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家族旅行に行こうよ!②

 

「ふわぁ……おっきいねぇジャジャ」

「だぁ!」

「ん。すごい」


 ジャジャを抱いて車から降りたアオイが、建物を見上げて感嘆の声を漏らした。

 ジャジャがそれに合わせて元気良く返事を返す。それに応えるのはリュックを背負ったルージュだ。


 いや本当に。

 なんだこのデカさ。これ個人が所有していいもんなの? 


「そりゃあコテージだからな。本来は貸別荘として運営しようとしてたらしいんだけど、管理する人がまだ見つからないらしくてな。しょうがないってんで父ちゃんの得意先の人達は自分の会社の保養所として扱ってるらしいんだよ。まぁ夏のシーズンにしか使ってないみたいだけど」


 ん? どうゆう事?

 後部座席からクーラボックスを取り出しながら親父が説明してくれたが、微妙に理解が追いつかない。保養所って何よ。

 もうちょっと俺に優しい説明してくれない?


「保養所って、企業とかが社員の人達に安く提供してる休養する施設の事だよ薫平くん。本当なら管理人さんとかが居て定期的にメンテナンスをしなきゃいけないんだけど、その管理人さんが用意できなかったから開業できないって事じゃないかな。多分それなりにお金がかかるペンションみたいなものなんですよね?」


 あ、説明ありがとうございます三隈さん。

 トランクケースを車から降ろしながら三隈が俺の疑問を察してくれた。本当に気の利くお人です。


「とは言っても、この大きさだとコテージとは言えないんじゃないかしら。ちょっとした豪邸よこれ」

「持ってる人は持ってるのねー。お金って」

「ここら辺、それなりに人気の避暑地ですからね。これはべらぼうに値の張る物件じゃないかなぁ」


 二台目のワゴン車から降りて来たのは金色長毛犬(ゴールデンレトリバー)族のドギー巡査とユリーさん、そして井上巡査だ。

 珍しく非番が重なった巡査達二人は、ユリーさんの勧めもあって有給まで使って今回の旅行に参加してくれた。

 思いがけず人数が増えたから、井上巡査の車まで出してくれて助かってたりする。

 なんせ二泊三日だから荷物もそれなりにあるしな。

 ていうかドギー巡査と井上巡査、休日なのにプライベートでも一緒にいるって事は、もう付き合ってるのをユリーさんにカミングアウトしたんだろうか。

 この二人、俺から見ても交際しているのはバレバレだったから、ユリーさんが気づいてないはずはないんだけどさ。


「兄ちゃん、川見て来て良い?」

「にぃ」


 こちらもこちらで、本当に仲の良い小学生組。

 翔平と浩二が少し離れた所にある川を指差した。


「良いけど、中には入るなよ? 遊ぶのは掃除が終わってからだ。みんな一緒の時な?」

「うんわかった。行こうこうちゃん」

「にゃー!」


 おーおー、元気良く走っちゃってまぁ。ああいう所は普通に小学生だもんなウチの弟様は。


「浩二! 本当に川には入らないでよ!? 絶対だからな!」

「だぃ」


 ナナを抱いた佐伯が大声で浩二に釘を刺す。気持ちはわからんでもない。

 あのわんぱく子猫坊主は言う事聞きそうにないもんな。まぁ翔平が一緒にいるから問題ないだろ。


「あぅ。だぁ」

「うぅううう、ナナちゃんそろそろ終わりにしてよぅ」


 ナナは嬉しそうに佐伯の猫耳をモフモフと両手で触っている。

 出発前から今までずっと夢中だ。3時間もずっとだから、佐伯はなんだかげんなりしている。


「薫平。翔平達は私が見てる」

「ああ、頼むよルージュ。あのデカさだと相当深そうだあの川」

「ん。了解。任せて」


 パツパツのTシャツに短パンっていうかなりラフなスタイルのルージュが翔平達を追って川の方角に向かった。あの服、三隈からの貰いもんなんだけど正直目のやり場に困る格好である。三隈ほどじゃないけど、ルージュも結構胸があるんだよなぁ。

 いや、いかんいかん。邪念退散! 煩悩封印! 眠れ思春期の悲しい性よ!

