまで浩二くんとじゃれてたから」
「もう、だから早く寝てって言ったのに。こうちゃんも全然起きて来ないんだ」
あの姉弟も仲が良いのか悪いのか。
旅行の夜だってんでテンションがメーター振り切っちゃって、夜は二人して大暴れしてたもんな。
「ルージュは相変わらず朝が弱いなぁ」
「昔からですよ。というか地龍族は良く眠るんです。のんびり屋さんが多いみたいで」
毎朝の事だが、ルージュの寝起きはかなり悪い。
起きても1時間ぐらいボーっとしてて、覚醒までにやたら時間がかかる。
でも今日ぐらいは寝かせてやろうか。
学校がある日は俺が家を出る時にジャジャが大泣きするから、半分寝ているルージュがのっそり起きて来てジャジャの面倒を見てくれるもんな。
「ふぐぇ、あう。だぁ」
「ん? ナナもミルクか? さっきおっぱい飲んでなかったか?」
アオイの胸に抱かれたナナが俺に手を伸ばす。
ジャジャの持つ哺乳瓶を欲しがっていると思ったんだが、どうやら違うみたいだな。
「薫平さん。ナナ、本当に怖い時はパパに抱っこされたがるみたいなんですよ。お家とは違う場所で起きたの、よっぽど嫌だったみたいです」
そうか? 我が家よりよっぽど広いこのコテージだと落ち着かないんだろうな。
ナナはマイペースなのにデリケートだから。難しい子ですこと。
「よし来た。こちらの膝の上が空いておりますよお姫様」
「だぁ!」
俺の膝の上を陣取るジャジャを少しズラしてスペースを空ける。
察してくれたのかジャジャも満面の笑みで快くナナに膝を譲ってくれたみたいだ。
「はいナナ。パパがおいでって」
「だぅ、えぐ」
アオイがナナの両脇に腕を差し入れて、俺の膝上へと運ぶ。
「ほら、もう泣き止めって。怖くない怖くない」
「うぅ、だぁ」
俺の腹にグリグリと顔をこすりつけて甘えてくるナナ。
庇護欲を全力でくすぐるその姿に胸が締め付けられるようだ。
「だぃ?」
そんな妹を見かねたのか、ジャジャが首を傾げながらナナの頭に左手をポン、と優しく置いた。
「あだぁ……」
少し潤んだ瞳でジャジャを見るナナ。
「ジャジャが『なかないでー』だって」
「妹思いだね。ジャジャちゃんは」
アオイと三隈が俺の目の前で腰を屈めてジャジャとナナを覗き込む。
ちょっとお二人さん。
少しは意識して欲しいんだけどさ。寝巻きにしているその薄手のシャツ。
襟元がだいぶ無防備なんだわ。もう少し屈んだら見えそうーーーーーーっていうかこいつら下着着てなくないか!?
全力で首を逸らす。
もう少しで見えてはいけない登頂部が見えそうだったからだ。
三隈に比べてだいぶ慎ましい胸をしておられるアオイなんか、もう見えてましたよねあれ。
三隈に至ってはその肉感たっぷり増量中の二つのお山が今にもこぼれ落ちそうなぐらいだ。
朝も早よから俺のメンタルに直接攻撃するのは勘弁して貰いたいんだけど!
「だぅ?」
「あぅ……あだぁ」
俺の膝の上で二人だけに通じる赤ちゃん語で会話をする双子達。
ジャジャの左手はナナの頭を優しく撫でている。
多分これ、普段のアオイを真似してるんだろうな。
ナナが泣いたらアオイがそうするからって、ジャジャなりに覚えていたんだろう。
「ふへぇ」
「……にへぇ」
ジャジャの柔らかな笑みに釣られて、ナナもふんわりと笑った。
「おし、偉いぞジャジャ。ナナ」
俺は二人の頭をグリグリと撫で回す。
妹を泣き止まそうとしたジャジャと、ちゃんと泣き止んだナナ。
どちらも同じぐらいお利口さんである。
褒めてやる時は目一杯褒める方針なんだ俺は。
「今日はいっぱい遊ぼうな?」
「だぁ?」
「あぅ?」
俺の言葉に不思議そうに首を傾げるジャジャとナナ。
「後で水着着て、みんなで川に行こうね?」
「ご飯食べてからね」
アオイと三隈が続けて双子達に語りかける。
「だぁ!」
「あーぃ!」
小鳥の声と蝉の鳴き声。
川を流れる水の音。
そんな気持ちの良いコテージの朝に、ジャジャとナナの元気な声が響き渡った。





