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戦う理由②

 

 欠伸を噛み殺しながらバスを降り、道行く沢山の生徒達に混ざりながらズボンのポケットに両手を突っ込んで歩く。

 昨日は久々にジャジャとナナの夜泣きが凄かったから正直寝不足だ。

 そのお陰か家を出る頃には二人ともぐっすり寝てくれていたから、すんなり抜け出せた。

 ジャジャが起きたら、俺が居ないって大泣きするんだろうなぁ。


「よぉ悪人面。眠そうにしてたら余計にガラが悪いな」


 校門の目の前で肩を掴まれた。

 柔らかい肉球の感触。

 ふむ。プニプニとしたなかなかの良触感。

 手タレとして売り出せんじゃね?これ。


「うっせえよ毛玉。あら、制服変えちまったのか」


「昨日届いてたんだよ。これでパッツンとは言わせねぇ」


 獅子族の獣人、ガサライオ・ライオットのご登場である。

 そのデケェ体格に合わせた黒い制服と、朝日で生意気にもキラキラ輝く金色の毛並み。

 黒と金のコントラストが目に優しく無い男だ。


「なんだ。やけに辛気くせえ顔してるじゃねぇか」


 そりゃあなぁ。


「あの決闘な。なんだか受けなきゃいけないみたいなんだよ。それが憂鬱でさあ」


 嫌だなぁ。

 また怪我すんのかな俺。


「なんだ?そんな展開になってんのか?」


「んー。今んところな。詳しくは昼にでも話すわ」


 校門を潜り、野球部とサッカー部が朝練をしているグラウンドを眺めながら校舎へと向かう。

 掛け声をあげながら列を作ってランニングをしている野球部。

 サークルを作ってパス回しをしているサッカー部。

 鳥族や魔族、獣人と人間がごっちゃになって練習してる姿を正直圧巻である。

 近年のスポーツは体格差や筋肉量の差、それに種族特性の差などもあってルールが厳しい。

 ほとんどが俺たち人間のために色々とダウンサイジング化されてたり、スタメン比率を獣人より人間を多くして、お互いの実力を拮抗させてたりする。

 世界衝突前に比べればどのスポーツもよりダイナミックになっているので人気も高いが、獣人差別やら何やらの声はあちらこちらで聞く。

 世知辛い世の中である。


「ただなぁ、今んとこ全部あっちの言い分しか聞いてない状態なんだわ」


「なんだか難しくなってるみたいだな」


 ジャジャやナナの為とはいえ、決闘条件が幾ら何でも不利すぎる。

 魔族最大の特性は魔法だが、それに加えてアトル王子は空も飛べるタイプの魔族だ。

 空中から魔法を放たれてしまっては、それがどんな威力であろうと俺に勝ち目が無い。

 なんとか対等、もしくは俺にワンチャンスある決闘の方法はないだろうか。

 あまり強気に出れる立場でもないから、条件を飲んでくれるかどうかも怪しい。


『ラァイオットくーーーーーーーん!かぁざまぁちくーーーーーーーん!!!』


 うおおっ!?

 なんだなんだ!

