はなれてもずっとおともだち①
このエピソードのラストまでストックができたので、今日からエピソードエピローグまでは毎日投稿をします。
宜しくお願いします。
「おー、いい天気だこと」
早朝、なんだか目が覚めた俺は川辺でストレッチをしていた。
ジャジャとナナの夜泣きもいつもより少なかったし、何よりここら辺は涼しいからグッスリ眠れた。
普段なら冷房が必要不可欠なんだけど、備え付けの扇風機だけで済んだからな。
ジャジャ達が夜起きなかったのもそのおかげかも知れない。
森から聞こえる小鳥のさえずりや蝉の鳴く声に耳を傾けながら、じっくりと体を解していく。
アトルとの決闘でもそうだったけど、最近の俺はあの町に引っ越してくる以前に比べて明らかに怪我をしすぎだからな。
治癒魔法やらなんだかんだで怪我がすぐ治ったとはいえ、今のままで良い訳がない。
アオイや三隈、翔平や親父も心配するだろうし、ジャジャとナナも不安がるかもしれない。
少しでも強く、そしてタフにならなければ双子達を守りきれなくなるかもしれないと考えたら、やっぱり体を鍛えるしか道は無いのだ。
「おはよう。精が出るね薫平君」
声に振り向くと、ウッドデッキに井上巡査の姿があった。
「おはようございます。井上巡査」
トレーニングウェアにハーフパンツで、今から運動しますって格好だ。
昨日は遅くまで親父の酒盛りに付き合ってたのに、大丈夫なんだろうか。
「昨日は親父がすみません……」
あの中年、ちょっと騒ぎすぎだろ。
旅行に浮かれてたのか翔平の静止も聞かずにカパカパとビールを煽りやがって。
「いやぁ、僕もドクで慣れてるしね。あれぐらいどうってことないよ」
ああ、ドギー巡査もひどい呑みっぷりだったなぁ。
あれ? 今、ドクって言った?
ユリーさんがドギー巡査を呼ぶときと同じ呼び方だ。
「呼び方、隠さなくて良いんですか?」
「あはは、もうなんとなく気づいてるんだろう? 正式にプロポーズも済ませたから、これからは堂々と行こうと思ってね」
プロポーズ!
へぇ! 結婚するのかこの二人!
「この旅行中に、おばさーーーーーーお義母さんにもちゃんとご報告するつもりだよ」
「おめでとうございます! へぇ、プロポーズねぇ……」
凄いなぁ。男として素直に尊敬するわ。
俺なんてそんな段階すっ飛ばしてるからな。その上、別の女の子にも言い寄られてはハッキリと断れてないときた。
うん、状況だけで判断すると控えめに言っても最低だよな俺って。
でもなぁ……自分でも不思議な事に、キッパリと決める事が出来なんだよなぁ。
ああ、どう取り繕っても最低だったわ。
「く、薫平君? なんで急に落ち込んだんだい?」
「あ、いえ。俺って嫌な奴だなぁって思って」
飛んだ優柔不断野郎だ俺は。アオイと三隈、どっちかに刺されても不思議じゃない。
「何を思い詰めてるか知らないけれど、僕は君の事凄いって思ってるんだ。懐の深いデカイ男だってね」
いや、そんな事は。流されるままに生きてるだけですし。
一度ネガティブにハマってしまった俺の精神はそう簡単に引き上げられないぞ。
ただもっと褒めてください。褒めて伸びるタイプだと思うんだ俺って。
「さて、少し柔軟と運動に付き合ってくれるかい?」
「良いですよ。確か井上巡査、柔道と空手と剣道の段持ちでしたっけ」
「嗜む程度だよ」
……いやぁ、そういう謙遜の仕方する奴で弱かった奴見た事ないし。ちょっと信じられないなぁ。
「薫平」
「ん?」
あれ? 親父も起きてきたのか?
ボサボサ頭をボリボリ掻きながら、ウッドデッキに置いてある木製チェアに座っていた。
「俊夫君な、強いぞ。ちょっと遊んで貰ったら良い」
……親父が言うんなら、本当なんだろうな。
我が親ながら経歴に謎の多いこのおっさんは、正直俺の今までの人生で出会った中でも最強だと思う。人間に限ればだけど。
確かに獣人の中にも強い人達はいっぱい居て、最近だとセイジツさんやナナイロさん。アトル王子もそうだけど、素直に言えば親父がその誰もがに負ける所を想像できない。
息子の贔屓目ってのも有るかもしれないけれど、このくたびれかけた中年親父にはそういう印象が拭えない何かが有る。
そんな親父のアドバイスだ。ここは言う事を聞いておこう。
「井上巡査、ちょっと良いですか?」
「えーと、あはは」
困った様に笑いながら、井上巡査は親父をちらりと横目で見る。
「俊夫君、ちょっと軽く撫でてやってくれ。最近無茶にブレーキが効かないみたいなんでな」
「いやでも」
んん?
あっれー?
井上巡査のこの反応、もしかして俺に勝つ事前提じゃね?
「お願いします!」
ちょっとムカっと来たぞ!
余裕そうなその顔を歪ませてやりたくなって来た!
「じゃ、じゃあ。少しだけ」
そう言って、両足を大きく広げ、両腕を上げて構える井上巡査。
これ、柔道の構えかな。
一応地面は土だから受け身すら取れば大した怪我はしないと思うから、ここは勢いよく飛び込んでみるか?
よし、そうしよう。
ビビってたってどうにもならないしな。
息を大きく吸い込み、腰を落として左半身に構える。
俺は右利きだから初弾の右を全力で繰り出せる様にだ。
吸った分以上に息を吐き出し、今度は浅く吸い込んで息を止める。
よし、コンディションは万全。
良く寝たし意識もバッチリ冴えてる。
さぁ、その余裕を崩してやろうか。
「んじゃ! お願いしまーーーーーー!!」
叫びながら井上巡査の懐に潜り込んだところで、俺の意識は途切れた。