 ほら、なんだかアオイと三隈が睨んでいる気もしないでもないだろ!


「水難事故ほど思いがけない事故はないものね。注意するに越した事は無いわ。井上君、学生時代に海で監視員のバイトもしてたし、ライフセービングの資格もあるから安心して」

「意外な所で役立ったなぁ。あの資格」


 なんで海の無い県に住んでるのにそんな資格取ったんだろう……。まあいいや。

 警察官に言われると説得力凄いなぁ。て言うか井上巡査の隠れた有能っぷりが凄いのなんの。能ある鷹はなんとやらって奴か。

 柔道の名手なのは知っていたけれど他にも空手やら剣道やらの段位も持っているらしく、数年前まではいろんな社会人大会で表彰台の常連だったそうだ。

 この人の良さそうな(ちょっと老け顔の)お兄さんが、実は武道の達人だと誰が思うだろうか。そう言う意味では少しズルイ存在なのかもしれない。ギャップ的な意味で。


「でも本当に涼しくていい場所だな。川も綺麗だし」


 親父の言葉には大いに同意する。

 コテージのある場所からちょっとした坂を下った場所にあるその川は、ここから見える範囲でもそこそこの川幅を持っている。

 夏のギラギラした日光を乱反射し目にはあんまり優しくは無いが、それがまた風情ふぜいというか情緒じょうちょというか。良い雰囲気を作り出していた。

 ただ、流れは穏やかだけどそれでも子供が溺れるには充分な深さだろう。

 俺や親父や井上巡査が監督してる時じゃないと入るのは禁止だ。自然を舐めちゃいけない。薫平お兄さんとの約束だぞ?


「薫平、これも追加」

「おい、もう何往復してると思ってんだよ! ちょっとは手伝えっての!」


 親父の言葉に非難の声を上げる。

 当たり前だ。さっきから俺だけ建物と車を何度も行ったり来たりしているからな。

 駐車場から大きな木製の階段を登らないとコテージには辿り着けず、こんなに涼しいのにすでに汗だくである。


「あぁん? 文句言わずに働けよ食べ盛りが」


 いや、分かってるんだけどさ! 女性の比率が高いから力仕事は主に俺の出番って事は!

 中年の親父や目上の相手である井上巡査を顎で使う訳にもいかず、小学生の翔平や浩二にこんな重たい荷物が運べる訳がない。

 ルージュやアオイなら余裕で運べそうだけど、それは俺の男の子としての意地が許さない。

 結果、車から降ろされた大きな荷物は全部俺が運ばないといけない流れになってしまった。


「文句ぐらい言わせてくださーい!」


 泣き言を漏らしつつ、積まれてある荷物を担ぐ。

 BBQセット重たい! これ持ってくる必要あったのか本当に!


「はは、僕も手伝うよ薫平くん」


 半ばヤケクソで階段を二段飛ばしで登っていると、後ろから井上巡査の救いの声が聞こえて来た。助かった! 本当にあの人いい人だよ!


「いいんだよ俊夫としお君。若者はこういうときに頑張ってもらわないと。それにあいつらはもう夏休みで毎日ゆっくり休めるからな。俺達社会人はたまの休みぐらい楽させてもらってもバチは当たらんさ。俊夫君達は警察官だし、尚更だ」


 余計な事をあのおっさん! しかも正論っぽいから何も言えねぇ!


「ぐっ! 毎日お仕事ごくろーさまでーす!! うおぉぉぉぉぉっ!」


 何も言えないがお礼なら言える。

 腹の底から声を張り上げ、気合いとともに階段を駆け上る。

 頑張るともさ! 頑張らせていただきますよ! 頑張りゃいいんだろうがぁ!


「だぁ!」

「うぁうー」

「そうだね。パパがんばれーって」

「あはは、後でマッサージでもしてあげようね。アオイちゃん」

「おら風待! ご褒美があるってよ!」


 女子達の声援、主にジャジャとナナの声に奮起して俺は階段を駆け上がる。




 後になって冷静に考えれば、特に駆け上がる必要は全く無かった。

 気づいたのは全体力を使い果たしてぶっ倒れてヒィヒィ言ってる時だったけどね?


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