 グラウンドの周りに植樹された木が猛烈な勢いで揺れ始め、俺の鼓膜に金切り音のような耳鳴りが聴こえてくる。


「うわぁ!」


「ひぃい!」


「なに?また事件!?」


 登校中の生徒達が大騒ぎだ。

 みんな耳を押さえてうずくまってしまった。

 この学校の生徒は先の『牙岩事件』以来、警戒心が強くなってるからなぁ。


「あんの野郎……」


 どういう声帯してたらこんな馬鹿でかい声出せるんだよ。


「う、うおぉ……目眩めまいまでしてきやがった。ウタイの奴か?」


 獣人ゆえに人間の俺なんかより遥かに耳が良いガサラは、頭の耳を押さえながらクラクラとよろめいている。


『グッ!!モーーーーーーーニーーーーーーーンッ!!』


 再び轟く轟声の元を辿ると、本校舎3階の廊下の窓にその姿があった。

 雄叫びをあげるかのごとく気持ち良さそうに身を乗り出して、ニッコニコと満面の笑みを浮かべるウタイ・ケツァ・インテイラ。

 その隣には、目と耳を閉じて澄まし顔のカヨーネの姿があった。

 その周辺の生徒達の被害は甚大だろう。


「うるせぇな!!大声で呼ばなくても良いだろうが!あとおはよう!」


「馬鹿野郎殺す気か!おはよう!」


 俺とガサラが続けて文句と朝の挨拶を叫ぶ。


 ウタイは『またやっちゃった?』とでも言いたいのか舌をペロリと出してはにかんだ。


「なんつー奴だアイツは」


 音響機器も真っ青の声量だぞアレ。

 グラウンドを見ると、朝練中の部活生達も足を止めて動揺している。


「ん?」


 何やらグラウンド横の体育館から、タンクトップに短パンという身軽そうなファッションの集団が飛び出して来た。

 何事かとあたりを見回している。


「ガサラ、あいつら何かな?」


「ん?どれだ?」


 やたらガタイが引き締まった集団だ。

 獣人も何名かいるな。

 手にバンテージやら、頭にヘッドギアやらをつけている奴もいる。

 ああ、あれって。


「ああ、俺と同じクラスの奴もいるな。アイツは確か」


「ボクシング部か」


 そういや、放課後に体育館の一角を借りて筋トレしてる奴らを見かけた事がある。


「この学校、ボクシングのリングって無いよな?」


「ああ?俺が知るかよ。転校二日目だぞ?大方、駅前あたりのジムとか借りてんじゃねぇの?今じゃボクシングの階級もプロ団体も人間と獣人で別個になってるし、部活動でリング二つも作れるような財力がこの学校にあるわけ無いしな」


 そりゃそうか。

 単純な腕力なら一部の大型な獣人が圧勝するから、色々分けないと種族的に非力な獣人や人間に勝ち目ないもんな。

 あれ?

 んじゃ、魔族と人間ならどうだろう。

 アトル王子と俺で、体格にそんなに差は無い。

 あるとすれば翼を持っているアイツの方が重いぐらいだし、人型に近い魔族だから手や足のリーチも大きな差はなかった。

 イケる……か?

 例えばグローブやヘッドギアを着用していれば、怪我の心配もグッと減る。

 重量階級で言えば俺に不利だから、条件も提示しやすい。

 ボクシングルールをそのまま適用しちゃえば、細かく色々と決める必要も無い。

 それに、俺に勝ち目が出てくる。

 リングで戦いグローブで殴り合う以上、空を飛ばれる事はそれほどハンデでも無い。

 何せ殴る瞬間なら地上に降りてこなければならないのだから。

 それに一番大きいのは遠距離魔法を封じる事ができる。この点に尽きる。

 ああ、良いんじゃ無いだろうか。

 あくまでスポーツの形態を借りれば、健全だもんな。

 イケる、イケるぞ!


「ガサラ!ここいらで貸切できそうなボクシングジムってお前知らないか!?」


「ああ?そんなの知るわけないだろ。ああ、ジムじゃないけど、俺達が借りてるアジトにはトレーニング用のリングがあるぞ?兄貴手製の奴が」


「それだ!それ貸して!」


 なんだよそれ!

 早く言えよそんな事!


「貸すってお前、ウチに来るってのか?別に構わねぇけど、一応兄貴や姉貴にも聞いておくわ」


 ヌフフ。

 おーし、段々とヤる気が出てきたぞぉ。

 最近は俺より強い奴ばっかり周りにいるから、良いとこ全然無かったしな!

 これを機会に、ジャジャとナナにカッコいいパパの姿を見せてやろう!


 俺は、リングの星になるぞ!


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